第二話 救世主
血生臭いにおいがあたりに充満していた。
「助けて、助けてえええええええ!!!!!! 」
目の前に広がっている光景は、涙を流しながら必死にもがいてあたりに助けを求めている駅員と、その上でじわじわと駅員を食していく謎の生物。号泣しながら助けを呼ぶ駅員の声も次第に小さくなり聞こえなくなった。
駅員が動かなくなったのを確認した謎の生物は群衆の方に顔を向けた。
その瞬間、次は自分が襲われると恐怖した人々は、一目散に逃げだした。叫ぶ大人、泣きわめく子供。その場は大混乱していた。
綺は恐怖を悟り逃げ道を考えていたところ、奥の方に逃げて行った人々に謎の生き物が気づき、そっちの方に歩を進めて行った。その場に固まっていた綺と少数人の人たちは安堵して、携帯で連絡と取ろうとしている人や、未だに混乱していて、頭の中の整理をしている人などがいた。その刹那だった。
ガリガリ……。
何かをひっかくような音。音のする方向を向いてみると、さっき謎の生物に襲われていた駅員の遺体がひとりでに立ち上がっていた。よく見てみると、その駅員さんの肌や顔が、
あの謎の生物と全く同じになっていた。
こっちに向かって唸り声をあげながら近づいてくる。あの人は、いや、あいつは、駅員ではない。
「もう、何がどうなってるのー!? 」
逃げようと駆け足になった綺だが、あまりに急に走り出したせいか、足を捻って転んでしまった。
すぐそこに元駅員が迫ってきている。「もう死ぬのかな」と思いつつ、必死に手で体を動かそうとするがもう遅い。
もう食べられると思った瞬間、元駅員が横に吹っ飛んだ。そして、元駅員がいた場所に人が立っていた。
「大丈夫? 」
手を差し伸べてくれるその人の片手には、生々しい血のついたバットが握られていた。