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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
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陸話 石上の平屋・壱

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


 飲み終わったコーラの瓶を錆びたゴミ箱に捨て、豪輝と玲良は横に並んで歩いた。


 数分して、豪輝が家の前で足を止めた。


「着いたぜ。ここが俺の家だ」


 門のところには釘が打たれ、その釘には木の板が小さなぶら下がっていた。

 そこには墨で直に書かれたような字体で、『石上(いそのかみ)』と書かれていた。表札代わりにつけていたのだ。


 豪輝に(うなが)され、玲良は門を通った。


 敷地面積が周りにある家より一回り広く、中央に年期の入った平屋が建っていた。


 門をくぐった途端、門の真正面にある家の入口の左側の庭の方から、動物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。


「……鶏でも飼ってるの? 」

「飼ってるぜ。それも三十匹!!! すげえだろ!! 」


 豪輝はそう言いながら、ガラガラッと玄関の扉を開けた。


「ただいまー!! 」

「お、お邪魔します……」


 玄関から見えた豪輝の家は、不思議な形をしていた。


 玄関から家の奥の壁まで一つの廊下が伸び、その廊下の左右に部屋があるといった感じだった。


「居間にばあちゃんがいると思うから、居間に行こうぜ」

「豪輝のおばあちゃん……? 」


 豪輝は廊下の右側の部屋の中で、一番玄関に近い部屋に玲良を連れて行った。



 その部屋には座卓、座椅子、、一昔前のリアプロテレビが置いてあった。

 そして、居間に置いてあった座椅子には、一人の年老いた女性が湯のみを持って正座していた。


 白髪を頭の上でお団子にして(かんざし)をさし、浴衣を着ている小柄な女性だった。


 女性は豪輝と玲良に気づいていないのか、湯のみに入っている温かいお茶をすすった。


「ばあちゃーん!!! ただいまー!!!! 」


 いきなり豪輝が、女性の近くで叫んだ。

 どうやらこの女性が、豪輝の祖母のようだった。

 あまりの五月蠅(うるさ)さに、玲良は思わず耳を塞いだ。


「ちょ、ちょっと豪輝!! 驚いておばあちゃんのお茶が喉に詰まっちゃったらどうするのよ!!! 」

「心配することねえよ。いつもやってることだし」

「それはそれで……。寿命縮まっちゃうわよ……」


 玲良が呆れていると、豪輝の祖母はゆっくりと豪輝と玲良の方を向いた。

 少し間を開けてから、口を開いた。


「あらあらぁ……。おかえり(きょう)さん。今日は帰ってくるの早かったねえ」


 驚くほどゆっくりと会話する豪輝の祖母に、玲良は「恭さん? 」と首を傾げた。

 すると豪輝は苦笑いしてから、大声で話し始めた。


「この会話何回目だろう……。俺は恭じいちゃんじゃなくて!!! ばあちゃんの孫の豪輝!! 」

「あらぁ豪輝ちゃんだったの。いつの間にかこんなにおっきくなったわねえ~」

「いやいつも見てるじゃねえかよ!!! 後ちゃん付けはやめてくれよ!!」


 頭を撫でてくる祖母に、豪輝がツッコむ。

 恭という人物は、豪輝の祖父の名前らしい。


「……んで、そこにいる別嬪(べっぴん)さんはどちら様だぁ? 」


 豪輝の祖母は玲良の方に視線を移した。

 玲良は別嬪さんと言われ少し顔を赤くしたが、コホンと咳払いをして返答した。


「は、初めまして。私は皇女(ひめみこ)玲良(れら)と言います」


 玲良がなんとか噛まないように言った。

 が、豪輝の祖母は玲良の言葉を聞いて首を傾げていた。


「もう一度言ってくれねえかぁ? 耳が遠いもんでねえ」


 玲良は「そうか」と思い、少し声量を上げて話してみることにした。


「わ、私の! 名前は……! 」 

「聞こえないねえ。もっと大きな声で喋ってくれないとねぇ。豪輝ぐらいに」

「豪輝ぐらい……」


 そう言われた玲良は、たっぷりと息を吸い込んでありったけの声を出した。



「初めまして!!!!! 私の名前は!!!!! 皇女(ひめみこ)玲良(れら)といいます!!!!! 」



 玲良が大声を出した後、辺りが一瞬静かになった。

 豪輝は、大声を出した玲良を目を丸くして凝視していた。


「そうかいそうかい。玲良ちゃんって言うんか。……あたしゃぁ石上(いそのかみ)(おし)。しがないばあさんだよ」


 そういうと、忍はお茶をすすった。


 玲良が忍を見ていると、豪輝が「なあ」と話しかけてきた。


「どうしたの? 」

「俺の声って……普段あんなにでかいのか? 」


 右手で力なく自分を指さしながら、豪輝は聞いた。



 玲良は苦笑いしながら、「自覚なかったんだ……」と呆れていた。

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