第三十八話 刺客
如月駅のどこか。
無数のバキュロが徘徊している中、一体のバキュロが声をあげていた。
「ア…ニンゲン…タベタイ…! ニンゲン! ドコ? ニンゲン! ニンゲン! 」
奇妙な笑い声をあげながら駅をうろついている。そんな中。
そのバキュロは何かにぶつかった。そのバキュロはぶつかった方を見る。
「オマエ! ダレ!? ニンゲン? ニンゲン? 」
そこには、一人の青年が立っていた。
ギリギリ肩につく少し長めの髪。ノースリーブの赤黒い服に、手首には水色の汗拭きバンドを付けていた。
そして、バキュロのような肌の色。
その青年はぶつかったバキュロの方を向く。
次の瞬間、青年が一瞬のうちにそのバキュロの後ろに移動した。
その手には、ぶつかったバキュロの生首が握られていた。
「ア…ア…? 」
数秒間意識があったバキュロは目の前の光景を見ていた。
さっきまで仲良し状態だった自分の首と胴が、気が付いたら離れ離れになっていた。
頭のないバキュロの胴体は、もぎ取られた首の部分から血が噴き出し、その場に倒れた。
そして、生首状態だったバキュロも、次第に意識が無くなっていった。
青年は手で掴んでいる生首を自分の目の前まで持ってきた。
機能していない目を自分の方に向けていた。
「ぶつかってきたんだったら謝るのが筋だろうかああああああああ!!!!!! 」
青年が突然大声を出す。あまりの声の大きさで、周りにいたバキュロたちが無意識に耳をふさいでいた。
青年はそう言いながら生首を壁に思いっきり投げた。
壁にひびが入り、生首は辺りに血を撒きながら破裂した。
青年の足元に、生首についていた腐った眼球が転がってくる。
青年は転がってきた眼球を躊躇なく踏みつぶした。
「来世まで待っててやるなら謝りに来いよ!!!!! 分かったか!!!!!! 」
青年は頭のないバキュロの体に向かって話しかけた。
「返事なんか返ってくるわけないじゃない。頭はあなたが潰しちゃったんだから」
青年の後ろから、同じくバキュロのような肌の色をした、長髪の女性が姿を現す。
前髪を半分だけピンでとめており、薄い赤の服を着ている。
青年と同じく、水色の汗拭きバンドを付けていた。
「うるせえハシヒト!!!!!! お前には関係ねえだろ!!!! 」
「あらそう…」
ハシヒトと呼ばれた女性は、青年の言葉を流した。
「っていうかアナホベ。ずっと前から言ってるけど、もう少し声量下げれないの? 」
「あ? なんで下げる必要があるんだ? 」
「いや~だってうるさいんだもの。耳がキンキンするわよ」
「そうなの? なんかすまん!!!!! 」
アナホベと呼ばれた青年は頭を下げて謝っている。
謝罪の言葉すらも大声で言っているので、ハシヒトは「謝る気あるのかな…? 」と心の中で思っていた。
「やあやあお二人さん。相変わらず仲がよろしいようで」
アナホベとハシヒトは急に声をかけられ、声のした方を見る。
そこには、聖間が微笑みながら立っていた。
「ご、ご主人様!!!!??? 」
アナホベとハシヒトは慌てて膝をつく。
「なにか御用でしたのなら、我々が参りましたのに…お手数をおかけして申し訳ありません!! 」
「いいのいいの。ハシヒトちゃんは真面目だね~」
謝るハシヒトを聖間は許す。
聖間は咳払いをして、本題に入った。
「君たちさ…人間に飢えてる? 」
聖間の問いに、ハシヒトは一瞬「 ? 」を浮かべた。
「俺は飢えてます!!!! 最近生きてる奴見かけないから!!!!! 」
「私は飢えてるって程ではありませんけど…」
「あはは! 二人とも正直でよろしい!! そんな二人に、面白いこと教えてあげるよ!! 」
聖間はニヤニヤしながら話す。
「この駅のどこかに…生きのいい四人の人間が、まだ生きてまーす!! 」
聖間は一人で拍手をしている。
「本当ですか!!!!!????? 」
アナホベは食いついて聖間に真偽を問う。
聖間は「本当だよ」と頷く。
アナホベは喜んでいた。
「しっかし、本当君たちって不思議だよね。人を食べた分だけ強くなるって、どこかの漫画で見たことあるよ? 」
「そうなんですか? 」
良く分からないハシヒトは首をかしげる。
アナホベはハシヒトの方を向いて叫んだ。
「ハシヒト!!!!! 決めたぜ!!!! 俺は、その人間を喰って!!!! 強くなって!!!! 俺が!!!! 『大礼』の位に!!! 立ってやるぜええええええ!!!!!!!! 」
アナホベがそう言った後、聖間が少し間を開けて話し出した。
「…アナホベくん? 勘違いしているようだけど、位の順番は成功した順につけてるから、君の位は『小礼』。ハシヒトちゃんの位は『大礼』で、ずっと変わんないよ?」
「な、なにいいいいい!!!!!!???????? 」
アナホベは膝から崩れ落ちた。
「まあまあ。位が高いところでなにかあるわけじゃないんだから…」
「うるせえ!!!!!! そういうのって、高い方がなんかいいじゃん!!!!!! 」
「うるさいのはどっちよお…」
ハシヒトは少し呆れていた。
この位が何なのかは、まだ知るのは少し先なようだ。




