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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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第四十九話 つられて

「ま、まだこんなにいるの!?」


 晃はそう言いながらバットを振る。

 しっかりと頭に当て、確実にバキュロを殺していった。


 コンビニの中には予想以上に多くのバキュロがおり、一体一体頭を潰さなければならなかったので時間がかかった。

 レジの下やトイレなど、色んな所に入り込んでいたバキュロを探しては殺す。作業的な感じでやっていた。


「鐵昌さん! コンビニの外にもあんなにいます!」

「チッ…、野郎…仕方ねえ、全員片付けてやろうじゃねえか」

 鐵昌がコンビニの外に出て、晃もそのあとに続いた。


 コンビニの外には大量のバキュロがいた。

 一匹のバキュロが晃に襲い掛かってきたが、バットを振り、襲い掛かってきたバキュロの頭を潰した。


「僕はこっち側にいるバキュロをたおします!」

「その流れでいったら…。分かった。俺はこっち側にいるやつだな」


 晃と鐵昌は分かれて、バキュロを駆逐していった。


 晃は力任せにバットを振りバキュロを殺していく。

 鐵昌も軽い身のこなしでバキュロの猛攻を避け、バキュロを斃していった。


「…こっち側の奴は全員片した。加勢するぜ」

「えっ!? 早くないですか!?」

「っ! 余所見してんじゃねえ!」


 鐵昌の方を一瞬見ていた晃。その隙に、一体のバキュロが晃に襲い掛かろうとしていた。

 そこに鐵昌がパイプを振り、バキュロを追っ払った。

「あ、ありがとうございます」


「礼したいなら言葉じゃなくて行動で示せ」


 と、鐵昌がバキュロを殺しながら言う。

 それを聞いて、晃は慌ててバットを握り、振る。




 

 数分して、ようやく全てのバキュロを殺した晃と鐵昌。

 床には大量のバキュロの死骸が横たわっており、歩くのにバキュロを踏まずには出来なかった。

 バキュロの体は、死骸になってから急激に脆くなる。

 踏むたびに体が潰れ、中から体液が大量に溢れ出てくる。


 晃はバキュロを踏みながら、重い足取りで鐵昌に近づいた。

 体力をかなり消耗しており、晃は少し過呼吸になっていた。

 鐵昌の方は、表情はいつも通りの無表情だったが、こめかみを汗が伝っていた。それを、袖で拭う。


「た、大変でしたけど、何とかなりましたね…」

「…ああ」

「しっかし、このバキュロの死骸どうしましょう?」

「…都合よくトンボとかあればいいのにな」

「そうですねー。ははは…」


 鐵昌が言っているトンボは昆虫の方ではなく、グラウンドなどに使用する整地用具の方だ。

 晃は暗い雰囲気を作らないように笑顔を作ったが、疲れが顔に出てひきつった顔になってしまった。


 その、刹那だった。


 頭が無事で、意識のあった一体のバキュロ。

 そのバキュロが、最後の力を振り絞って鐵昌に後ろから飛び掛かった。


 背後からの奇襲だったので鐵昌は気づいていなかったが、鐵昌の対面にいる晃はバキュロに気づいていた。

 『これから最悪なことが起こる』と、嫌な予感が晃の頭をよぎった。

 晃とバキュロの間には鐵昌がいる。バットをバキュロに振ったら、鐵昌も巻き添えをくらう。

 鐵昌の後ろに移動してバキュロにバットを当てる。そんな時間は無かった。


 晃が考えた結論は、鐵昌を押し倒して、バキュロを回避させる。


 その考えが頭に浮かんだ瞬間、晃の手は鐵昌に伸びていた。

 

 バキュロの手が、鐵昌につこうとした瞬間、そのバキュロの後ろに新たな影が現れた。

 その影は素早くバキュロに手を伸ばし、頭をつかみ、握力で頭を握りつぶす。

 頭が潰れたバキュロを、勢いよく壁に投げつけた。


 一瞬の出来事に、鐵昌の方に手を伸ばしたまま晃はポカーンとしていた。

 頭が潰れる音や、壁にバキュロがあたった音で鐵昌はようやく何かが起こっていることに気づき、後ろを向いた。


「お怪我はないですか? 間に合ってよかった」


「お前は…」

「ハシヒトさん! 」

「その節はお世話になったわ。物岐さん。藤原さん」


 現れた影は、ハシヒトだった。

 バキュロを掴んだ方の手を服で拭きながら、晃と鐵昌に話しかける。

「危なかったわ…。とりあえず、何事もなくて良かったです」

「あー…。えーっと…。なにかあったのか?」


 背後で起こった出来事を何も知らない鐵昌が、晃に聞いた。

 晃は鐵昌がバキュロに襲われそうになってたことを話した。

 鐵昌はハシヒトに礼を言った。


「ところで物岐さん、藤原さん」

「なんですか? 」

「その…私…」


 ハシヒトは何かを言いたげに、少しもじもじしていた。

 晃は心の中で「可愛いな…」と思い、唾をのんだ。


「つられて…ここに来たんですけど…」

「つられて?」


 晃は首を傾げた。


「はい。引き付けられるような()()につられて…」

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