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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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第六十九話 放逐

「ということがあったんです」


 ハシヒトが説明した。

 その説明を聞いて、晃が「もしかして……」と口を開いた。


「アナホベさん、さっき『ご主人様に喰えって言われた』、みたいなこと言ってましたよね? 多分ですけど、ハシヒトさんがこのまえ(第四十話)言ってたのと同じで、アナホベさんもご主人……()()()()()()()()()()()のでは……? 」


 晃の言葉に、綺とハシヒトがハッとする。


「そうか……。その話で行けば、社長がアナホベに命令して今に至るって、辻褄があうね」


 綺は無意識にアナホベを呼び捨てで呼んでいた。

 

 その時、綺たちのすぐ後ろから、人間のものではない声が迫ってきていた。


「ニンゲン……ニンゲンダァ……」

「クイタイヨ……クイタイヨ……」


 呻き声の中から、時々聞き取れる声もあった。

 そのおぞましさに、ヨウダイは綺の後ろに隠れた。


「怖いわ……怖い……」


 怯えるヨウダイの声を聞いて、綺はあることに気づいた。


(バキュロの喋り方と、ヨウダイさんの喋り方って、なんか似てね? )


 これもあの薬(ミホトケ)の副作用なのかな? 

 そんなことを考えていると、横から「綺! 危ない! 」という晃の声が聞こえた。

 咄嗟に顔をあげると、綺の目の前までバキュロが迫ってきていた。


 あ、これ死んだな。と心の中で綺が思い目を閉じた瞬間、目の前まで迫ってきていたバキュロたちが、全員真横へと吹っ飛んでいった。

 強い力で飛ばされたのか、吹っ飛んでいったバキュロたちは壁にぶつかり、全員血を吐いて斃れて行った。


 物凄い音が聞こえ、綺は恐る恐る目を開いた。


「お怪我はありませんか!? 蘇我見さん! 」


 ハシヒトが心配そうに言ってきた。

 綺は状況が理解できず、晃に聞いた。


 晃はハシヒトの方を向いて、目を丸くしていた。


「……何があったの? 」

「ハシヒトさんがバキュロにこう……バチーン!! ってやったんだよ。バチーン!! って! 」


 晃が手のひらを広げて、大きく振っている。

 綺は、 ビンタしたって言いたいのかな? と解釈していた。


「まだいるわ……いっぱい……いっぱい……」


 ヨウダイが残っているバキュロを見ながら言う。

 バキュロの大群は、一目散にヨウダイに手を伸ばす。


 そこを、晃がバットを振って追っ払った。


「サスガコウ」

「オトコマエー」


「でしょー!? もっと褒めろー! 」


 スイコとテンノに褒められた晃はテンションが上がり、残ったバキュロを全て(たお)していった。


「どんなもんだい! 」

「普通にすごいね」


 晃が胸を張った。

 綺は素直に褒めた。


「おま……えら…………」


 不意に声が聞こえ、綺と晃は同時に振り向く。

 下を向きながら、アナホベがゆっくりと一歩一歩近づいてきていた。


 足に重みがかかってるのか、歩くたびにアナホベの足が数ミリ床に沈んでいた。

 歩くたびに足跡が出来ていた。


 一応スリッパのようなものは履いていたが、穴が開いていたり破けていたりと、履いている意味がないぐらいボロボロになっていた。

 そしていきなり、


 ゴッ!!


 というコンクリートが砕ける音と共に、アナホベが素早く移動し、綺とヨウダイの目の前まで来ていた。


「とっとと……!! 喰わせやがれえええええ!!!!! 」


 アナホベは右手に握りこぶしを作り、綺たちに振りかざした。


 刹那の出来事だったので、綺とヨウダイは足を動かせなかった。


(せめて、ヨウダイさんだけでも……! )


 綺はしがみついてくるヨウダイを抱きしめ、目を閉じた。

 その時、パァン! という音が耳元で聞こえた。


 あれ? 痛くない?


 綺は目を開いた。


 アナホベの拳は……ハシヒトの折れてない片手に包まれていた。

 ハシヒトが細かく震える。


「……何やってんのよ!!!! 馬鹿っ!!!!!! 」



 ハシヒトはそのまま手に力を入れ、アナホベの手を握りつぶした。

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