第五十六話 訪問客
急に聞こえてきた呻き声に、綺、晃、美香子は同時に振り向く。
どこから湧いたのか、数匹のバキュロが店の奥から出てきていた。
「うわぁ! 出たー!!」
「いちいち驚かないでよ」
驚く綺をよそに、晃が前に出る。
そして、向かってくるバキュロにバットを振りかざして相対した。
『それじゃあ気を取り直して第二問!』
聖間が晃を気にせずに問題を出す。
「ま、待ってください~! まだ晃くんが~…」
「このぐらいの数、僕なら大丈夫です! 美香子さんと綺は問題を解いててください!」
一体のバキュロを弾き飛ばしながら、晃は美香子に言う。
『彼もああ言ってくれてるわけだし、大丈夫でしょ! それじゃあ問題! 僕が経営している会社の‘‘正式名称,,はなーんだ!』
綺と美香子は顔を見合わせた。
「正式名称…ってウマヤド、じゃないんですか?」
「多分その前も入れると思うわ~」
美香子は画面にいる聖間に向かって答えを発した。
「正式名称は~、‘‘製薬株式会社 ウマヤド,,だと思います~!」
『ファイナルアンサー?』
「はい~!」
聖間は少し間を開けてから答えた。
『せいかーい! 答えは、‘‘製薬株式会社 ウマヤド,,でしたー!』
美香子はホッと胸をなでおろした。
『みんなよく製薬を入れ忘れるんだよね。正解してくれて嬉しいよ。それじゃ! このまま第三問! ちなみに、次から不正解だった場合、一問当たりそうだなあ…四十匹ぐらいのバキュロが出てくるから、間違えないように気を付けてね!』
「は!?」
「四十匹~!?」
「多すぎでしょ…」
「うおっ、居たんだ…」
いつの間にか来ていた晃に綺が小さく驚く。
数匹のバキュロと一人で相対して息が上がっている晃。
四十匹何て数のバキュロが出てきたら、三人で戦ったとしても手に負えなくなるだろう。
責任を感じ、美香子は小さく息を飲んだ。
『問題! 製薬株式会社 ウマヤドの創設者こと僕の父の聖間用明ですが、今から五年ぐらい前に突然他界してしまいました。さて、何が原因で他界してしまったのでしょうか! シンキングタイムスタート!」
聖間が言い終わった後、辺りは静寂に包まれた。
「自分の親の死因を…」
「不謹慎ね~…」
晃と美香子が小声で言う。
そんな中、綺が一人聖間に言った。
「ちょっと社長! いくらなんでもそんな問題はないんじゃないですか? そんな気軽に、育ててくれた感謝と恩のある親の死因なんかをクイズにするなんてあり得ませんよ!!」
綺の声に続いて晃が「そ、そうだそうだ!」と続く。
聖間は綺と晃の声を聞き、表情が真顔になった。
『は? あの野郎に対しての情なんかねえよ。感謝だの恩だの、そんな行動も戯言もあいつから一度でも感じ取ったことなんてあるわけねえだろ?』
聖間の顔は笑っていた。
「で、でも…」
晃が反論しようとする。
『二 度 も 言 わ す ん じ ゃ ね え よ』
聖間の瞳は、輝きのない、闇だった。
「…?」
「ナンカ、オトスル」
「ナンノ、オト?」
「怖い…怖い…」
その場にいた全員が音に気づいた。
コンビニの外から聞こえてくる音は段々と大きくなっていき、突然ピタッと止まった。
「…何か…何か…聞こえる…」
ヨウダイがそう呟く。
よく耳を澄ましてみると、人間のような話声が聞こえた。
怒鳴っているような声だった。
すると次の瞬間。
ガッシャーン!!!!
鉄のようなものと、ガラスのようなものが砕ける音がする。
巨大な音とともに、鐵昌たちがいる部屋が揺れる。
立っていたスイコとテンノは倒れ、鐵昌とヨウダイは耳を塞ぐ。
壁越しに先ほど聞こえた話し声が、鮮明に聞こえてくる。
「ここから匂うぜ! めっちゃ腹減ってきたぞ!」
「ちょっと!! 待ちなさい!」
「んだよ、お前だって腹減ってきただろ?」
「まあ、減ってないって言ったら嘘になるけど…」
コンコンコンと従業員部屋のドアがノックされる。
「失礼しまーす!!!!」
「そういうのはちゃんと言うのね…」
入ってきたのは、アナホベとハシヒトだった。
「あっ藤原さん! すみません、いきなりやってきて」
「お前らは…」
「あーっ!! お前は!!」
アナホベが鐵昌を指さす。
「たつあき!!!」
「鐵昌だ」
突然やってきたアナホベとハシヒトが誰なのか分からず、ヨウダイは『?』を浮かべていた。
「ア、ヒックリカエッテタヤツダ」
「ホントダ。ウマッテタヤツダ」
スイコとテンノがアナホベに向かって言った。
「お前たちまでいたのか!!」
アナホベがそう言った瞬間、ぐう~と、音が鳴った。
お腹をさすってから、アナホベはヨウダイの方を向く。
ヨウダイは怯えていた。
「その前に…もう我慢できねえ!!! 腹ごしらえだ!!!」
アナホベはヨウダイに飛び掛かった。




