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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
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参話 輔翼

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


「っ!! なにやってんだよ!!! 」


 豪輝が驚いて弁当を落とす。

 そんなことは気にせずに、豪輝は屋上の淵に駆け寄った。




 玲良は目を閉じて、自分の死を待っていた。


(……あれ? 右腕が……誰かに……? )


 ふと、自分の右腕が、誰かに掴まれている感触がした。

 恐る恐る目を開けると、玲良はぶら下がっていた。


 そして、よく考えてみると、上げた覚えがないのに何故か右腕が上に上がっていた。


 視線を右腕に移すと、誰かの手があった。


「ぐぎぎ……! 」


 さらに視線を上に上げると、豪輝の姿が見えた。

 豪輝が、落ちる瞬間に玲良の右手を掴んでいたのだ。


 咄嗟に片手だけで掴んだので、豪輝の片手は玲良を支えてるせいか小刻みに震えていた。


「あ、あなた!? 何してるの!? 危ないじゃない!! 」

「お前よ……」


 玲良の右手を、落ちないようにしっかりと握りながら豪輝は話す。


「本当に……死にてえのか……? 」


 豪輝の言葉に、玲良はハッとする。

 図星をつかれたからだ。


「なんで……そんなこと聞くのよ……」

「お前が足出して落っこちる前に……お前、すんげえ悲しそうな顔してたぜ? 」

「悲しそうな…………顔? 」


 玲良は首を傾げた。


「おい……これだけは教えてくれ……。死にてえのか? それとも、死にたくねえのか? 死にてえなら……この手離すぜ」


 豪輝の言葉に、玲良は胸が苦しめられた。

 と同時に、感謝した。


「わ、私は……」


 死にたくない。そう言えば、さっき思ったやり残したことをやれる希望が見えてくる。

 玲良は、この時だけ母親を忘れ、意を決して言った。



「死にたく……ないよぉ……! 」



 そう言った瞬間に、玲良の目から今まで我慢してきた大量の涙が溢れてきた。

 豪輝は玲良の言葉を聞き、「……言ったな」と呟いてから玲良を引き上げた。





 少しの時間だったはずなのに、長い間足を付けてない感覚に見舞われた玲良は、屋上に足を付けた瞬間ふらついて四つん這いになった。


 息を整えてから、スカートの中に入っている小さい頃から使っているハンカチを取り出し、涙を拭いた。

 ハンカチは、あっという間に涙でビショビショに濡れた。


 豪輝は玲良を掴んでいた手を力を抜いて振り、落した弁当を拾った。


「どうして……」

「あ? 」


 玲良は豪輝に話しかけた。


「悲しい顔をしてたとして……どうしてあなたは、私を助けたの……? 」

「どうしてって……そりゃ、人が目の前で死んでいくのは見てられねえし……」


(やっぱそんな理由なんだ……)


 玲良が溜息を吐くと、豪輝は「それに! 」と言って付け足してきた。


「何かあったなら助けてやりてえ!!! って思っただけだ!!! 」


 豪鬼は笑顔で言う。

 その言葉に、玲良は目を丸くした。


 出会ったばかりの他人の「助けてあげたい」という言葉が、()()()にないくらい心に響いたからだ。


(なんだこの人……)


 玲良は、苦笑いした。

 その時、キーンコーンカーンコーンと、学校の昼休み終了のチャイムが鳴った。


「……チャイム鳴ったわよ。戻らないの? 」

「お前はどうするんだよ」

「私はもう早退したことになってるから……」

「そうか……」


 豪輝は少し黙った。


「次の時間理科の実験だから、サボる」


 豪輝の発言に、玲良は思わず「はい? 」と声を漏らした。


「実験よりも、まずはお前のことだ。何があったのか教えてくれよ。何かあるなら力貸すぜ」

「そんな……嫌に決まってるでしょ」

「頼むよー! 声交わした仲じゃねえか!! 」


 豪輝は手を合わせてお願いしてくる。


「……あなたの中では、声を交わした人はみんな知り合いになるの? 」

「俺はそう思ってるぜ」

「何よそれ……人生楽しそうね」


 玲良は皮肉を込めて苦笑いしながら言った。


 でもなぜか、嫌な気分にはならなかった。

 何の根拠があるのか自分でも分からないが、玲良は無意識に思った。


 この人なら、話を聞いてくれそう。


 不思議な感覚だった。


「あ、話したくねえってなら無理に話さなくても……。一人が良いってんなら、俺はおさらばするぜ」


 豪輝は気を使って玲良の様子を(うかが)った。

 玲良はそんな豪輝の様子に、クスッと笑ってしまった。


「面白くなくてもいいなら……」


 玲良はそういうと、姿勢を整えて体育座りした。


「本当にいいのか……? 」

「なによ。さっきまで教えてくれって言ってたくせに」

「じ、じゃあ……」


 豪輝は玲良の横に、ゆっくりと座った。



「そ、その前に、お前昼飯食ったのか? 」


 豪輝がそう言った瞬間、豪輝の腹からぐぅぅ~と音が聞こえた。


「私はその……死ぬ予定だったからなんにも食べてない……というか、お弁当なんか持ってきてないわよ」

「まじかよ! 腹減ってねえの? 」

「そりゃ減ってるわよ」


 玲良はお腹をさすった。

 それを見た豪輝は「それなら……」と言いながら弁当の包みを開けた。


「俺の弁当、一緒に食おうぜ!! 」


 そういって、豪輝は玲良に割り箸を差し出した。


「えっ!? いや、でも……」

「大丈夫だ! 割り箸ならもう一本ある!! 」

「そうじゃなくて……」


「なんだよ。お前腹減ってんじゃねえのかよ」 

「でも、それはあなたのだし、私がいただくわけには……」

「んなこと気にすんなよ」


 豪輝は割り箸を玲良の手に乗せた。


「死ぬ予定だったからなんも食ってねえって、お前今生きてんじゃん。だったら食えよ。大丈夫。毒なんざ入ってねえからよ」


 豪輝は二段弁当の二段目を広げた弁当包みの上に置き、一段目と二段目の弁当の蓋をどっちも開けた。

 中には白米、ウインナー、卵焼きなど、色とりどりの食材が入っていた。


 あまりにも美味しそうだったので、玲良はつい唾を飲んだ。


「食べて……いいの? 」

「おう!! 独り占めだけはすんじゃねえぞ! 」

「……ありがとうございます。石上さん」

「苗字でさん付けなんざしなくていいぞ? 俺そんな偉い人じゃねえしな」


「じゃあなんと呼べば……? 」

「普通に下の名前で呼び捨てで構わねえよ。俺もお前の事、『玲良』って呼んでもいいか? 」

「私は構わないですけど……」

「あと俺に敬語なんか使わなくていいんだぞ? もっと気楽に話せよ」


 その時、いきなり突風が吹き、弁当が飛ばされそうになった。

 そこを「危ねっ」と言って豪輝が抑えた。


「そろそろ食べようぜ」


 と豪輝が言うと、玲良は恥ずかしそうにしながら言ってきた。


「ありがとう……。ご、ごう……き……」


 玲良は豪輝に言われた通りに、下の名前で呼び捨てで呼んだ。

 モジモジしながら話す玲良を見た豪輝は、一瞬間を開けてから笑い出した。


「あはは!! しっかりしてる奴だなお前!! 礼なんざいらねえよ。とっとと弁当喰っちまおうぜ!! 玲良!! 」



 玲良は何故笑われてるか分からなかったが、豪輝の笑顔を見て緊張が緩み、言葉に甘えて豪輝の弁当を食べることにした。

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