番外編茶番・弐 愛してるゲーム(改)
あくまで番外編なので、鐵昌のお腹は補正で一旦治ってます
スイコ、テンノ、ヨウダイは出てきません。
「愛してる」
「もう一回」
「愛してる」
「もういっ……くっ……、駄目だぁ…」
赤くなった顔を、綺は両手で覆った。
「はーい。照れたから綺の負けー」
晃は綺と真逆で、なにも気にしている様子はなかった。
「……何やってんだお前ら? 」
鐵昌がエアガンにBB弾を入れながら、不思議そうな顔で尋ねる。
「愛してるゲームってやつですよ」
「一人が『愛してる』って言って、もう片方が『もう一回』と言って、一人が『愛してる』って言う…ってのを繰り返して、照れた方が負けというゲームです」
晃が説明する。
鐵昌は「そんなのあるんだな……」と小声で呟いてから、エアガンを机の上に置いて、水を飲んだ。
「鐵昌さんも、美香子さんとやってみたらどうですか? 」
「は?」
「私たちが~? 」
突然の綺の提案に、隣で話を聞いていた美香子と鐵昌から腑抜けた声が漏れた。
「ほほう……。美男と美女の愛してるゲームは興味ありますなぁ……」
晃が少しニヤニヤしながら、美香子と鐵昌を同時に見た。
「そういえば、前に僕が読んだ漫画で『愛してるゲーム(改)』とかいって、‘‘四字熟語だけ,,で愛してるゲームやってるやつあったよ」
「えっ、なにそれムズ! 四字熟語って…例えば何があるの? 」
「容姿端麗とか才色兼備とか……他にも色々あるらしいよ」
「へえ~そうなんだ。……というわけで鐵昌さん、美香子さん。やってみてくださいよ! 」
「何がというわけでだよ。やるわけねえだ……」
「面白そうね~! 」
美香子は興味を示し、目をキラキラさせていた。
美香子はそのキラキラした眼を、鐵昌の方に向けた。
「やってみましょうよ~」
「本気で言ってんのかよ……」
鐵昌は最初は断っていたが、美香子からの熱い視線に負け、いやいややることになった。
鐵昌がゲームをやると聞いた綺と晃は、「マジか! 」と驚いていた。
「まず最初に、二人で向き合ってください。どっちが『愛してる』と言うかを決めたら、ゲームスタートです」
晃に言われた通り、美香子は鐵昌の目線の先に座った。
「どっちが言いますか~? 」
「……どっちでもいいぜ」
「一番困る答えだわ~。だったら、勝った方が言うということで~、ジャンケンで決めましょう~! 」
美香子が拳を出す。
それを見て、鐵昌も渋々拳を出した。
「最初はグ~、ジャンケンポン~! 」
二人の手が出される。
美香子はパー、鐵昌はグーだった。
「美香子さんの勝ちだ! 」
「ってことは、最初は美香子さんが言うんだ! 」
と言った途端に、晃は鼻を抑えた。
鼻血が出そうになったのだ。
「それじゃあ~、初めてもいいですか~? 」
鐵昌は無言で頷いた。
「じゃあ行きますよ~。愛してる~」
「もう一回」
「愛してる~」
「もう一回」
「……愛してる~」
美香子の顔が、段々と赤くなっていく。
「もう一回」
「愛~……して~……る~……。」
声が段々と震えていき、美香子はとうとう下を向いた。
「照れた! 鐵昌さんの勝ちだ! 」
「意外と恥ずかしいのね~。でも、面白かったわ~」
「……全然勝った気がしねえ……」
少ししてから、美香子が両手で頬を覆う。
冷えていた手に、顔の温度を吸い取られてるような感じがした。
「次は逆でやってみてくださいよ! 」
「鐵昌さんが言うんです! 」
綺と晃が鐵昌を見ながら言う。
二人とも、鐵昌の「愛してる」という言葉を聞いてみたかったのだ。
「私はもう準備オッケ~よ~! 」
美香子の顔の赤みは、ある程度引いていた。
鐵昌は数秒してから、美香子の方を見た。
「あ……」
鐵昌が頭文字を言う。
綺と晃は、耳を傾けていた。
美香子も、無意識に唾を飲んでいた。
「あ……あ……」
「……鐵昌さん? 」
「あ」以外何も言わない鐵昌に、綺、晃、美香子は首を傾げた。
「……言えねえ」
鐵昌は、左手で両目を隠して下を向いた。
その様子を見て、綺と晃は心の中で叫んでいた。
((てっ…鐵昌さんが照れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! ))
「え~っと~……。私の勝ち~かしら~? 」
状況がいまいち理解できない美香子が、綺たちに聞く。
「み、美香子さんの勝ちだと、思いますよ」
綺が笑いをこらえながら言った。
「鐵昌さんもやっぱり人間なんだなぁ……」
「……うるせえ」
鐵昌は晃を軽く睨んだ。
「愛してるが言えないなら、さっき晃が言ってた四字熟語でやってみたらどうですか? 」
「……そんな知らねえけど、それなら多分言える」
鐵昌には謎の自信があった。
「それじゃあ~もう一回ですね~」
美香子は姿勢を正し、鐵昌を正面から目を合わせた。
「才色兼備」
「もう一回~」
「容姿端麗」
「もう一回~」
「閉月羞花」
「もう一回~」
「雲中白鶴」
「……もう一回~」
「春風駘蕩」
「……もう一回~」
鐵昌が四字熟語をまくしたてる。
「凄……なに言ってるのか全く分かんない……」
「それな」
綺と晃は、ぼうぜんと美香子と鐵昌の愛してるゲームを見ていた。
「一顧傾城」
「そ、そんな~! 言いすぎですよ~! 」
美香子はつい本音を吐露してしまった。
ハッ! と声を出してから、美香子の顔が赤くなっていく。
「ま、参りました~! 」
美香子の恥ずかしさが絶頂になり、従業員部屋を飛び出してトイレに走り去ってしまった。
綺と晃は、ポカーンとしていた。
「えーっと……。鐵昌さんの勝ち……? 」
「多分そうだと思うけど…。そんなに恥ずかしかったのかな? 」
「分かんない。鐵昌さん。さっき鐵昌さんが言ってた四字熟語の意味ってなんですか?……鐵昌さん? 」
晃が鐵昌に話しかけるも、鐵昌の様子がなにかおかしいことに気づいた。
一点を見つめたまま、ボーっとしていたのだ。
「……あ?……すまねえ聞いてなかった。呆けちまってて……」
鐵昌はそう言いながら水を手に取って飲んだ。
冷たい水が体内に入った瞬間、鐵昌は自分の体温が下がっていくのを無意識に感じた。




