第七話 女性
「あらあら~、行っちゃった~」
ひとりで部屋を飛び出る丈弥を目で追いながら美香子が呟いた。
その後を追う為に、永介と怜が部屋を出ていく。
「……どういうこと~? 」
「美香子さん、これはというとですね……」
綺が説明した。
美香子は納得したようなしていないような顔で「そういうことなのね~」と言った。
「……美香子さんて綺麗ですね」
晃が藪から棒に言った。
「いきなりどうしたの~? 」
美香子の顔が少し赤くなる。
「本当だよ。いきなりどうしたの晃? 」
「へ? いや普通に綺麗だなーって思って」
「ははーん、さては女を弄ぶテクニックでも身に着けてるの? 」
「なにそれ? 」
晃は全く意識していなかった。綺はどう返せばいいか分からなかった。
「ありがとう~。そう言ってもらえて嬉しいわ~」
美香子がさっき向けてきたようなスマイルで返事をする。やっぱり綺麗だ。
「ところで、美香子さんはなぜ地下鉄にいたんですか? 」
「え~? ただ買い物に行ってただけよ~。まぁ買い物袋とかはどっかにおいてきちゃったんだけどね~」
美香子は「あの中冷凍食品はいってるのに~」と言ったが、仮にここに買い物袋を持ってきていたとしても冷やせないであろう。
晃が美香子の指を見た。
「美香子さん、まだ結婚してないんですか? 」
「ちょっと晃! 」
綺が晃に注意しようとする。美香子の返事はすぐ返ってきた。
「そうよ~。いつでもウェルカム状態よ~」
美香子口元を抑え「フフフ」と笑っていた。
「そんな。美香子さんこんなに綺麗なのに。最近の男は見る目が無いね!」
「いや、僕はある! 」
そんな会話を美香子の傍らでしていた。
「そんなに褒めてくれるなんて~。二人はお世辞がうまいのね~」
「「そんな、お世辞だなんて!」」
二人の声が被った。その直後の「「あっ」」という声も被って、その場に笑いが響いた。
また丈弥たちが誰かを連れて帰ってきた。
「子供じゃん。親とはぐれたのかな?」
「分からねぇ。とりあえず放っておくと食われるから連れてきた」
「お名前なんていうんですか~?」
美香子が子供に聞いた。
「ゆな! やまみねゆな! 」
「ゆなちゃんっていうのか。これはこれでありだな」
永介が真顔でいうので綺は少し笑ってしまった。
美香子が「よく言えました~」とゆなの頭を撫でる。ゆなは笑っている。
「……っていうかさ」
あまり話してなかった怜が口を開く。
「今何時? 眠いんだけど」
言われてみれば。あまりにも急にいろんなことが起きていて、眠気が全然しなかった。
「ちょっとまってて。今確認してみるから」
丈弥が携帯をとりだす。
「……午後……いや、午前一時過ぎ!? 」
そんな時間だったのかと、ゆな以外の人たちが驚く。
「はぁ、仕方ないか」
怜は何冊かの休憩室に置いてあった冊子をみんなに配る。
「もう遅いからみんな今配ったやつを枕代わりにして寝ろ。扉は俺が固定しておく」
「そういわれると眠くなってきたなー」
「……永介。くれぐれも女に変な気を起こすなよ」
「な、こんな状況になってそんなこと考えるわけないだるぉぉ? 」
永介は図星を突かれたかのようにどうようしている。
「おやすみー」
丈弥が部屋の電気を消す。
綺はその日に初めてであった人と同じ部屋で寝泊まりするというのは初めての経験だったが、むしろ安心して疲れのあまりすぐに寝てしまった。
みんなが眠りについて一時間後、晃はトイレに行きたくなり、目が覚めた。