第七十話 仲間割れ
「っぁ……!! 」
突然のハシヒトの攻撃と手へのダメージにひるみ、アナホベは後ろへと下がった。
ハシヒトは眉間に皺を寄せ、犬歯を見せながら歯ぎしりし、アナホベを睨んだ。
「アナホベのバカ!!! 豪輝のバカ!!! そんなことして、あなたのおばあちゃんが、お父さんが……!! 喜ぶとでも思ってるの!? いい加減にしなさい!!!! 」
ハシヒトは感情に任せて叫んだ。
アナホベは一瞬ポカーンとしていたが、頭に血が上って正常な判断が出来なくなっていた。
聖間の命令を受け、血の流れが活発化し、アナホベの体温は上がっていた。
そのせいで脳が混乱し、アナホベは普段通りの行動が難しくなっていたのだ。
ハシヒトの言葉を聞いて、アナホベは言い返した。
「……うるせえ!! 俺の名前が豪輝だの、ばあちゃんだの父ちゃんだの、んなもん覚えてるわけねえだろ!! それより!! 邪魔すんじゃねえよ!!! 俺は綺たちを喰えって言われてんだよ!!! 分かったらさっさとどけ!!! 」
柄にもなく反論するアナホベに、ハシヒトは一瞬、憐みの目を向けた。
「……嫌よ」
「あ? 」
「嫌って言ってるのよ!! 蘇我見さんたちは食べられてほしくないし、あなたにだって人を食べてほしくない!! 」
ハシヒトは腕を広げ、綺たちをかばう仕草をした。
「てめえ……ふざけるのもいい加減にしろよ」
「そっくりそのまま、その言葉返すわ」
反論するハシヒトに対し、アナホベは一回舌打ちをした。
「どかねえってなら、お前もろとも殺すぞ!! 」
「いいわよ」
予想外の発言に、綺と晃、そしてアナホベも驚いた。
「蘇我見さんたちは食べさせない……!! 食べたいなら、私を殺してからにしなさい!!! 」
ハシヒトの声は、静まり返っていた駅内に谺した。
数秒後、アナホベは折れていない左手の指をパキパキと鳴らし始めた。
「上等だ……。ぜってーてめえを殺して!!! ご主人様の命令を果たす!!! 」
「かかってきなさいよ!!! 蘇我見さんたちは絶対に死なせない! そして!!! あなたの記憶を、蘇らせてみせる!!! 」
ハシヒトは折れてない方の手を出し、構えた。
アナホベとハシヒト。両者が睨み合う。
その場の雰囲気に気圧され、綺と晃は鳥肌が立っていた。
「わ、私たちは、どうすれば……」
綺が呟くと、ハシヒトが振り返って答えた。
「危ないですので、蘇我見さんたちはどこか安全な場所へお逃げください」
ハシヒトは綺たちを安心させるためか、微笑みながら言った。
ハシヒトが綺たちの方に振り向いた瞬間、アナホベがハシヒトの方に迫ってきた。
左手の爪を立て、腕を振ろうとしていた。
アナホベに気づいた晃が、「ハシヒトさん! 後ろ! 」と言ってる途中に、ハシヒトは動いていた。
綺たちへ微笑んでいた表情が一転し、ハシヒトは目つきを変えてアナホベの奇襲を避けた。
そして、無防備になっていたアナホベの腹に、ハシヒトは腕を曲げ、肘を打ち込んだ。
アナホベの体はくの字に折れ、そのまま後ろへ飛ばされた。
「では、ちょっと失礼します」
ハシヒトは再度微笑んでから綺たちに会釈をし、アナホベの方へと向かった。
「……僕たちは、ここから離れた方がいいかな? 」
「イイジャン、ミテコウヨ」
「オモシロソウダシ」
「面白そうって、あんたらねえ……」
場違いな発言をするスイコとテンノに、綺は溜息を吐いて呆れていた。
足でブレーキをかけ、なんとか転ぶことは避けたアナホベ。
その前に、ハシヒトが立った。
何回か咳をしてから、アナホベは話し始めた。
「不意打ちしたのに逆に不意打ち受けちまったな……」
「あらごめんなさいね。お腹ががら空きだったのでつい」
ハシヒトは下目使いで言った。
「分かってると思うけど、今のは余興、つまりジャブよ。本番はこれから。……私も、殺すつもりでやるわよ」
ハシヒトはアナホベと同じく、折れてない方の手の指を、パキパキと鳴らした。
「嘗めやがって……! 」
アナホベは歯を剥き出しにして、ハシヒトを睨んだ。
そこから、アナホベとハシヒトの殺し合いが始まった。
小説でバトルシーン書くの難しい(切実)




