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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第肆章・数ある中の成功例
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第三十九話 試し打ち

「もう大丈夫なの? 」


 晃が心配そうに綺に尋ねる。

「うん。あんな美女の膝枕で大丈夫じゃないわけないでしょ? 」


 綺は真顔で言った。

「アヤ、カオマッカ」

 スイコが晃の肩の上に乗りながら言う。

 

「…鼻血出そうになってるよ」


 晃が少し引きながら綺に言った。

 綺は鼻を抑えた。


 綺と晃の後ろでは美香子と鐵昌が並んで歩いていた。

 鐵昌は無言で左のもみあげからぶら下がっている三つ編みを人差し指でいじっていた。


「うふふ~。三つ編み~気に入ってるんですね~」

「…まあな」


 鐵昌は美香子の方を見ずに返答した。

 美香子の肩に乗っているテンノが「モウチョット、スナオニ、ナレバイイノニ」と、周りに聞こえないような声で呟いた。


 その瞬間、鐵昌は何かに気づき、エアガンをサッと取り出して後方に二発放った。


 そしてその直後、呻き声が聞こえてきた。

 突然のことに、美香子は驚きながら鐵昌がエアガンを放った方を振り向く。


 頭にBB弾が貫通し、血を流して絶命しているバキュロがいた。

「あらあら~。全然いるなんて気が付かなかったわ~」

「テツアキ、スゲー」


 美香子とテンノが鐵昌の方を見る。

 鐵昌は二人の視線を無視し、遠くの方を見ていた。

 二人も鐵昌と同じ方向を見る。


 遠くの方から、また新たに数体のバキュロが美香子たちの方に向かってきていた。

「チッ…いきなりわらわら出てきやがって」

「どうするんですか~?」

「…とりあえず全員片す。いたら面倒だからな。お前らは綺たちのところに…」

「私にも撃たせてくれませんか~?」


 美香子が突然言い出す。

 鐵昌は一瞬ポカンとしていた。

「一度やってみたかったのよ~」

「お前…。これは玩具(がんぐ)じゃねえんだぞ…? 」

「あらあら~。そんなこと~私が分かってないように見えるかしら~? 」


 美香子が片手を頬にあてて言う。

 鐵昌は小さく息を吐いてから、「…ん」と言って美香子にエアガンを渡した。

「何か構え方とかありますか~? 」

「…知らねえ。俺は意識してない」

「じゃあ~…見よう見まねでこんな感じで~…」


 美香子は映画や本で見たような射撃の姿勢をうろ覚えで再現する。


 美香子のとった姿勢を見て、鐵昌が陸自にいたころの記憶が脳内を(よぎ)る。

 鐵昌は頭を少し横に振って記憶を追い出す。


「お願い~! 当たって~! 」


 美香子はそう言いながら前方にいたバキュロに狙いを定めエアガンを撃つ。


 放ったBB弾は、バキュロの眉間をピンポイントで綺麗に貫通した。

「あ~! 当たりました~! 当たりましたよ~! 」


 美香子が鐵昌の方を見て喜ぶ。

「…あ、そいつら二発入れないとまだ動くぞ」

「え~!? 早く言ってくださいよ~!」


 慌てて二発目を撃つ美香子。

 美香子は前方にいるバキュロを次々と撃っていく。


 鐵昌は他に何も持っていなかったので、ポケットに手を入れながらただ見ていたその時だった。

 美香子の横に、一体のバキュロが近づいていた。


 前方に注目していて、美香子は横から来ているバキュロに全く気付かない。

 鐵昌は動いていた。


 美香子の横を一瞬で通り、そのバキュロとの間合いを詰めた。バキュロの口、肌に触れないよう気を付け、膝を曲げて姿勢を低くとる。


 そして鐵昌は腕を曲げ、バキュロの腹を肘で思いっきり突いた。


 長袖を着ているので、感染の恐れは無かった。

 バキュロはその場から少し飛ばされ床に倒れた。


 鐵昌は倒れたバキュロの()の部分を踏んだ。予想以上に脆く、踏んですぐにバキュロの頭は破裂した。

 破裂した衝撃で、バキュロから飛び散った血液が勢いよく飛び散る。鐵昌のズボンや服、顔にまでついたのだ。


 感染する恐れがあるので鐵昌はサッと顔についた血液を拭き取る。

 その行動が視界の端で見えていた美香子は驚き、手元がブレていた。


「て、鐵昌さん~!? 何してるんですか~!? 」

「俺のことはどうでもいいだろ…。貸してやってるんだからとっとと全員片しちまえよ」

「でも~…。あ~! 気づけば後一体ですよ~! 」


 美香子はそう言い、最後に残ったバキュロを撃った。

「オー。ゼンブヤッツケタ。スゴイジャン、ミカコ」

「うふふ~。ありがとうね~スイコちゃん~」

「ワタシ、テンノ」

「間違えちゃった~! ごめんね~! 」


 美香子がテンノの頭をなでる。

「…あの、エアガン返して? 」

「はい~。貸してくれてありがとうございました~! 」


 美香子はエアガンを鐵昌に返す。

 鐵昌はエアガンを受け取ってからバキュロを踏んだ足を地面にこすりつけた。


「…ネエネエ。ミカコ。テツアキ」


 美香子の肩に乗っているテンノが二人に話しかけた。

「なにかしら~? 」

「アノサ…」


 テンノは少し間を開けて言った。



「アヤト、コウ。アト、スイコ。ドコイッタノ?」

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