第六十八話 枕
場面は変わって、美香子と鐵昌の話になります
※展開が早いのでご注意ください
硬い床にで寝るのは慣れたが、眠たくもない時に頭を長時間、しかも横向きでキープしているのは、流石に頭が痛くなってくる。
本当は顔を天井に向けたいが、そうすると吐き気がこみ上げて怠くなってくる。
寝っ転がったままの体制で、手の届く範囲に冊子が置いてあった。
鐵昌は手を伸ばして冊子を手に取り、頭の下に敷いた。
何もないよりはマシだったが、如何せん冊子が薄いので、ほぼ何も敷いてないのと同じような感じだった。
鐵昌が冊子を枕代わりにしているのを見て、美香子は話しかけた。
「もしかして~……枕が欲しいんですか~? 」
美香子にそう言われ、鐵昌は無言で頷いた。
「枕ですか~……。ちょっと待っててください~」
美香子はそう言うと、従業員部屋から出て行き、コンビニの店内へと向かった。
(流石のコンビニでも、枕は置いてねえだろ……)
そう思いながら、鐵昌は美香子の背中を見届けた。
数分後、美香子が色々なものを手に持ちながら帰ってきた。
「枕は置いてませんでしたけど~代わりになりそうなやつ色々持ってきました~」
美香子は鐵昌の横に座った。
持っていたものも置いたが、鐵昌は美香子が持ってきたものの中に、いくつかおかしいものがあることに気づいた。
「少しだけ頭をあげてください~」
美香子にそう言われ、少し不安がありながらも鐵昌は頭をあげた。
そして、頭の下にガサゴソと音を立てながら、何かを置いた。
「……一応聞くけど、なに置いたんだ? 」
「『コンソメポテトチップス ビッグバージョン』です~」
ビッグバージョンというのは、普段のポテトチップスの二倍ぐらいの大きさの袋のポテトチップスだ。
鐵昌は嫌な予感しかしなかったが、ゆっくりとポテチに頭を付けた。
鐵昌の頭の重みで、中のポテチがグシャグシャと割れる音がうるさいほど聞こえる。
「どうですか~? 」
「どうですかって……下手したらこれ、破裂すr」
鐵昌が喋っているタイミングで、ポテチの袋が中の空気のせいで パァン!! と破裂した。
中のポテチが、いくつか飛び出す。
袋の中の空気が無くなり、ポテチの袋がペッチャンコになったので、鐵昌は袋越しに頭を床に ゴッ っとぶつけた。
鐵昌は無言で頭を抑えた。
「だ、大丈夫ですか~!? ごめんなさい~! 」
「大丈夫だ……。言わんこっちゃねえな……」
鐵昌が頭をあげ、美香子がポテチを回収した。
そして、「お次はこれです~」と言って、美香子は再び鐵昌の頭の下に何かを置いた。
「……次はなんだ? 」
「スポンジです~。といっても~普通のがなかったので~ステンレスのものを持ってきました~」
「は……? ステンレスって……」
鐵昌は渋々頭を乗っけた。
横向きで寝るので耳を付けなければならないのだが、ステンレスのスポンジは、直接肌に触れるとかなりのダメージが来る。
しかも髪が絡まるので、動くたびにプチッという音と痛みがする。
「……やめた方がいいですか~? 」
「そうしてくれ」
鐵昌が頭をあげると、髪に絡まってスポンジも一緒に上がった。
美香子は髪が抜けないようにスポンジをとった。
「あと他に色々ありますけど~どれがよさそうとかありますか~? 」
鐵昌は美香子の横に視線を移した。
お弁当、おにぎり、ウエハースなど、どれも悲惨な未来が見えるものばっかりだった。
「……ノートとか、雑誌とか無かったのかよ」
「それがですね~、このまえ入ってきたバキュロの血や体液がついてしまっていて~。あ~! でも上からビニール袋とかかぶせたらいけるかもしれません~! 」
「そこまでしなくても……もう大丈夫だ。……冊子敷いて寝る」
鐵昌は冊子を手に取って、頭の下に敷いた。
美香子は他に、何か枕の代わりになる物はないかと考えていた。
その時、美香子の頭にあるアイデアが浮かび、手をポンッと叩いた。
「鐵昌さん~! ちょっとまだ頭下げないでください~! 」
「あ? なんだよ」
下げようとしていた頭を止め、鐵昌は再度上げた。
腹筋のような動きをしているので、腹に鈍い痛みがきていた。
美香子は鐵昌に頭をあげるように命令すると、正座をして、膝を鐵昌の頭の下にやった。
「……なにしてんだお前」
「枕です~! 」
鐵昌はポカーンとしていた。
「もしかして~、少し高かったですか~? なら~足伸ばしますよ~」
「そういう問題じゃねえ」
「?」
「……膝枕か……? 」
「そうですよ~? 」
鐵昌は大丈夫と言って、美香子の膝枕を断った。
美香子は鐵昌が何故膝枕を拒否するのかが分からず、首を傾げた。
「何もないよりはよくありませんか~? 」
「無いよりはマシだろうけどよ……」
鐵昌はため息を吐いた。
「一回だけ頭乗せてみてくださいよ~。意外といいかもしれませんよ~? 」
美香子が言う。
鐵昌は中途半端に頭をあげていたので、腹部打撲の痛みも相まって、腹筋に限界が来ていた。
「……分かったよ」
美香子に退けと言っても退きそうにないので、鐵昌は仕方なく頭を降ろした。
美香子の足は柔らかく、頭を乗せた瞬間に少し沈んだ。
鐵昌は吐き気を抑えるために頭を横に向けた。
すると、視界がピンク色に染まった。
美香子の服の色だった。
鐵昌は慌てて逆の方を向いた。
数分間、沈黙が続いた。
鐵昌は美香子に膝枕され、何だこの状況……。と思いつつ、眠りそうになっていた。
その時、ハッと何かを思い出し、鐵昌の顔が青くなった。
「……おい、美香子」
「なんでしょうか~? 」
「……今の状況、聖間に見られてんじゃねえか? 」
「いいんじゃないですか~? 」
「どんくせえのかわざとなのか……。よく考えてみろよ……」
鐵昌に言われ、美香子は考えた。
二人きり、男女、膝枕……。
この状況を、他人に見られたら……。
美香子の顔が、段々と赤くなっていった。
「そ、そういうことですか~! す、すみませんでした~!!! 」
美香子は慌てて膝を抜いた。
いきなり抜くので鐵昌の頭は重力に従い、再び床にぶつかりそうになった。
美香子は「しまった~! 」と言いながら、鐵昌の頭の下に自分の手を敷いて、頭を受け止めた。
「またしてもすみませんでした~……」
「お前なあ……」
美香子はゆっくりと鐵昌の頭を床に降ろした。
その時、冊子を敷いた。
(恥ずかしいわ~……。ああもう~! 私の馬鹿~!! )
美香子は、軽く自分の頬をひっぱたいた。
……ちなみに、聖間はこの時会議をしていたので、美香子と鐵昌のことは見ていなかった。
綺たちの方はあんなことになってるのに、
この人たちなにしてんだし




