第六十一話 回避
「待ちなさーーーーい!!!!!! 」
アナホベがヨウダイの首に伸ばした手を、横から誰かが掴み、後ろへ引っ張った。
強力な力で引っ張られたアナホベはそのままバランスを崩し、後ろに倒れた。
その時、ヨウダイの頭に乗っていたスイコとテンノが、ひょっこり顔を出した。
「アイツハ…」
「タシカ、ハシヒトトカイウ、ヤツ」
ハシヒトが、ヨウダイを危機一髪のところで助けたのだ。
「てめえ!! いきなりなにしやがんだよ!!! 」
アナホベがハシヒトに問う。
ハシヒトはアナホベの問いを無視して、アナホベの首根っこを強く摘まんだ。
「いててててて!!!! おい!! 聞いてんのかよ!! 」
「一旦…」
「あ? 」
「頭冷やしてきなさあああああああい!!! 」
ハシヒトはそう叫ぶと、アナホベをそのまま猫のように持ち上げ、通路の方に投げ飛ばした。
遠くに見えた大勢のバキュロをボーリングのようになぎ倒していき、最終的には見えなくなった。
数秒した後、遠くの方から ドゴォ と音がした。
ポカーンとした様子で綺たちはハシヒトを見ていた。
その後、ハシヒトが急いだ様子で綺たちの方に寄ってきた。
「藤原さん!! 大丈夫ですか!? 」
「今ちょっと気絶してます」
「ああ…あの馬鹿…。本当に申し訳ありませんでした!! 」
ハシヒトはその場で土下座した。
綺たちはいきなり土下座するハシヒトを見て、「大丈夫ですよ」と言いながら顔を上げさせた。
その後に、ヨウダイが綺たちの元へ近寄った。
ヨウダイの姿を見て、ハシヒトは再度土下座した。
「ああ…顔…上げて…。あなた…悪くない…悪くないわ…」
「しかし…」
「あなた…いなかったら…、わたし…わたし…食べられ…てたよ…」
ヨウダイはハシヒトを許した。
「…ソレニシテモサ」
いきなりスイコとテンノが、ヨウダイの頭の上から会話に参加してきた。
「スゴイネ、テツアキ」
「メッチャ、オナカツヨイ」
「どういうこと? 」
スイコとテンノが言っている意味が分からず、綺は首を傾げた。
「ダッテサ」
「アナホベッテヤツノ、パンチ」
「コンクリート」
「クダクンダヨ? 」
「テツアキノオナカ」
「コンクリートヨリ」
「カタイッテコトジャ」
「ナイノ? 」
その言葉に、その場にいた全員がハッとした。
アナホベの拳はコンクリートの床、コンビニのシャッターなど、ありとあらゆるものを破壊してきた。
あんなアナホベの鉄拳を喰らいながらも、鐵昌は生きていた。
内臓などが破裂してもおかしい話ではないのに、今こうして鐵昌は脈を打っていた。
考えられることは二つ。
鐵昌の腹が異常に丈夫だったか、アナホベが手加減したか。
「…私が口を開いていい場面なのかは分かりませんが」
今まで事のあらましを無言で見ていたショウアンが、口を開いた。
「予想ですが、アナホベ様には、無意識ながらも人間の頃の記憶が残っているのではないでしょうか? 」




