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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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第六十六話 哀愁

 投げ飛ばされたハシヒトは、勢いを落とすことなく綺たちの方へと飛んできていた。


「ハシヒトさんが飛んで来たー!! 」

「う、受け止めた方がいいかな? 」

「受け止めるって、あの勢いじゃ受け止めきれないだろうし、もしハシヒトさんの肌を触っちゃったら……」


 綺が言っている途中に、ハシヒトはすぐそこまで迫ってきていた。


 どうしようかと綺と晃が悩んでいるときに、晃の方からスイコとテンノが降りた。


「ワタシタチガ」

「ナントカスル」


 スイコとテンノは足に力を籠めて床を蹴り、飛んでくるハシヒトと同じくらいの勢いで移動した。


 背中を向けて飛んできていたハシヒトにスイコとテンノは近づき、スイコとテンノがハシヒトの背中を支えた。

 ハシヒトは支えてきたスイコとテンノの勢いでスピードを殺され、一気に減速して背中を支えられたまま床に着いた。


 ハシヒトは自分の背中を支えてるスイコとテンノに気づき、慌てて立ち上がった。


「スイコさん!? テンノさん!? 」

「フー、マニアッタ」

「ブジデナニヨリ」


 ハシヒトは「ありがとうございます」と、スイコとテンノに頭を下げた。

 その様子を見ていた綺は、ハシヒトの手が不自然なことに気づいた。


「ハシヒトさん、その手は……」

「さっきアナホベに掴まれたとき、数本折れてしまったようで……。ご心配は無用です」


 折れたというのは、骨の事だろう。と綺は心の中で悟った。

 折れた手は、ハシヒトの腕の動きに合わせて揺れていた。


「ハシヒトさん。あの、アナホベ……さんになにかあったんですか? なにか、様子がおかしい気が……」


 晃がハシヒトに聞いた。

 ハシヒトは、数秒置いて答えた。


「実は、私が蘇我見さんたちと別れたあの後……」




 ハシヒトは綺たちと別れた後に、アナホベの元へ向かった。

 投げ飛ばされたアナホベは、地面に座りながら頭を掻いていた。


「ハシヒト!!! もうすぐであいつ喰うこと出来たのによ!! なにしやがるんだよ!! 」


 アナホベがハシヒトに怒鳴る。


「人間は食べ物じゃありません!! この前も言ったけど、私たちだってもともとは人間だったのよ!? 」

「もとが人間だったから何だってんだよ!! だったら、今人間じゃねえなら喰ってもいいってことなんじゃねえのか? 」

「いや、私が言いたいのはそういうことじゃなくて……」


 ハシヒトは頭を軽く掻いた。


「大体、俺って本当にもともと人間だったのかよ? 」

「……は? 」


 アナホベの発言に、ハシヒトは思わず腑抜けた声が出た。


「そんな記憶、俺の中にないんだけど」


 アナホベは、ハシヒトと違って人間の頃の記憶が無い。

 こんな反応をすることは予想がついていたが、実際に言われるとこんなに悲しい気持ちになるんだな、とハシヒトは心の中で思った。


「もしかして、嘘ついてるとかじゃないのか? 」


 アナホベのその言葉に、ハシヒトの中で何かが切れた。



「嘘なんかじゃないわよ!!!!! 」



 ありったけの大声を出した。

 アナホベに人間の頃の記憶がないのは分かっているのに、感情的に怒鳴ってしまう自分に嫌気がさして下を向いた。


 普段大声何て出さないハシヒトの大声を聞いて、アナホベは何故怒鳴られているのか分からず目を丸くしていた。


 数秒間が開いてから、ハシヒトの目から、涙がこぼれた。


「ハシヒト……? 」


 アナホベがハシヒトに話しかける。


「……豪輝(ごうき)


 ハシヒトは蚊の鳴くような声で呟く。


「あ? なんか言ったか? 」


 アナホベが耳を傾ける。

 ハシヒトはアナホベの方を向き、涙声で喋った。



アナホベ(あなた)の本当の名前は……石上(いそのかみ)豪輝(ごうき)よ……」

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