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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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第五十二話 スタンプラリー開始

長らくお待たせいたしました。

「いつ行く?」

「いつでもいいよ。今何時?」


 そう言われ、綺は時計を見る。

「午前の十二時だよ」

「えっ、そんな遅い時間だったんだ」

 晃が驚いた声を上げる。


「私も吃驚(びっくり)したよ。ここ最近日の光に当たってないから、体内時計…? がおかしくなってるんだと思う」

「そういわれてみたら~全然今眠くないわね~」

 

 そう言いながら、美香子は腕を上に伸ばしながら軽く伸びをする。

「今から行っちゃう?」

「今から行っちゃいましょうか…」

 綺はスタンプ用紙と鉄パイプを、晃はバットを持った。


「私も行くわ~」と言いながら、美香子は包丁を手に持った。

 包丁の刃についた血痕が気になり、ティッシュを取って拭いた。


「あ…あたし…ここ…ここに…いるわ…。いって…らしゃい…。いって…らしゃい…」

 ヨウダイが手を振る。


「ヨウダイさんはここに残るのか…。鐵昌さん寝てるし、残しておいて大丈夫かな?」

「チョットチョット、コウ」

「ワタシタチノコト、ワスレナイデヨ」


 スイコとテンノが晃に向かって話しかける。

 晃は「ごめんごめん」と言った。


「ワタシタチハ」

「ココニ、ノコルヨ」

「あれま意外。ついてくるかと思った」


「ヤバイグライ、コノヒトノニオイ、オイシソウ」

「ゼッタイ、シュウゲキ、サレル」

「あらあら~。ヨウダイさんのこと守ってくれるのね~?」

「デキレバ、マモル」


 「えらいわね~」と言いながら、美香子はスイコとテンノの頭をなでた。

 表情は変わってなかったものの、スイコとテンノは嬉しそうだった。


「それじゃ、行ってまいりまーす」

 と綺が言ってから、三人は従業員部屋から出て行った。





 コンビニのシャッターを少し上げると、外には大量のバキュロが(うごめ)いるのが見えた。


「うわっ、めっちゃいる!」

「全員に構ってる余裕はなさそうだな…。そうだ、綺。僕が自動ドア付近のバキュロをたおすから、綺はその隙にシャッターを下げてくれる?」

「わ、分かった。気を付けてね」

「私も晃くんに加勢するわよ~」

「ありがとうございます、美香子さん」


 シャッターを上げ、自動ドアに向かう。

 コンビニの中に入ろうとしてきたバキュロを晃と美香子が押し返し、何体かを殺していった。


 その隙に、綺がシャッターを降ろした。

「降ろしたよ! 晃!」

「ありがとう! まずはここを抜けよう! ついてきて!」


 晃の言葉に答え、綺と美香子は晃の後をついていく。

 バキュロがいない空間をなんとか見つけ、バキュロの包囲網からなんとか三人とも脱出した。


 バキュロたちは相当ヨウダイの匂いに夢中なのか、綺たちに気づいていなかった。




「赤い丸がされてるところにあるって言ってたから、ここだね。ここは…確か、飲食店だよね? 『いたぶき』とかいう名前の」

「あーあそこか! あのハンバーグが美味しいところ!」


 晃が垂れそうになった(よだれ)を袖で拭いた。


「もう一個のところは~、線路かしら~?」

 美香子が赤い丸を指さした。

 美香子の言っている通り、赤い丸は線路のところにされていた。


「ってことは、線路の上ってことー? あそこ行くの嫌なんだけどなー」

 晃が露骨に嫌そうな顔をして、溜息を吐いた。


 この間線路を見たとき(第十七話参照)、線路の上にはプラットホームから落ちて登れなくなった大量のバキュロが蠢いていたのだ。


「んでもって、最後の一つが…。ここ?」

 綺は三つ目の赤い丸のところを見た。

 赤い丸は、如月駅内の通路の中途半端なところに書かれていた。


 少し疑問に思ったが、綺は特に気にしなかった。


 現在地から一番近いスタンプの場所が線路だったので、三人はまず線路に向かうことにした。

 歩いているときに、綺は変わり果てた駅内を見て唖然としていた。


 壁や床には大量の血痕。ひび割れてボロボロになったガラスの近くには、ガラスの破片が落ちていた。

 通路の隅には、無残な姿に変わり果てた人のようなものが転がっていた。

 体の半分以上が食い破られてる中、無情にも顔だけは残っていた。

 血にまみれて分かりずらかったが、その表情を見て、きっと叫びながら息絶えたのだと悟った。


 それを見た綺は「うっ」と言いながら口をおさえ、目を逸らした。

 

 それと同時に、綺には一つの疑問が浮かんだ。

 体の状態から察するに、あの人はバキュロに喰われて死んだはずなのに、


 何故バキュロになっていないんだ?


 バキュロは人を喰らい、喰らわれた人がバキュロとなって繁殖していく。

 しかし、綺は見た。 


 バキュロとならず、遺体としてそのまま放置されている()()を。


「もうすぐ着くよ」

 綺が考え込んだいたとき、晃の一声が綺の思考を遮った。

 今考えることでもないか、と綺は心の中で言い、考えるのをやめた。




 線路に着き、晃は思わず「え?」と声を出した。


 いつもなら綺たちに気づき、線路からプラットホームに手を伸ばして、綺たちを喰おうとする素振りを見せるが、今回は違った。

 線路上にいるバキュロたちは綺たちに気づかず、全員が何かを中心に群がっていた。


「全然襲ってこないわね~」

「なにに一体そんな群がってるんだ?」


 群れるバキュロたちの間を見て、なにに注目しているのかを確認しようとする。


 台が一つ置いてあり、その台の上に乗っているなにかに群がっているらしい。

「あ、あれ!」

 綺が指をさす。


 晃と美香子は綺の方に近寄り、指をさしている方向を見る。

 その方向から、台に紙が貼ってあるのが見えた。


「なにか書いてある見たいだけど、小っちゃくて全然読めないよ」

「全く読めないわ~」

「大丈夫ですよ美香子さん。なんとか僕読めます」

「本当? なんて書いてある?」

「えーっと…」


 晃が目を細めながら読み上げる。


「スタンプラリー用 チェックポイントスタンプ台…って書いてあるよ」

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