第七十一話 再起
人の声のしない駅内に、衝突音が響く。
外の人間に知られていないこの空間では今、二人の異形の者たち同士の殺し合いが行われていた。
「大体、なんであいつら喰うの駄目なんだよ!!! おまえだって、最初は喰ってたじゃねえかよ!!! 」
「あの頃は、ご主人様に命令されてて仕方なかったのよ!!! 」
「だったら俺だって今命令されてるんだぞ? 喰っちゃいけねえ理由なんざねえじゃん!!! 」
「それは……」
殴り合いながら、アナホベとハシヒトは口論していた。
ハシヒトが返答に困り隙が出来た瞬間に、アナホベがハシヒトの腹に左拳を打ち込んだ。
痛みに表情を歪めながら、ハシヒトは後方へと飛ばされた。
なんとか転倒せずに済んだが、すぐ次の攻撃が来る。
アナホベがハシヒトに詰め寄り、ハシヒトの首めがけて右足を上げて回し蹴りを打ち込んできた。
ハシヒトに当たった感触があり、アナホベは やったか? と考えていたが、その判断は間違っていた。
確かにアナホベの蹴りは当たっていたが、アナホベとハシヒトの首の間に、ハシヒトの手があった。
ハシヒトはそのままアナホベの足を掴み、手を上に上げ、勢いをつけて地面に打ち付けた。
「あ゛っ!! 」と短い声を出してから、アナホベは吐血した。
ハシヒトはアナホベの足から手を離し、少し離れた。
そして、ハシヒトの予想通りアナホベはすぐに立ち上がった。
床に血をペッと吐き、左手で血の付いた口元を拭いた。
「……結構やるじゃねえか」
「褒めてもらわなくて結構よ」
そこから、殴り殴られ蹴り蹴られる戦いが続いた。
お互いが、お互いを殺すつもりで戦っていた。
痛みなどは、途中から感じなくなってきていた。
ただ自分の力、殺意を込めて、ひたすら相手に攻撃を与えていた。
アナホベとハシヒトは、どちらとも限界を迎えてきていた。
手は初めに片方折れ、相手からの殴打などを受けてダメージが蓄積されていた肉体。
二人の体は、既に満身創痍だった。
二人の荒い息遣いが、その場に響き渡っていた。
「負けて……たまるか……! 」
アナホベは力を振り絞り、ハシヒトに突進した。
しかし、体力はすでに限界。
下手をすれば、この突進が諸刃の剣となり、ハシヒトと共にアナホベも死ぬ可能性があった。
そのようなことを、アナホベは考えていなかった。
ハシヒトは動かなかった。
動かないハシヒトをめがけて、アナホベはそのまま突進していった。
「これで……俺の……勝ち……! 」
アナホベがそう言った時だった。
やめなさい!! 豪輝!!!
アナホベの耳に、どこかからか声が聞こえてきた。
ハシヒトの声でも、ただただ戦いを見ていた綺たちの声でも、誰の声でもなかった。
男性の声。それも、五、六十代ぐらいの声だった。
ショウアンとは違った、ハキハキとしてる声だった。
この声は………………。
「…………父ちゃん………………? 」
ベタですねえ




