第二十七話 黒幕
美香子と鐵昌は声のした方を振り返る。
「安心して! 監視カメラとかつけてないからー! 僕そんな変態じゃないよ! 」
「…どちら様かしら~? 」
美香子が出入り口の扉を開ける。
扉の向こう側を見渡してみたが、見えたのは荒れ果てた駅内の通路と謎の生物の死骸だけだった。
「あらら~? 誰もいないわよ~? 」
美香子は声の主を探す。
その時、鐵昌はあることを思いた。
「おい、一旦こっち入れ」
出入り口の扉の所から鐵昌が美香子に手招きする。
「なにかあったのですか~? 」
美香子が扉に近づくと、鐵昌は美香子の手を取り引っ張った。
美香子は突然のことに驚く。鐵昌の胸に 顔が一瞬埋まる。
少し恥ずかしくなり、美香子は少し赤面になりながら鐵昌から離れた。
「い、いきなりなにを~…? 」
「静かに」
鐵昌は美香子から目を背けながら言った。
数秒後、さっきと同じ声が聞こえた。
「おお凄い。鐵昌くん察してくれた? 」
「察したというか…。もしかしたらお前、姿見られたくねえんじゃねえのかなって思ってよ…」
「まあそんなところかな」
扉の向こうから拍手の音が聞こえてくる。
「あの~…。あなたは一体~どちら様でしょうか~?」
美香子が聞く。
少し間が空いた後、声は聞こえてきた。
「僕はただの管理人だよ。この浴場…というか、この駅のね! 」
声のトーンが明らかに明るい。笑顔で言っていることが想像できるくらいだった。
美香子は思わず「へ? 」と声を上げた。
鐵昌は眉間に少し皺を寄せた。
「駅の管理人さんってことは~、鉄道会社の人ですか~? 」
「んー? 違うよ? というか、何ていえばいいのか難しいんだけど、『今この状態の駅の管理人』って言えばいいのかなー? 」
「??? 」
美香子はよく意味が分からず、腕を組んで首をかしげる。
「…俺からも少しいいか? 」
鐵昌が言う。
「どーぞどーぞ!」
「まず…この紙に書いてある【バキュロ】って何のことだ? 」
「あー! その紙読んでくれたんだ!! 嬉しいなー! えっとね、バキュロっていうのはね、鐵昌くんたちも見たことがあるあの肌が凄い色してる人間みたいな生き物のことだよー! 」
謎の生物はバキュロと言うらしい。
「僕が生んだ可愛い子だからねー! 他にも名前の案あったけど、これが一番しっくりくるかなーって思って、バキュロって名付けたんだよー! 」
「あ? 生んだ? 」
鐵昌は顔をしかめる。
「うん。うちの秘書にちょっと新型のウイルス入れたら生まれたんだ」
声の主はケロッと言う。
上手く事柄が整理出来ない鐵昌は少し黙って考え込んだ。
その間、美香子が問う。
「ということは~、あなたがこの状況を生み出したってことかしら~? 」
「ご名答。中々楽しいでしょ?非日常体験的な?」
「こんなことやってたら~、大問題で外ではニュースになってんじゃないのかしら~? 」
「ないない。今の日本の僕に対する接待は神様みたいだからね。経済界では、僕が日本を背負っているようなもんだもん」
「さっきのうちの秘書だとか~、日本を背負っているとか~。もしかしてどこかの会社の社長さんかしら~? 」
「美香子ちゃんさっきから頭キレッキレだね~! そうだよ。僕はとある会社の社長だよ」
また拍手が聞こえる。
美香子はこの声に聞き覚えがあった。
数日前、とあるバラエティー番組で聞いた。
しかし、名前は思い出せなかった。




