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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍章・時間潰しのスタンプラリー
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第四十七話 撤退 

「…なんか色々あったけど…。どうする? このスタンプラリー? やったほうがいいのかな?」


 綺は晃たちの方を向いて、聖間から受け取った用紙をヒラヒラと動かしながら尋ねた。

「うーん…。でも、そのスタンプラリーをクリアしたら人間に戻せる薬が貰えるんでしょ? どうせ脱出口が見つかるまでここにいても暇というか、時間あるからやってみる? 僕はどっちでもいいけど」


「私は綺ちゃんたちに任せるわ~。その前に~、この人をどうにかしないと~」

 美香子は地面に座っている女性の元へ近寄った。


 しゃがんで視線を同じ高さにしてから、女性に話しかけた。


「大丈夫ですか~?」

「…」


「ナンニモ、ハンノウシナイ」

「イキテルノ?」

「こらこら~。そんなこと言っちゃ駄目よ~。ちゃんと脈も打ってるし~、ちゃんと生きてるわよ~」


 美香子は女性の手首に指をあてて脈が動いているかを確認しながら、スイコとテンノに言った。


 その時、自分たちの周りからかすかな足音が聞こえてきた。

 ただ一人その足音に気づいた鐵昌が周りを見る。


 数匹のバキュロが、鐵昌たちの方に呻き声を上げながら近寄ってきていた。


 足音や呻き声が次第に近づいてきて、近寄ってくるバキュロに綺も気づいた。


「って、え!? いつの間にこいつらいたんだけど!?」 

 綺の驚いた声に、その場にいた全員が周りのバキュロに気が付いた。


「こ、晃! 早くその女の人担いでコンビニに戻ろう!」

「えっ、そんな簡単に担げなんて言われても…」

「なに? あ、もしかして晃、女の人が綺麗だからドキドキしちゃってるとか?この思春期ボーイめ!」 

「な! そういうわけもあるけど、そういうわけじゃないよ!」

「そういうわけもあるんだ…」


 冗談で言ったつもりだったが、晃が本当にそう思っていたと分かり綺は苦笑いした。


「美香子。頭下げろ」

 突然鐵昌にそう言われ、美香子は「は、はい~!」と返事をしながら頭を下げた。

 次の瞬間、美香子の頭上をスレスレに何かが通った。


 そして、数秒後にバキュロの呻き声が美香子のすぐ後ろから聞こえた。

 呻き声を上げたバキュロは、その場で(たお)れた。


 斃れたの顔には、野球ボールほどの大きさをした球体のコンクリートがめり込んでいた。


 美香子の頭上スレスレを通ったのは、このコンクリートだった。

 コンクリートが飛んできた方には鐵昌がいた。


 体を前のめりにしていて、利き腕を少し伸ばして利き手を下に向けていた。

 まるで、ボールを投げた瞬間のように。


「…なんでこっち見てんだ?」

「あっ、いや~ありがとうございました~」


 美香子は鐵昌に頭を下げ、女性を持ち上げて移動させようとした。

「あらあら~…?」


 どんなに力を入れても、女性は持ち上がらなかった。

 自分の運動不足だと考え、必死に女性を動かそうとしていた。


「…なにしてんだよ」

 鐵昌が美香子に話しかけた。

 周りから見たら、美香子が女性を持ち上げようとしているのではなく、女性の体をただたださわっているだけのように見えていたのだ。


「この人をコンビニまで運ぶために~、なんとかして持ち上げようとしてたんですけど~…」

「…いい。俺がやる」

 そう言うと、鐵昌は女性を持ち上げて右肩に布団を持つように担いだ。


 自分と比べて軽々しく持ち上げてしまう鐵昌を見て、驚きと同時にやっぱり自分の運動不足だった。と、安心していた。


「綺ちゃん~。晃くん~。戻るわよ~」

「あ! はい! 分かりました! ほら、綺行くよ」

 美香子が綺と晃を呼び、そそくさとコンビニに入ろうとしていたその時だった。


 コンビニの入り口に、バキュロが先回りしてきたのだ。

 そしてそのバキュロは、鐵昌が担いでいる()()をめがけて飛び掛かってきた。

 流石に女性を持ったままでは、普段のような機敏な動きは出来ずバキュロを避けきれないと思った。

 その時だった。


「メンドクサイヨ。オマエラ」

「ジャマダカラ、ドイテ」


 後ろからスイコとテンノが来たのだ。

 鐵昌の左肩に一瞬乗り、そこから勢いよく目の前のバキュロに飛び掛かった。

 そして、その短い腕のどこから出ているのかが分からないような威力のパンチをバキュロに打った。


 バキュロは吹き飛び、コンビニの壁に強く背中を打ってそのまま動かなくなった。


「ホラ。イマノウチ」

「イコウヨ」

「あ、ああ…」

「二人とも凄いわね~」


 この場で美香子だけがスイコとテンノを褒めた。

 綺と晃は、ただスイコとテンノの力に唖然としていた。

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