第三十話 謎
「ココ? 」
「そうよ~」
美香子の手の上に乗っているスイコが聞く。
スイコの短い手がコンビニを指す。
「テツアキ、シャガンデ。ワタシノ、アタマ、ブツカル」
テンノが鐵昌に指示を出す。
鐵昌は無言で少ししゃがんでドアを通った。
この如月駅のコンビニの自動ドアの高さは、他のコンビニと比べてかなり低い。
平均的な身長の鐵昌でも、軽くジャンプしたら頭がぶつかるくらいだった。
「…シャッター降ろすぞ。早く通れ」
「はい~」
美香子が足早にコンビニに入り、鐵昌がシャッターを降ろす。
従業員部屋に入ると、綺と晃は机で何かをしていた。
「戻ってきたわよ~」
「あ! やっと戻ってきた! 」
「何してるの~? 」
「店内にあったボールペンとノートで絵しりとりしてました」
綺と晃が使っていたノートを見る。
犬だか猫だかわからない生き物など、他の人が見たら訳の分からないような絵がたくさん描いてあった。
「…お前はそろそろ降りろ」
その時、鐵昌はずっと頭の上に乗っていたテンノの首根っこをつまんで、机に降ろした。
初めて対面するテンノの姿に、綺と晃は「なんだこれ? 」という顔で見ていた。
「イキナリオロスナンテ、モウスコシ、ノッテタカッター」
「テンノガオリテルナラ、ワタシモ、オリル」
スイコが美香子の手から机に飛び移る。
「あのー…、この子たちは…?」
晃が鐵昌に聞いた。
鐵昌は少し黙って、ポケットからライターと煙草を取り出した。
「吸ってくるから美香子に聞け」
説明するのが面倒くさくなり、煙草を口実にして美香子に全て任せた。
鐵昌が部屋を出た後、美香子は「え~!? 」と言いながら綺と晃の方を向いた。
綺と晃は今すぐ説明を聞きたいと美香子から視線を離さない。
「セツメイ、タイヘンナラ」
「ワタシタチカラモ、ナニカ、テツダオウカ?」
スイコとテンノがトコトコと歩きながら美香子に近づく。
美香子はスイコとテンノに「ありがと~」と言ってから、綺と晃に説明した。
「感染力のない…バキュロ? 」
「バキュロっていう名前は~その聖間社長がつけてたものよ~」
「へー。なんか変な名前だね」
「まあ確かに~。なにか由来でもあるのかしら~?」
綺と晃が大まかに理解できて来ていた時、鐵昌が入ってきた。
「あ、鐵昌さん~。ちょうどいいところに~」
「…なに? 」
美香子が目をキラキラさせて鐵昌の方を見る。
鐵昌はなにか面倒くさいことを言わされるかと思って少し顔が暗くなった。
「聖間社長が言ってた~バキュロってなんだと思いますか~? 」
美香子が聞く。
鐵昌は少し間を開けて喋りだした。
「…そんな名前のやつ、なにとち狂ったか知んなかったけど、ガキの頃調べた記憶がある」
「知ってるんですか!? 」
綺が鐵昌に詰め寄る。
「バキュロウイルス…」
初めて聞く聞きなれない言葉に、綺と晃と美香子は『?』の文字を浮かべる。
「なんですか? そのバキュロウイルスって…? 」
「確か…種特異性の高いDNAウイルス…的な奴だったと思うが…」
鐵昌はなにかに悩んでいるのか、腕を組んで下を見つめている。
「どうしたんですか?」
「いや…仮にあの社長が言ってるバキュロってやつが、そのバキュロウイルスから取ったとしたらよ、おかしいんだ」
「なにがですか~?」
「バキュロウイルスは人間…というか、脊椎動物には感染しない。感染するのは、節足動物だけなんだよ。むしろ、俺たちからしたら安全なウイルスで、農薬として使われてるんだ」
どこかの部屋。
聖間は一人でイヤホンを耳につけ、あるものを聞いていた。
「ふふふ…。どんだけ頭が冴えてるの?鐵昌くん」
聖間が聞いていたものは、コンビニの従業員部屋にいる綺たちの会話だった。
「益々面白いことになってきたなー!…直接答え教えに行ってあげようかな」
聖間は近くに置いてあったジンジャーエールを一気飲みした。




