第三話 手助け
手を差し伸べる男の子。私はその手を掴み立ち上がった。
「親とかとはぐれた? 」
と、言ってきた。
「いや……一人で来ました」
外見から見たら私は相当幼く見えるのか。そんなことを思いながら男の子に言う。
男の子は私より少し背が高いくらいだった。そんな男の子の視線が、私の後ろにいく。
「危ない! 」
ぐちゃっ、という音と共にうめき声が聞こえる。男の子が一瞬で後ろに行き、バットで私を食おうとしていた奴を殴ったのだ。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばないよ。あと、別に敬語じゃなくていいよ?」
と言って、男の子はバットについた血をティッシュで拭く。
「僕の名前は物岐 晃っていうんだ。よろしく」
「へ? 」
突然の自己紹介にどう反応すればいいのか分からなかった。
「ほら、もしかしたらここでずっと過ごす…なんてことありそうだしさ、もし君が良かったら脱出できるまで一緒に行動しない? 」
これは……告白……? なんて、悠長なこと考えていられなかった。
こんな状況になってしまった以上、この環境を一人で生き抜くのは至難の業だろう。私はその提案に乗ることにした。
「私の名前は蘇我見 綺です。私も、えっと……晃さんと一緒に行動したいです……」
やっぱり初対面の人だと人見知りが発動して、うまく呂律がまわらない。意識しなくても敬語になってしまう。
「……綺って何歳なの?」
いきなり下の名前の呼び捨てで呼ばれて、一瞬戸惑った。
「十二歳です。早生まれなので今は中一です」
「中一?! へー意外。僕と一つしか違わないじゃん」
「?」
「僕も早生まれで、今十三歳だけど中二なんだ」
こんなたわいもない会話をしていると、奥から足音が聞こえてきた。二人で一斉に音のする方向へ視線を向けると、また謎の生物。
しかも今度は二体いた。
晃は綺に下がっててと言いながら前に出てバットを振りかざした。
二対一で戦っているところ、晃の後ろにもう一体の謎の生物が忍び寄っていた。「晃! 後ろ! 」と言っても、「今話しかけないで! 」と、後ろの謎の生物に気が付かない。どうすればいいのか、混乱に混乱が積み重なってすでに頭がパンク状態だったとき、バックの中を漁ると
「……これしかない」
取り出したのは、さっき買ったサイダー。綺はまだ未開封のサイダーを思いっきり振った。ペットボトルがパンパンに膨れ上がっている。
目の前の謎の生物を撃退した晃に、後ろにいる奴が襲いかかろうとしていた瞬間
「お願い当たってぇぇぇぇ!!! 」
キャップを開けるとサイダーが噴出した。いきなりの大声と首筋のあたりににかけられたサイダーに吃驚して、晃が綺の方へ振り向いた。
「ちょっといきなりなにしてんの! 」
「う・し・ろ・だってばぁぁ! 」
晃は後ろを向いた。そこには至近距離まで近づいてきていてサイダーをかけられ少しバランスを崩している謎の生物がいた。
「うわっ! おまえいたんかい! 」
と言いながらバットを振りかざす晃。
綺は危機さ去った事を察し、一気に力が抜けた体をへなへなと地面につけていく。そこに、少し息を切らした晃が近寄っていく。
「ありがとう。ナイスファインプレーだったよ」
晃は親指を立てながら言った。綺も無意識のうちに、晃に向かって親指を立てていた。