第四十八話 彼女
バキュロから逃げ、なんとかコンビニに入った綺たち。
女性を床に降ろし、再び美香子が話しかける。
「もしもし~?」
「…あ…あう?」
まるで赤ん坊のような言葉づかいで、美香子の言葉に応じたような素振りを見せる女性。
美香子は再度、女性に話しかける。
「お話しても大丈夫ですか~?」
「ああ…? うん…」
分かったように頷く女性。
それを見て美香子は笑顔になった。
「…社長の言ってたことが本当だとしても、きっとこの人には人間のころの記憶があるんだよね?」
「うーんどうだろう。僕はあると思ってるよ。僕たちもなにか聞いてみようよ」
「そうだね」
綺と晃は女性に近寄って、色んなことを話しかけた。
「こんにちは! 僕物岐 晃っていいます! お姉さんの名前は何て言うんですか?」
「ちょっと晃! もうちょっと言葉遣いちゃんとしなよ」
「あっ、ごめんなさい…」
「あ…あたし…。ヨウダイ…。なまえ…ヨウダイ」
女性が返答した。
名前はヨウダイと言う名前らしい。
「ヨウダイ…さん? 不思議な名前ですね。本名ですか? それとも、社長に?」
「あ…ママ…ママ…。ママが…あたしに…つけた…」
ヨウダイと名乗った女性。
少なからず人間のころの記憶が残っていたのだ。
それが分かり、綺はホッとした。
「初めまして。私は蘇我見 綺といいます」
「ああ…あなた…あなた…。ママみたい…。あうあ…」
そう言いながら、ヨウダイは笑みを浮かべた。
綺は「はい? 」と言いながら、目を丸くしていた。
その時だった。
ドンッ!!! ドンッ!!!
突然従業員部屋の扉を強くたたくような音が聞こえた。
「うわぁ! びっくりした!!」
綺は驚いて大声を上げた。
その次に、鐵昌が思い出したように口を開いた。
「綺…。一応聞くけど、シャッター閉めたか?」
「え? …あ」
綺の顔がみるみる青ざめていった。顔の表面を冷や汗が伝う。
コンビニに入った時、最後に入った綺はシャッターを閉めるのを忘れていたのだ。
このコンビニの出入り口は自動ドア。人間が近づいても、バキュロが近づいても開いてしまう。
従業員部屋の扉に耳を当てると、扉の奥からバキュロの呻き声が聞こえてくる。
「ああーーー!!! 降ろし忘れたーーーー!!!! ほんっっっとうにごめんなさい!!!!!」
綺は勢いよく土下座した。
その時に、ゴンッと頭が地面にぶつかり、綺は手で頭を押さえる素振りを見せた。
鐵昌は土下座する綺を見てから、表情を変えずに近くにあった鉄パイプを持って、従業員部屋のドアノブに手をかけた。
「…謝んなくていい。ちょっと行ってくる」
「あっ、僕も行きます」
晃が立ち上がってバットを持った。
「ううー。晃ー。本当にごめん」
「大丈夫大丈夫。なんとかするから。その代わり、後でチョコ頂戴」
晃は笑顔でそう言った。
「扉を開けたらすぐそこにいる。…俺が開けるから構えてろ」
「分かりました」
「気を付けてください~」
「…言われなくても気を付けるぐらいするぜ」
扉の方を見ながら鐵昌が言う。
そして、勢いよく扉を引いて開けた。
バキュロが一斉に押し寄せてきたが、事前に構えていバットを構えていた晃がバットでバキュロたちを力いっぱい突き、扉の外へとバキュロを押し返した。
「んじゃ! いってきます!」
と言って、晃と鐵昌は扉の外に出て行った。
扉の外から、バキュロたちを殴っている音が聞こえてきた。
「…ネエ。ヨウダイ」
「あ…小さい子…。なに…? なに…?」
スイコに話しかけられ、ヨウダイはスイコの方を向く。
「アンタ、ヘン。スゴク、ニオウ」




