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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
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伍話 片田舎

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


 豪輝と玲良は橋の下から離れ、土手を歩いて豪輝の家へと向かった。


「あ、ナズナだ」


 玲良はしゃがんで、土手に生えていたナズナを一つ千切って持ち上げた。


「なんだその草? 変な形してんな」

「ナズナっていう植物だよ。ベンベン草とも言うんだって」


 玲良はナズナの茎から生えている無数の実を、全て下向きに軽くぴっぱって向きを変えた。

 そして、親指と人差し指で持ち、豪輝の耳元に近づけてクルクルと回した。


 すると微かに、パチパチという音が聞こえた。


「すげえ!! 何だこれ!!! 音が聞こえるぞ!!! 」


 豪輝は目をキラキラとさせていた。


「面白いでしょ。小学生の頃本で読んで知ったのよ」

「確かにおもしれえな……!! あ、でも!! 音が出る草なら、俺も知ってるぜ!!! 」


 豪輝は土手から周りを見渡し、「あった! 」と言って土手を駆け下りた。

 畦道(あぜみち)に行き、足元に生えている草を二、三本取って玲良の元に戻ってきた。


 豪輝が持ってきた草は全体的に細長く、一番上に細い楕円状の穂のようなものがついていた。


「なにこれ? 」

「スズメノテッポウって奴だ。さっきのナズナがベンベン草って呼ばれてるみたいに、こいつもピーピー草って呼ばれてるんだぜ」


 豪輝はスズメノテッポウの穂の部分を引っこ抜き、付いている葉っぱを茎との境目の部分から取れないように折った。


 折れたところを口にくわえ、豪輝は息を吹いた。


 すると、ピィーという高い音が、静かな田舎に響いた。


「なにそれ!! 笛みたいになった! 」

「こうすると草笛になるんだよ。お前もやってみるか? 」


 豪輝はそう言うと、持っていた穂のついているスズメノテッポウを玲良に手渡した。

 玲良はさっき豪輝がやっていたことを見よう見まねでやり、口に(くわ)えて息を吹いた。


 同じく、高い音が出た。


 玲良は目を丸くすると、無言でピーピーと草笛を鳴らした。


「……面白いわね、これ」

「だろ? 」


 豪輝が無垢(むく)な笑顔で言った。

 それにつられて、玲良も思わず顔がほころんだ。




「おーい。お前さんたちやー」


 突然、豪輝でも玲良でもない第三者の声が聞こえた。

 一瞬驚いて辺りを見渡すと、畦道の方に、地域住民と思われるおじいさんが立っていた。


「その制服近くの高校のだろ。なんでこんな時間にここにいるんだぁ? 」


 おじいさんの左腕をよく見てみると、『パトロール中』と書かれた腕章があった。


 豪輝と玲良は「「ゲッ」」と声を合わせた。


「ご、ごめんなさい!!! 」

「学校には言わないでください~!! 」


 そう言いながら豪輝と玲良は持っていた草を土手に投げ、その場から逃げるように走り去っていった。

 二人を目で追っていたパトロール中のおじいさんは、「フゥ」と息を吐いた。


「二人で抜け出してきて土手で草笛吹くなんざ……青春だなぁ。学校には言わねえでおいてやるか」


 腕を組んでいたおじいさんは、静かに微笑んでいた。




 無我夢中で走り、豪輝と玲良はある程度走ったところで止まった。


「つ、疲れた……。玲良、大丈夫か? 」

「豪輝……あなた、足……早すぎよ……」


 玲良が息を切らしながら豪輝に言う。


「ああすまねえ! 悪かったな。あのじいちゃん追っかけて来てねえみたいだし、ゆっくり歩こう」


 豪輝は息の切れてる玲良を支えながら、ゆっくりと歩いた。

 すると何かを発見した。


「自販機だ!!! 玲良!! コーラでも飲むか? 」


 豪輝が見つけたのは、コーラの自販機だった。

 大きくコーラと書かれており、真っ赤な色をしているのが特徴的だった。


「コーラ……? 飲んだことない。美味しいの? 」

「めちゃくちゃ美味いぞ!? 飲んでみようぜ!! 」


 豪輝は通学鞄を開け、鞄の奥底から百円玉を二枚取り出した。

 豪輝と玲良は自販機に近寄り、百円玉を一枚入れた。


 そして、豪輝は百円を入れたところの左側にある細長いドアのところを開け、横倒しで置かれている瓶コーラを手に取り、玲良に渡した。


 続けて百円玉をもう一枚入れ、豪輝自身のコーラも買った。


「……これ、どうやって開けるの? 」


 玲良は豪輝に聞いた。

 瓶の蓋を開けるためのかんぬきが、どこにもなかったのだ。


「ああそれか。こっちこっち」


 豪輝は手招きをして玲良を呼んだ。


「ここに穴があるだろ? ここに蓋をやれば……」


 自動販売機についていた小さな穴に、豪輝はコーラの蓋を突っ込んだ。

 そして、そのままグイっと下に傾けた。


 すると、簡単にコーラの蓋が取れた。

 取れたコーラの蓋は、そのまま下に落ちていった。


「ここがかんぬきになってるんだよ。お前もやってみるか? 」

「う、うん……」


 玲良は豪輝がやっていた通りに、蓋の部分を入れてコーラを下に傾けた。

 すると、カコンッと音を立てて、蓋が取れた。


 玲良は「おお……! 」と言って、目をキラキラさせていた。

 豪輝はそんな玲良を見てから、コーラをグビッと飲んだ。


「やっぱ美味え!! お前も飲んでみろよ」

「分かった……って、私さりげなく豪輝のお金で……奢ってもらっちゃってるんだけど! 今度お金返すね」

「んなことしねえでいいよ。俺が買ってやったんだし」

「じゃあお言葉に甘えて、いただきます、豪輝」


 玲良はコーラを口にした。

 最初は炭酸に驚いたが、飲んでみると後味がすっきりとしていてとても美味しかった。


「美味しい……!! 」

「そうだろそうだろ!? でも、もっと上手くなる飲み方もあるんだぜ!! 」

「そうなの? 」


「まず!! コーラ持ってない方の手を腰に当てる!!! 」

「おお! 」


 玲良は、豪輝の真似をして、腰に手を当てる。


「コーラを口に当てる!!! 」

「おお!! 」


「そしてそのまま!!! 顔を上げて勢いよく飲む!!!! 」

「おお!!! 」


 豪輝と玲良は、コーラをそのまま勢いよく飲んだ。


 一定時間飲んでから、二人同時に「「プハァー!! 」」と言った。


「本当に美味しくなってるかも!! 」

「だろ? コーラ以外の飲み物でやっても、なんか分かんねえけど美味く感じるんだぜ!! 」


 二人で笑顔で話していると突然、豪輝と玲良が「「うわっ!! 」」と同時に言って、鼻を押さえた。


 数秒して、豪輝と玲良は目を合わせた。


「ど、どうしたの豪輝……」

「ちょっと炭酸が鼻に来ちまってよ……まさか、お前も? 」


 玲良はゆっくりと頷いた。


 玲良が「フッ」と笑うと、豪輝と玲良は二人で大笑いした。

 その幸せな笑い声は、静かな片田舎に(こだま)した。

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