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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第肆章・数ある中の成功例
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第四十二話 背中

 一段落してコンビニに戻ってきた綺たちだった。


「何だったんでしょうかね~? あの人~? たち~」

「分かりませんけど…。とりあえず本気で僕たちを殺しに来てましたね」


「アナホベと…ハシヒト…? だっけ?確か社長に言われて私たちを探していた、って言ってたけど…」

「…チッ。またあいつかよ」

「勘弁してほしいですよね」

「ったく…。あいつはイニシャル通りの()()野郎だな」

「フフッ。うまいですね」


 鐵昌がサラッと言った言葉に、綺は少しウケていた。

「コラー、テツアキー」

「ゴシュジンサマハー、クソヤロウジャナイー」


 スイコとテンノが鐵昌に向かって言った。


「ゴシュジンサマハ」

「ニンゲンカンサツガ、スキナ」


「「タダノ、ヘンタイダー」」


 スイコとテンノが声を揃えて言った。

 その言葉に、綺と晃は爆笑していた。


 「あっそうですか」と興味なさそうに言って、鐵昌はトイレに行った。


 美香子はその時、自分のお腹が鳴ったので、自分の腹ごしらえをするついでにみんなに料理をふるまおうと考えていて、コンビニにある食材を探しにコンビニの店内へと向かった。



 鐵昌はトイレから出て、手を洗っていた。

 その時、前方の鏡を見た。


 今まで全く気付いていなかったが、鐵昌の服はバキュロの血や体液が複数個所にかかっており、見るからに汚れていたのだ。服を見てから鐵昌はズボンにも目を通した。

 ズボンの汚れは服よりも酷く広範囲に汚れがついていた。


 鐵昌は、流石にこのまま放っておいたら綺たちがバキュロに感染する恐れがあるかもしれないと思い、服を洗うついでに、一人で風呂に行こうと決めた。

 試しに袖についていた血液を水につけていたところ、ある程度こすらずとも汚れが流れ落ちていくのが見えた。これなら風呂に行って服全体を洗った方が良いと思ったのだ。


 鐵昌はコンビニの店内に出て、レジから厚手の大きなビニール袋と(はさみ)を取った。

 従業員部屋に一瞬だけ入り、エアガンを手に持つ。これで準備万端。


「あら~? 鐵昌さん~? 煙草でも吸いに行くんですか~? 」

 店を出ようとした時、コンビニの店内にいた美香子に声をかけられた。


「いや…、風呂行って来るだけ」

「わざわざ一人で行くなら~、さっき入ってくれば良かったのでは~?」

「…」


 鐵昌は美香子の言葉に何も答えずコンビニを出て行った。



 道中に何体かバキュロに遭遇したが、どうせ今から服洗うならと、全て倒していった。

 そして、道後浴場の前につき、中に入っていった。


 浴場に入って、脱いだ服を荒っぽく水に浸す。

 一人暮らしを始めた時、柔軟剤の代わりはシャンプーで代用できると知った。

 手に多めにシャンプーを出し、服を優しくもみ洗う。

 次第に血や汚れが浮き出てきて服は綺麗な状態になった。


「服がそんなに汚れてたら、流石に洗いたくなるよね~」


 聞き慣れた声が浴場の入り口から聞こえてくる。

 浴場の扉がガラガラと開き、ペタペタと足音が聞こえてくる。


 聖間だった。

「髪降ろしてても、相変わらず格好いいじゃん。鐵昌くん」

「…黙ってろ」


 鐵昌は聖間を睨みつけた。

 聖間は微笑みながら鐵昌の隣のシャワーの椅子に座る。


「鐵昌くんの三つ編み、結構似合ってたよ。お風呂入るためにほどいちゃったなんてね」

「…」


「鐵昌くん、ってちょっと長いから、てっくんって呼んでいい? 」

「…」


「コンビニで僕のことクソ野郎呼ばわりしてたでしょ! 結構傷ついたんだからね! 」

「…」


「っていうか鐵昌くん、筋肉ムッキムキじゃん!自衛隊時代の名残!? 」

「うっせーよ。黙れっつただろ? 耳腐ってんのか?」

「おお、怖い怖い」


 聖間の言葉を聞いて内心イライラしていたが、構うのが面倒くさかったので無視して服を洗ってた。 

 しかし流石にうるさくなりイライラが爆発して強めの口調で聖間を叱った。

 聖間は全く反省していないように見えた。


 聖間は少し黙って鐵昌を見てから口を開いた。


「…鐵昌くん。もしかしてだけど、晃君とお風呂に入りたがらなかった理由ってさ・・・、


背中の傷を見られるのが嫌だから?」

 その言葉を聞いて、鐵昌の服を洗う手が一瞬止まった。


 鐵昌の背中には、右肩の少し下あたりから左側の腰のところまでの大きさの、切り裂かれたような大きな傷跡があった。


 色は生々しい赤黒い色をしており、切って怪我をしたのか溝のようになっていた。

 傷跡の周りには火傷のような跡もあった。


 鐵昌はまた無視しようと思ったが、流石に口を開いた。


「…てめえには関係ねえだろ」

 と言って、服、ズボン、下着と来て、最後に靴下を洗っていた。


「ねえねえ。この傷、どうやって出来たの? …昔に何かあったの?教えてよ、鐵昌くん」

 それから、聖間は鐵昌の背中のことについてズイズイを詳細を聞こうと迫ってきた。

 鐵昌のイライラは、とっくに溜まっていた。

「そんなにもったいぶることないでしょ?何があったの~? 」

 と聖間が言った瞬間、


「うるせえっつってんだろが偽善者野郎!!!!!!! 何も知らねえくせに人の過去に馴れ馴れしく首突っ込んでくんじゃねえよ!!!!! 」


 とドスの効いた低い声で、どこか悲しそうな声で怒鳴る鐵昌。

 流石に聖間もいきなり怒鳴りだした鐵昌の言葉を聞いて、少しあっけにとられながら静かになった。


 鐵昌は荒くなった息遣いを深呼吸して整えてから、洗っていた衣類を取って浴場を出た。

 相当力を込めたのか、浴場に響くくらいの大きな音を立てて扉が閉まった。


 聖間はしばらくポカーンとしていたが、しばらくして「フフフ」と笑い出した。


「偽善者かぁ…。確かに僕は表面上ではみんなを助けてるけど、今は助けるどころか悪化させちゃってるしね~」



 そう言いながら聖間はシャンプーで髪を洗っていた。

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