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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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番外編茶番・弐 愛してるゲーム(改)

あくまで番外編なので、鐵昌のお腹は補正で一旦治ってます

スイコ、テンノ、ヨウダイは出てきません。

「愛してる」


「もう一回」


「愛してる」


「もういっ……くっ……、駄目だぁ…」

 赤くなった顔を、綺は両手で覆った。


「はーい。照れたから綺の負けー」

 晃は綺と真逆で、なにも気にしている様子はなかった。


「……何やってんだお前ら? 」


 鐵昌がエアガンにBB弾(球形弾)を入れながら、不思議そうな顔で尋ねる。


「愛してるゲームってやつですよ」

「一人が『愛してる』って言って、もう片方が『もう一回』と言って、一人が『愛してる』って言う…ってのを繰り返して、照れた方が負けというゲームです」


 晃が説明する。

 鐵昌は「そんなのあるんだな……」と小声で呟いてから、エアガンを机の上に置いて、水を飲んだ。


「鐵昌さんも、美香子さんとやってみたらどうですか? 」


「は?」

「私たちが~? 」


 突然の綺の提案に、隣で話を聞いていた美香子と鐵昌から腑抜けた声が漏れた。


「ほほう……。美男と美女の愛してるゲームは興味ありますなぁ……」


 晃が少しニヤニヤしながら、美香子と鐵昌を同時に見た。


「そういえば、前に僕が読んだ漫画で『愛してるゲーム(改)』とかいって、‘‘四字熟語だけ,,で愛してるゲームやってるやつあったよ」

「えっ、なにそれムズ! 四字熟語って…例えば何があるの? 」


容姿端麗(ようしたんれい)とか才色兼備(さいしょくけんび)とか……他にも色々あるらしいよ」

「へえ~そうなんだ。……というわけで鐵昌さん、美香子さん。やってみてくださいよ! 」


「何がというわけでだよ。やるわけねえだ……」

「面白そうね~! 」


 美香子は興味を示し、目をキラキラさせていた。

 美香子はそのキラキラした(まなこ)を、鐵昌の方に向けた。


「やってみましょうよ~」

「本気で言ってんのかよ……」


 鐵昌は最初は断っていたが、美香子からの熱い視線に負け、いやいややることになった。

 鐵昌がゲームをやると聞いた綺と晃は、「マジか! 」と驚いていた。



「まず最初に、二人で向き合ってください。どっちが『愛してる』と言うかを決めたら、ゲームスタートです」


 晃に言われた通り、美香子は鐵昌の目線の先に座った。


「どっちが言いますか~? 」

「……どっちでもいいぜ」

「一番困る答えだわ~。だったら、勝った方が言うということで~、ジャンケンで決めましょう~! 」


 美香子が拳を出す。

 それを見て、鐵昌も渋々拳を出した。



「最初はグ~、ジャンケンポン~! 」



 二人の手が出される。

 美香子はパー、鐵昌はグーだった。


「美香子さんの勝ちだ! 」

「ってことは、最初は美香子さんが言うんだ! 」


 と言った途端に、晃は鼻を抑えた。

 鼻血が出そうになったのだ。


「それじゃあ~、初めてもいいですか~? 」


 鐵昌は無言で頷いた。



「じゃあ行きますよ~。愛してる~」


「もう一回」


「愛してる~」


「もう一回」


「……愛してる~」

 美香子の顔が、段々と赤くなっていく。


「もう一回」


「愛~……して~……る~……。」


 声が段々と震えていき、美香子はとうとう下を向いた。



「照れた! 鐵昌さんの勝ちだ! 」

「意外と恥ずかしいのね~。でも、面白かったわ~」


「……全然勝った気がしねえ……」


 少ししてから、美香子が両手で頬を覆う。

 冷えていた手に、顔の温度を吸い取られてるような感じがした。


「次は逆でやってみてくださいよ! 」

「鐵昌さんが言うんです! 」


 綺と晃が鐵昌を見ながら言う。

 二人とも、鐵昌の「愛してる」という言葉を聞いてみたかったのだ。


「私はもう準備オッケ~よ~! 」


 美香子の顔の赤みは、ある程度引いていた。

 鐵昌は数秒してから、美香子の方を見た。


「あ……」


 鐵昌が頭文字を言う。

 綺と晃は、耳を傾けていた。


 美香子も、無意識に唾を飲んでいた。


「あ……あ……」


「……鐵昌さん? 」

 「あ」以外何も言わない鐵昌に、綺、晃、美香子は首を傾げた。



「……言えねえ」



 鐵昌は、左手で両目を隠して下を向いた。

 その様子を見て、綺と晃は心の中で叫んでいた。

 


((てっ…鐵昌さんが照れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! ))



「え~っと~……。私の勝ち~かしら~? 」

 状況がいまいち理解できない美香子が、綺たちに聞く。


「み、美香子さんの勝ちだと、思いますよ」


 綺が笑いをこらえながら言った。


「鐵昌さんもやっぱり人間なんだなぁ……」

「……うるせえ」


 鐵昌は晃を軽く睨んだ。


「愛してるが言えないなら、さっき晃が言ってた四字熟語でやってみたらどうですか? 」

「……そんな知らねえけど、それなら多分言える」


 鐵昌には謎の自信があった。


「それじゃあ~もう一回ですね~」


 美香子は姿勢を正し、鐵昌を正面から目を合わせた。



才色兼備(さいしょくけんび)


「もう一回~」


容姿端麗(ようしたんれい)


「もう一回~」


閉月羞花(へいげつしゅうか)


「もう一回~」


雲中白鶴(うんちゅうはっかく)


「……もう一回~」


春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)


「……もう一回~」



 鐵昌が四字熟語をまくしたてる。


「凄……なに言ってるのか全く分かんない……」

「それな」


 綺と晃は、ぼうぜんと美香子と鐵昌の愛してるゲームを見ていた。



一顧傾城(いっこけいせい)


「そ、そんな~! 言いすぎですよ~! 」


 美香子はつい本音を吐露してしまった。

 ハッ! と声を出してから、美香子の顔が赤くなっていく。


「ま、参りました~! 」


 美香子の恥ずかしさが絶頂になり、従業員部屋を飛び出してトイレに走り去ってしまった。

 

 綺と晃は、ポカーンとしていた。



「えーっと……。鐵昌さんの勝ち……? 」

「多分そうだと思うけど…。そんなに恥ずかしかったのかな? 」

「分かんない。鐵昌さん。さっき鐵昌さんが言ってた四字熟語の意味ってなんですか?……鐵昌さん? 」


 晃が鐵昌に話しかけるも、鐵昌の様子がなにかおかしいことに気づいた。

 一点を見つめたまま、ボーっとしていたのだ。

 

「……あ?……すまねえ聞いてなかった。呆けちまってて……」


 鐵昌はそう言いながら水を手に取って飲んだ。


 冷たい水が体内に入った瞬間、鐵昌は自分の体温が下がっていくのを無意識に感じた。

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