表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
80/101

弐話 投身

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


 風を感じながら、人生最後の深呼吸をする。


 覚悟を決めて、足を踏み出そうと決意した時、後ろから聞き覚えのあるような声が聞こえた。



「なにしてんだ? お前」



 突然話しかけられ、玲良は驚いて後ろを振り向く。

 声の主は、隣のクラスのムードメーカー、石上(いそのかみ)豪輝(ごうき)だった。


 印象に残る太い眉と白い髪が特徴で、隣の教室にいても、壁を突き破って声が響いてくるぐらい声が大きい。

 高校に入ってから、玲良とこれまで一回も話したことが無かった。

 

 でも、今はそんなことどうでもよかった。

 

 身投げの瞬間を、見られそうになったのだ。


(せっかく心の準備が出来たのに……)


 玲良は豪輝の方を向いて話した。


「なんにもしてないですよ……。それより、何故あなたは屋上(ここ)に? ここは生徒立ち入り禁止なはずじゃ……」

「おまえだって生徒のくせに。俺は昼休みに、職員室から鍵盗んでよくここで(めし)食ってるんだよ。んでもって今日も鍵盗もうとしたら鍵がねえから、来てみたら屋上(ここ)のドアが開いてたって訳だ。そういうお前こそ、なんでここに居るんだよ。えっと……皇女さんだっけか? 」


 豪輝に聞かれ、玲良は口ごもる。

 玲良も同じように職員室から鍵を盗み屋上へとやってきたが、豪輝とは違い、昼飯を食べるために来たわけではない。


 豪輝が片手に弁当を持っているのに対し、玲良は手ぶらだったので、聞かれてもしょうがないと思っていた。

 玲良は、どうせ死ぬのだからいいかと思い、豪輝に話すことにした。


「……私の名前、知ってたんだ。石上さん」

「おまえも俺の名前知ってんのかよ」

「ある意味(声がうるさい)有名人だからね……」

「んで、何してんだよ」


「私がここに立ってる時点で察してくれないかしら。……ここから、飛び降りようとしてたのよ」


 その言葉を聞いて、豪輝は「は!? 」と声を出す。


「あなたには関係ないから、屋上から離れた方がいいわよ。犯人だと思われちゃうから」

「飛び降りるってお前……。何があったのか知らねえけど、それだけはやめといた方が良いと思うぜ」

「なんにも知らないくせに……今まで我慢してきたけど、もう限界なのよ」


 玲良は豪輝を睨んだ。


「もう一度言うけど、あなたには関係ない。邪魔はしないで」

「我慢って……なにかあったのかよ」


 執拗に迫ってくる豪輝に嫌気が差し、玲良は怒鳴った。


五月蠅い(うるさい)! 言わせないでよ!! 関係ないって言ってんじゃん!!! 」


 その瞬間玲良は足を動かし、空中に置いた。

 そして、重力に従って落ちていく。


 目の前で玲良が落ちていくのを見た豪輝は、驚いて持っていた弁当箱を床に落とした。



(やっと自由になれる……)


 空中に足を出した瞬間、玲良は心の中でそう呟いた。

 と同時に、ある思いがこみ上げてきた。


 学校で仲良くしてくれた友達、よくおつかいに行って親しくなった八百屋の店主。そして、身内で唯一玲良の味方をしていた、弟の舒唄。


 誰にも、お礼や感謝の一言も言わずに身を投げてしまった。


 そもそも、現在高校生なので、あと数年すれば自立出来たのだ。

 あと数年我慢すれば、死ななくても母親から解放された。


 大学や職場に行って、素敵な出会いをして、好きな服を着て、好きなものを食べて、行ってみたい場所に行って、やってみたいことをやって、寿命いっぱい生きる。


 そんな理想が、玲良の頭の中を巡った。

 しかしその理想は、たった今足を出したことによって、叶わぬ願いとなった。


 それを総じて、玲良は思った。




 死にたくない、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ