第四十五話 提案
試しに人物名に振り仮名を振ってみました
しばらくして綺と鐵昌も起きた。
美香子は夢のことが気になって仕方なかったので、机に置いてある飲料水を一気飲みして心を落ち着かせた。
その時だった。
「チャーチャーチャチャーチャー、チャーチャチャチャチャー」
コンビニの従業員部屋の外から、陽気な声が聞こえてくる。
印象に残る声。誰が来たかは、その場にいる全員が分かっていた。
「はーい!! どーもー!! みんなご存じ聖間でーす!! 」
そう言いながら、聖間が扉を乱暴に開けて入ってきた。
スイコとテンノが「ゴシュジンサマー」と言いながら、聖間に飛びつく。
聖間は飛びついてきたスイコとテンノを手で受け止めた。
「出たな! ご主人様のこと変態扱いした不良キッズ共!!! 」
聖間はそう言いながら、スイコとテンノの頭を優しくグリグリと押していた。
「これは社長さん~。ご無沙汰しております~」
「やあ美香子ちゃん。相変わらず綺麗だね」
「ホラ。スグソウイウコト、イウ」
「ヤッパリ、ヘンタイ? 」
スイコとテンノが言う。
「たったこれぐらいで失礼な子達だなー。今の言葉は、社交辞令ってやつなの。ま、四分の一ぐらいだけど」
「ヨンブンノイチ?」
「ジャア、ヨンブンノサンは?」
「本音」
聖間があまりにも真面目な顔で言う。そして、数秒間の沈黙があった。
「「ウワー…」」
消え入るような声でスイコとテンノが言う。
声のトーンは変わってなかったものの、言葉を言いながらスイコとテンノは聖間の手の上から離れようとしていた。
引いているのだろう。
「で、聖間社長。何の用ですか? 」
晃が言う。
「おっと、それじゃあ本題に入ろうか」
聖間はコホンッ、と咳払いをして話し始めた。
「突然だけどさ、君たちハッキリ言って暇でしょ? 」
本当に突然のことで、聖間以外のその場にいた人間はその言葉を聞いてポカーンとしていた。
「分かるよ。僕も暇だもん」
「何も言ってないんですけど…。まあ確かに、最近はずっと従業員部屋にいますし…。暇って言ったら暇なのかな…?」
綺が曖昧な感じで答えた。
「そういうわけで!! 今も言ったけど僕も最近暇なんだ。だから暇な君たちに、僕が考えたあるゲームをさせようと思ってるんだよ!」
「ゲーム? 」
「そうゲーム。…あ、そうそう。始める前にこれを見せておかなくっちゃ」
そういうと聖間はポケットから小さな木箱を取り出した。
木箱はスライド式の蓋がついており、蓋を外すと中から注射器が出てきた。
「じゃーん! ゲームにクリア出来たらこれをあげるよ」
「…なんですか~? それ~?」
美香子が聞く。
「んーっとそうだね…。実際に見てもらった方が早いかもだから、ちょっとここから出ようか」
そういうと聖間は従業員部屋の扉を開けて、綺たちを外に出すように促した。
スイコとテンノは、綺の肩に飛び移った。
「んー。何処かにちょうどいい子は…。あ、あの子でいいや」
「なにするつもりなんだ…? 」
聖間は近くにいた長髪の女性のバキュロに近づいた。
「やあやあお嬢さん。ちょっと付き合ってくれない?」
聖間は接触を試みようとするが、バキュロは聖間の言葉を聞かずに聖間に飛び掛かってきた。
聖間は「ダメか…」と小声で言ってから、飛び掛かってきたバキュロを避けた。
バキュロの後ろに回り、バキュロの足を蹴って膝立ち状態にさせた。
聖間は膝立ち状態のバキュロの脹脛のあたりを強く踏み、懐から手より少し大きいぐらいのサイズのタオルを取り出してから、バキュロの腕をタオルの上から掴んだ。
その出来事は、一瞬だった。
聖間の早業に綺、晃、美香子は驚いた様子で聖間を見ていた。
鐵昌はその様子を見て、「チッ…」と小さく舌打ちをした。
「じゃあ注射器がなんなのか説明するよー! 」
と、聖間は言う。
「説明って言っても…まあ、こういうことなんだけどね」
そういうと、聖間は拘束しているバキュロの首に注射器を刺した。
突然のことに驚いたのか、バキュロはより一層呻き声を上げてもがきだした。
そのタイミングで、聖間はバキュロを押さえていた手を離した。
襲ってくるかと思い綺は身構えたが、バキュロはただその場でのたうち回っているだけで、綺たちの方にくることは無かった。
数秒間バキュロがもがいているうちに、変化が現れた。
「あ! あれ!」
晃がバキュロを指さす。
バキュロの肌の一部が、人間の肌の色のように変色していっていた。
やがて全身の肌が変色した。呻き声も、もがく姿も見えなくなった。
バキュロが、人間に戻ったのだ。




