第五十四話 束の間
綺が先にホームに上がり、美香子を引っ張り上げる。
美香子は「ありがとう~」と言って一人で立ち上がる。
その後に、晃がプラットホームに登った。
「その中に入っているのが~スタンプなのかしら~?」
「多分そうだと。今はちょっと触れないので水で洗い流してから開けようと思ってます」
晃は美香子に言った。
その後に、「あ、そうそう。使ってないから一旦返すよ」と言ってスタンプ用紙を綺に返した。
綺は受け取った用紙を開き、地図を見た。
その間に、晃は近くにあった手洗い場で液のついたジップロックを水で洗い流した。
ある程度触れるようになってから、晃はジップロックを開け中から手のひらよりも少し小さめのサイズのスタンプを取り出した。
必要なくなったジップロックを捨て、綺たちのところに戻る。
晃が戻ってきたところに、綺は広げたスタンプ用紙を渡した。
蓋を外してスタンプを押す。
スタンプを用紙から離し蓋をする。スタンプには製薬株式会社ウマヤド…聖間の会社のロゴが彫られていた。
「次にここから近いところは…この飲食店のところかな?」
綺が地図に書かれている赤い丸を指さす。
「あそこの飲食店か…。思ったけどこの駅、立ち食い蕎麦と飲食店あるとか、そうとう広い駅だったんだね」
晃が一人で感心している。
「早速このまま行っちゃう?」
「僕はいいけど、美香子さんが…」
晃は美香子の方を見た。
視線に気づき、美香子は「私も大丈夫よ~」といつも通りの笑顔で言った。
しかし、その顔色は線路に来る前よりもかなり悪くなっていた。
「本当に大丈夫ですか?」
「平気よ~。早く終わらせちゃいましょ~。心配してくれてありがとうね~」
綺の心配に笑顔で対応する。
晃は少し心配そうに「無理しないでくださいね…」と言った。
そして、三人は二つ目のスタンプの場所に向かった。
「ネエ、ナニコレ」
スイコが机の上に置いてあったトランシーバーを指さしながら問う。
「ソレ、アヤノカバンニモ、ハイッテタ」
「ナンダロウネ」
綺たちがいなくて暇になったスイコとテンノは、トランシーバーに興味津々だった。
テンノがトランシーバーの横のボタンを押す。
その時に、スイコが「ナンノ、ドウグナノ?」と言う。
次の瞬間、電源が入っていたのか綺の鞄の中に入っていたトランシーバーから『ナンノ、ドウグナノ?』と、テンノの声が聞こえてきた。
スイコとテンノは驚いていた。
「ナンカ、スイコノコエ、キコエタ」
「ワタシモ。ジブンノコエ、キコエタ」
スイコとテンノを暇そうに眺めていたヨウダイは、スイコとテンノが盛り上がっていたトランシーバーに興味が沸き、綺の鞄からトランシーバーを取り出した。
「これ…面白いわね…面白いわね…」
ヨウダイがボタンを押しながら呟く。
すると次の瞬間、スイコとテンノの近くに置いてあったトランシーバーからヨウダイの声が聞こえた。
ヨウダイの声に驚き、スイコとテンノはトランシーバーを机から落してしまった。
トランシーバーは、机の下にあった鐵昌の足にクリーンヒットした。
「痛…」
少しの重みと少しの勢いのせいで、落ちてきたときに衝撃が走り、寝ていた鐵昌は起きた。
「ア、オコシチャッタ」
「グッドモーニング」
「全然モーニングじゃねえじゃねえか…」
鐵昌が頭を掻きながら、時計を見て言う。
時刻は、午前の十二時半をさしていた。
「テツアキ、ソレ、ナニ?」
テンノが机の下に落ちたトランシーバーを指さしながら言う。
鐵昌は寝ぼけ眼をこすりながらトランシーバーを手に取る。
「…トランシーバー? なんでこんなところに…」
「トラン…シーバー? ッテイウノ?」
「そうだ」
スイコとテンノは「「ヘー」」と声を出した。
鐵昌は「新野外無線機より全然小さいな…」と独り言を呟きながらトランシーバーを見ていた。
その時、スイコとテンノは息ぴったりで「「ン?」」と声を上げた。
スイコとテンノが声を上げた理由は、鐵昌にもすぐに分かった。
壁の向こう、コンビニの外から、ドッドッドッドッとかなり大きな足音が近づいてきていたのだ。




