第四十話 遭遇
綺と晃はコンビニに戻っている途中だった。
「ネエ。ネエチョット」
「なに? こちょばいから首触るの控えめにして」
晃の肩の上に乗っているスイコが晃の首をペチペチと叩く。
「テンノドコ? ミカコドコ? テツアキドコ? 」
スイコに言われ、綺と晃は後ろを向く。
さっきまで後ろにいたはずの美香子と鐵昌とテンノの姿がないのだ。
「あ…あれ? 美香子さんたちは? 」
綺と晃は辺りを見る。
美香子たちどころか、バキュロすらいなかった。
綺は嫌な予感がしてきて、少し身震いした。
「もしかして、はぐれちゃったのかな?」
「嘘!? どこで? 」
「分かんない。もしかしたら先に戻ってたりして」
晃にそう言われ、綺は「どうしたんだろ…」と言った。
その時だった。
綺と晃が曲がり角を曲がると、人影が見えた。
「「ん? 」」
その人影の声と、綺の声が被った。
その人影は。
「ほ、本当に出会っちゃったわ…。生きてる人間に…」
ハシヒトだった。
その声は物凄く震えていた。
「あ、あなたは…? 」
肌の色からして、バキュロであることは一瞬で分かった。
綺と晃は警戒して少し後ずさりする。
「そ、そんなに警戒しなくていいわよ。私はあなたたちを喰おうなんて思ってないですよ」
ハシヒトは両手の手のひらを前に出して、危害を加えないことを主張した。
綺と晃は最初は半信半疑だったが、他のバキュロと違い、スイコとテンノと同じような雰囲気が伝わってくるので、少しだけ気が緩んでいた。
「あなたは…バキュロ…なんですか? 」
「そうよ。あ、でも安心して。私は自分の意思ではあなたたちを襲ったりしない。…って、こんなこといきなり初対面で言われても信じられないか」
ハシヒトは苦笑いしながら頭を掻いている。
その時だった。
「おーーーーーい!!!!! ハシヒトーーーーー!!!!!! 」
遠くから大声が聞こえる。
その声を聞いて、綺と晃。そして、ハシヒトも驚いてビクッとしていた。
「このタイミングは不味いわ。二人とも! そこの店の中でじっとしてて!! 」
「「は、はい! 」」
綺と晃はその場の勢いで返事をしてしまった。
しかし、二人もなんとなくハシヒトの近くにいたら不味いことが起こると直感していたので、言われた通りに身を潜めることにした。
数秒後、ハシヒトの近くに人影が寄ってきた。
アナホベだった。
「ハシヒト!!! 人間いたか? 」
「いや…いなかったわよ」
「そうなのか?? 本当にいなかったのか??? 」
綺と晃はアナホベとハシヒトが話しているところを店のドアの隙間から見ていた。
アナホベに気づかれているのではと思い、綺は少し怯えていた。
「本当にって…嘘つく意味が分からないのだけれど」
「まあそうか!!!! 俺も人間見つけてねえ!!!!! 見つけたら絶対喰ってやるぜ!!!!! 」
「本当にいるのかしらね? 」
「ご主人が言ってたんだぜ? いるに決まってるだろ!!!! んじゃ!!! 俺もう一回探してくるぜ!!! 」
そういうと、アナホベは何処かに走り去っていった。
ハシヒトは「ふぅ」と息をついて綺と晃を呼んだ。
「ごめんね? うるさかったでしょあの子」
ハシヒトは飽き飽きしながらしゃべる。
「私はハシヒト。あのうるさいのはアナホベ。もしかしたら、今後関わるかもしれないので・・・」
「今後関わる…? 」
晃が首を傾げる。
「私はね…ご主人様の命令には逆らえない体になっているの。私から襲うことはないのだけれど、ご主人様に何か言われたら、もしかしたらあなたたちを食べることになったりするかもしれないの」
「ご主人様…。聖間…胡霧…」
綺が小声で言う。
綺の脳内に聖間の顔が浮かび上がり、綺は小さく歯ぎしりした。
「ん…? あ、あなたは!」
ハシヒトは晃の肩の上に乗っているスイコを凝視した。
「ン? ナンカヨウ? 」
「失礼かもしれませんが…あなたの名前は…」
「スイコダケド? 」
「やっぱり! あなたは、『大徳』のスイコですよね!! 」
「『ダイトク』? アー、ナンカソンナコト、ゴシュジンニイワレタナー。デ、アンタダレ? 」
「私は、『大礼』のハシヒトです! 」
ハシヒトはスイコの前で膝をついた。
「ヘー…。マッタク、シラナイ」
スイコは興味なさげに言った。
「大徳? 大礼? 一体なんの話ですか?」
晃がハシヒトに聞いた。
「私も正直よく分かってないのですが、ご主人様から聞いた話では、私たちバキュロの中での成功例が生まれた順番…みたいなことを言ってましたよ」
「順番?」
晃はちんぷんかんぷんだった。
綺には大徳、大礼という言葉に聞き覚えがあった。
しかし、何なのかは思い出せなかった。




