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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第肆章・数ある中の成功例
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第四十五話 提案

試しに人物名に振り仮名を振ってみました

 しばらくして(あや)鐵昌(てつあき)も起きた。


 美香子(みかこ)は夢のことが気になって仕方なかったので、机に置いてある飲料水を一気飲みして心を落ち着かせた。

 その時だった。


「チャーチャーチャチャーチャー、チャーチャチャチャチャー」


 コンビニの従業員部屋の外から、陽気な声が聞こえてくる。

 印象に残る声。誰が来たかは、その場にいる全員が分かっていた。


「はーい!! どーもー!! みんなご存じ聖間でーす!! 」


 そう言いながら、聖間(せいま)が扉を乱暴に開けて入ってきた。

 スイコとテンノが「ゴシュジンサマー」と言いながら、聖間(せいま)に飛びつく。


 聖間(せいま)は飛びついてきたスイコとテンノを手で受け止めた。

「出たな! ご主人様のこと変態扱いした不良キッズ共!!! 」

 

 聖間(せいま)はそう言いながら、スイコとテンノの頭を優しくグリグリと押していた。


「これは社長さん~。ご無沙汰しております~」

「やあ美香子(みかこ)ちゃん。相変わらず綺麗だね」


「ホラ。スグソウイウコト、イウ」

「ヤッパリ、ヘンタイ? 」

 スイコとテンノが言う。


「たったこれぐらいで失礼な子達だなー。今の言葉は、社交辞令ってやつなの。ま、四分の一ぐらいだけど」


「ヨンブンノイチ?」

「ジャア、ヨンブンノサンは?」


「本音」


 聖間(せいま)があまりにも真面目な顔で言う。そして、数秒間の沈黙があった。


「「ウワー…」」


 消え入るような声でスイコとテンノが言う。

 声のトーンは変わってなかったものの、言葉を言いながらスイコとテンノは聖間(せいま)の手の上から離れようとしていた。

 引いているのだろう。


「で、聖間(せいま)社長。何の用ですか? 」

 (こう)が言う。


「おっと、それじゃあ本題に入ろうか」

 聖間(せいま)はコホンッ、と咳払いをして話し始めた。


「突然だけどさ、君たちハッキリ言って暇でしょ? 」


 本当に突然のことで、聖間(せいま)以外のその場にいた人間はその言葉を聞いてポカーンとしていた。


「分かるよ。僕も暇だもん」

「何も言ってないんですけど…。まあ確かに、最近はずっと従業員部屋(ココ)にいますし…。暇って言ったら暇なのかな…?」


 (あや)が曖昧な感じで答えた。


「そういうわけで!! 今も言ったけど僕も最近暇なんだ。だから暇な君たちに、僕が考えたある()()()をさせようと思ってるんだよ!」


「ゲーム? 」

「そうゲーム。…あ、そうそう。始める前にこれを見せておかなくっちゃ」


 そういうと聖間(せいま)はポケットから小さな木箱を取り出した。

 木箱はスライド式の蓋がついており、蓋を外すと中から注射器が出てきた。


「じゃーん! ゲームにクリア出来たらこれをあげるよ」


「…なんですか~? それ~?」

 美香子(みかこ)が聞く。

「んーっとそうだね…。実際に見てもらった方が早いかもだから、ちょっとここから出ようか」

 

 そういうと聖間(せいま)は従業員部屋の扉を開けて、(あや)たちを外に出すように促した。

 スイコとテンノは、(あや)の肩に飛び移った。






「んー。何処かにちょうどいい子は…。あ、あの子でいいや」

「なにするつもりなんだ…? 」


 聖間(せいま)は近くにいた長髪の女性のバキュロに近づいた。


「やあやあお嬢さん。ちょっと付き合ってくれない?」

 聖間(せいま)は接触を試みようとするが、バキュロは聖間(せいま)の言葉を聞かずに聖間(せいま)に飛び掛かってきた。


 聖間(せいま)は「ダメか…」と小声で言ってから、飛び掛かってきたバキュロを避けた。

 バキュロの後ろに回り、バキュロの足を蹴って膝立ち状態にさせた。


 聖間(せいま)は膝立ち状態のバキュロの脹脛(ふくらはぎ)のあたりを強く踏み、(ふところ)から手より少し大きいぐらいのサイズのタオルを取り出してから、バキュロの腕をタオルの上から掴んだ。


 その出来事は、一瞬だった。

 聖間(せいま)の早業に(あや)(こう)美香子(みかこ)は驚いた様子で聖間(せいま)を見ていた。

 鐵昌(てつあき)はその様子を見て、「チッ…」と小さく舌打ちをした。


「じゃあ注射器(コレ)がなんなのか説明するよー! 」

 と、聖間(せいま)は言う。


「説明って言っても…まあ、こういうことなんだけどね」


 そういうと、聖間(せいま)は拘束しているバキュロの首に注射器を刺した。

 突然のことに驚いたのか、バキュロはより一層呻き声を上げてもがきだした。


 そのタイミングで、聖間(せいま)はバキュロを押さえていた手を離した。

 襲ってくるかと思い(あや)は身構えたが、バキュロはただその場でのたうち回っているだけで、(あや)たちの方にくることは無かった。


 数秒間バキュロがもがいているうちに、変化が現れた。


「あ! あれ!」


 (こう)がバキュロを指さす。

 バキュロの肌の一部が、人間の肌の色のように変色していっていた。

 やがて全身の肌が変色した。呻き声も、もがく姿も見えなくなった。


 

 バキュロが、人間に戻ったのだ。


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