第五十七話 一昔前
気迫に押され、綺は体が少し震える。
晃の腕には鳥肌が立ち、唾を飲む。
『それじゃ、頑張って答えてみてねー!』
いつも通りの笑顔と声のトーンに戻り、綺たちに言葉を発す聖間。
画面が暗転し、聖間の姿が消える。
そして、また静寂が広がる。
無言で綺と晃は顔を合わせる。
「え…っと…」
「うん…考え…ようか…?」
気まずい雰囲気のまま、綺たちは考え出した。
「っと、前の社長の亡くなった原因…だよね?」
「そのようだけど~…全く分からないわ~」
「なにか、ニュースとかやってました?」
「いや~…全然覚えてないわ~」
晃と美香子が悩んでいるとき、綺は一人考えていた。
(あれ? そういえば、社長のお父さんのことについて、なんか話したような…)
綺は昔のことを思い出した。
小学校低学年、ネット何て馴染みのない年代の時、綺にとっての娯楽はゲーム、テレビ、本、そして、絵を描くことだけだった。
綺はその時、携帯ゲーム機を閉じて、ひたすら縦に振っていた。
その光景を不思議に思った綺の母、蘇我見韓子は綺に話しかけた。
「綺ちゃん? 何してるの?」
「ゲームコイン貯めてるの!」
そう言うと、綺はゲーム機を開いて画面を見た。
「ほら見て! さっきまでゲームコイン34しかなかったのに、67まで増えてる!!」
画面を指さしながら、綺は韓子にゲームコインを見せた。
韓子はよく分からず、てきとうに「良かったわね」と言った。
コーヒーをマグカップに注ぎ、韓子は椅子に腰かけテレビをつけた。
チャンネルを色々回したり、新聞の番組表を見たりしたが、目ぼしい番組はやっていなかったのでとりあえずニュース番組をつけた。
近くに置いてあった雑誌を手に取り、コーヒーを飲みながら雑誌を読む。
しばらくしていると、綺が韓子に近寄り「ねえねえ」と声をかけた。
「どうしたの? ゲームコイン? 貯めるのは終わったの?」
「もう飽きた。ねえママ。それ、何飲んでるの?」
綺が韓子の持ってるコーヒーを指さした。
「これ? これはコーヒーっていう飲み物だよ」
「こーひー? 美味しいの? 綺も飲んでみたい!」
「美味しいけど、綺ちゃんにはまだちょっと早いんじゃないかな。もうちょっと大人になってからの方が・・・」
「綺もうしょーがくせーだよ! 大人だよ! だから、飲んでみたい!」
「そんなに言うなら一口だけよ。熱いからちゃんとフーフーしてね」
韓子はコーヒーを綺に手渡した。
コーヒーからは湯気が立っていたので、綺は数回息を吹きかけてから、コーヒーを飲んだ。
「熱っっっっっっ!!!!!! あと、苦っっっっっ!!!!!」
綺はコーヒーを噴出した。
コーヒーを持っていた手が大きく揺れ、中からコーヒーがこぼれて床が濡れた。
「ちょっと! 何してんの!」
韓子は綺からコーヒーを受け取り、慌ててティッシュを取り出した。
「大丈夫? かかってない? 口の中火傷してない?」
「だ、大丈夫。・・・ごめんなさい」
韓子がコーヒーを拭き、落ち着いたときにまた椅子に座った。
その時、ニュースの画面に大きく‘‘速報,,の文字が出された。
『速報です。製薬株式会社 ウマヤドの代表取締役社長 聖間用明氏が先日未明、死亡していたことが判明しました』
突然の報道に、韓子の口から「えっ!?」という驚きの声が上がった。
『先日未明、自宅で倒れているところを妻の聖間稲明夫人が発見。すぐに搬送されましたが、都内の病院で死亡が確認されました。死因は ~ と判明しました』
「可哀そうに…今一番勢いがある会社の社長さんだったのに…」
ニュースを見ていて言葉の意味が分からなかった綺は、韓子に聞いた。
「ねえママ」
「ん? なに?」
「のーこーそく、ってなに?」
そして、場面は現在に戻る。
「脳梗塞…」
綺はポツリと呟いた。
「なにか言った?」
「脳梗塞だよ…。前の社長の奴…」
「そうなの~?」
「多分…というか、絶対そうだと思います」
「大丈夫? 間違ったら四十匹だよ?」
「大丈夫だよ」と綺が言ってから、美香子は画面に向かって話しかけた。
「ヘイ社長~」
美香子が言うと、画面が明転した。
『どこぞの人工知能みたいに呼んだね~。答え分かった?』
紅茶を飲みながら聖間は言う。
「答えは脳梗塞~…ですか~?」
『ファイナルアンサー?』
「ファイナルアンサ~…」
『せいかーい!! 答えは‘‘脳梗塞,,でしたー!!!』
画面の向こうで、聖間は拍手している。
綺たちは複雑な気分になっていた。
『音だけ聞いてたけど、綺ちゃん良く分かったね! 昔のニュース、覚えてたの?』
「曖昧だったけど、なんとか覚えてたんです…」
綺はしぶしぶ答えた。
『それじゃ! 続いて第四問行くよー!!』
綺たちは聖間の言葉に何も反応しなかった。
『あれ、どうしちゃったの? なんかテンション低くない?』
「別に…」
『…もしかして、さっきのことで気遣ってる? 大丈夫だよ。僕がイラついてたのは綺ちゃんたちに対してじゃなくて父親に対してだから、綺ちゃんたちは気にしなくていいよ』
聖間は笑いながら言う。
綺は「そうですか…」と言って、話を聞いた。
『じゃあ問題! 君たちが経った今閉じ込められてる如月駅! 果たしてここは、西暦何年に開業したでしょうか!!』




