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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第肆章・数ある中の成功例
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第三十八話 刺客

 如月駅のどこか。


 無数のバキュロが徘徊している中、一体のバキュロが声をあげていた。

「ア…ニンゲン…タベタイ…! ニンゲン! ドコ? ニンゲン! ニンゲン! 」


 奇妙な笑い声をあげながら駅をうろついている。そんな中。

 そのバキュロは何かにぶつかった。そのバキュロはぶつかった方を見る。


「オマエ! ダレ!? ニンゲン? ニンゲン? 」


 そこには、一人の青年が立っていた。

 ギリギリ肩につく少し長めの髪。ノースリーブの赤黒い服に、手首には水色の汗拭きバンドを付けていた。


 そして、バキュロのような肌の色。


 その青年はぶつかったバキュロの方を向く。

 次の瞬間、青年が一瞬のうちにそのバキュロの後ろに移動した。

 その手には、ぶつかったバキュロの生首が握られていた。


「ア…ア…? 」


 数秒間意識があったバキュロは目の前の光景を見ていた。

 さっきまで仲良し状態だった自分の首と胴が、気が付いたら離れ離れになっていた。


 頭のないバキュロの胴体は、もぎ取られた首の部分から血が噴き出し、その場に倒れた。

 そして、生首状態だったバキュロも、次第に意識が無くなっていった。


 青年は手で掴んでいる生首を自分の目の前まで持ってきた。

 機能していない目を自分の方に向けていた。


「ぶつかってきたんだったら謝るのが筋だろうかああああああああ!!!!!! 」


 青年が突然大声を出す。あまりの声の大きさで、周りにいたバキュロたちが無意識に耳をふさいでいた。

 青年はそう言いながら生首を壁に思いっきり投げた。

 壁にひびが入り、生首は辺りに血を撒きながら破裂した。


 青年の足元に、生首についていた腐った眼球が転がってくる。

 青年は転がってきた眼球を躊躇なく踏みつぶした。


「来世まで待っててやるなら謝りに来いよ!!!!! 分かったか!!!!!! 」

 青年は頭のないバキュロの体に向かって話しかけた。


「返事なんか返ってくるわけないじゃない。頭はあなたが潰しちゃったんだから」


 青年の後ろから、同じくバキュロのような肌の色をした、長髪の女性が姿を現す。

 前髪を半分だけピンでとめており、薄い赤の服を着ている。

 青年と同じく、水色の汗拭きバンドを付けていた。


「うるせえハシヒト!!!!!! お前には関係ねえだろ!!!! 」

「あらそう…」


 ハシヒトと呼ばれた女性は、青年の言葉を流した。


「っていうかアナホベ。ずっと前から言ってるけど、もう少し声量下げれないの? 」

「あ? なんで下げる必要があるんだ? 」

「いや~だってうるさいんだもの。耳がキンキンするわよ」

「そうなの? なんかすまん!!!!! 」


 アナホベと呼ばれた青年は頭を下げて謝っている。

 謝罪の言葉すらも大声で言っているので、ハシヒトは「謝る気あるのかな…? 」と心の中で思っていた。


「やあやあお二人さん。相変わらず仲がよろしいようで」


 アナホベとハシヒトは急に声をかけられ、声のした方を見る。

 そこには、聖間が微笑みながら立っていた。


「ご、ご主人様!!!!??? 」

 アナホベとハシヒトは慌てて膝をつく。


「なにか御用でしたのなら、我々が参りましたのに…お手数をおかけして申し訳ありません!! 」

「いいのいいの。ハシヒトちゃんは真面目だね~」


 謝るハシヒトを聖間は許す。

 聖間は咳払いをして、本題に入った。


「君たちさ…人間に飢えてる? 」

 聖間の問いに、ハシヒトは一瞬「 ? 」を浮かべた。


「俺は飢えてます!!!! 最近生きてる奴見かけないから!!!!! 」

「私は飢えてるって程ではありませんけど…」

「あはは! 二人とも正直でよろしい!! そんな二人に、面白いこと教えてあげるよ!! 」

 聖間はニヤニヤしながら話す。


「この駅のどこかに…生きのいい四人の人間が、まだ生きてまーす!! 」


 聖間は一人で拍手をしている。

「本当ですか!!!!!????? 」

 アナホベは食いついて聖間に真偽を問う。


 聖間は「本当だよ」と頷く。

 アナホベは喜んでいた。


「しっかし、本当君たちって不思議だよね。人を食べた分だけ強くなるって、どこかの漫画で見たことあるよ? 」

「そうなんですか? 」

 良く分からないハシヒトは首をかしげる。


 アナホベはハシヒトの方を向いて叫んだ。


「ハシヒト!!!!! 決めたぜ!!!! 俺は、その人間を喰って!!!! 強くなって!!!! 俺が!!!! 『大礼(だいらい)』の位に!!! 立ってやるぜええええええ!!!!!!!! 」


 アナホベがそう言った後、聖間が少し間を開けて話し出した。

「…アナホベくん? 勘違いしているようだけど、()の順番は()()()()()につけてるから、君の位は『小礼(しょうらい)』。ハシヒトちゃんの位は『大礼(だいらい)』で、ずっと変わんないよ?」


「な、なにいいいいい!!!!!!???????? 」

 アナホベは膝から崩れ落ちた。


「まあまあ。位が高いところでなにかあるわけじゃないんだから…」

「うるせえ!!!!!! そういうのって、高い方がなんかいいじゃん!!!!!! 」

「うるさいのはどっちよお…」


 ハシヒトは少し呆れていた。


 この()が何なのかは、まだ知るのは少し先なようだ。

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