第十七話 探検 其の仁
「晃、これ!」
放送機材のあった部屋の机にある箱を綺が手に取る。
「これは! ドラゲna」
「トランシーバーじゃん! 」
箱の中には四個のトランシーバーが入っていた。
最新の物らしく、汚れもついておらず説明書はしっかりとはいっており近くには領収書も置いてあった。
「えーっとなになに…『最大電波観測距離・700m』だって。これ使えるんじゃない? 」
「四個あるから私と晃と美香子さんで一個ずつ持てるね。残りの一個は予備用かな?」
「そうだね。じゃあこれ持って帰ろう! 」
次に二人は線路に向かった。晃がバットを持ちながら前を歩き、綺がトランシーバーの入った箱を持ちながら後ろを歩いているといった感じだ。
「結局駅内放送は何回やっても駄目だったね」
「うーん。放送機材のコードの切れ方・・・誰かが故意に切ったとしか思えないんだよなぁ…」
「なに名探偵ぶってるの。ほら、もうすぐホームだよ」
改札を抜ける。普段は交通機電子マネーをかざしたり切符を入れたりするが、今となって改札は作動していない。
なにもないかのように改札を通り過ぎる。
…少し罪悪感があった。
「…何気にこのトランシーバー達重い…。ずっと持ってるからちょっと辛くなってきたし…」
綺の腕が少し震えている。
「だったらバットと交換する? あいつらに会ったら倒してもらうようだけど」
「もうそれで良いよ…」
綺は晃に箱を渡した。綺は晃からバットを受け取った瞬間、膝がガクッと下がった。
「ふぁ!? 重! 」
「そりゃそうだよ。金属バットだもん」
「ひぇ~見た目から完全にプラスチックだと思ってた…」
「塗装されてるからそう見えるだけだよ。どうする? やっぱり箱持つ? 」
「いや、バット持つよ」
晃はこんな重さのある物を軽々と振ってたのか。野球部だから慣れてるのかな? と思いながらバットを眺める。
これが普通のバットの重さなのかもしれないが、どっちにしろ綺は自分の筋力不足に少しゾっとしていた。
帰宅部だから普段から体力づくりなどはしていない。体育の授業などではすぐにばてて、次の授業の内容が頭に入ってこないぐらい。
学校からすぐに帰ってはおやつ片手にネットサーフィンの毎日。
こんな生活で体力がつくはずがない。
そんなことを頭の中で呟いているうちにプラットホームへとたどり着いた。
その光景に綺は思わず青ざめ、うわぁと声を出してしまった。
プラットホーへム自体に謎の生物はいないものの、線路には大量の血痕。そして、謎の生物が群がっていた。
プラットホームの床には線路から這い上がろうとしたであろう血の付いた指の跡が残っていた。
こっちに気づくなり線路の所から呻き声をあげて近づき、ホームに上ろうと手を伸ばしていた。
幸いにも登ってこれないようだが、これでは線路の確認が出来ない…と思っていた矢先、晃が何かを発見した。
「綺、こっち来て」
晃が手招きをして誘導する。
線路の先の方まで見える角度だった。
「え…なにあれ…」
見えたのは線路・・・線路のあるトンネルを封鎖するように、地面から天井までにそびえたっている鉄格子だった。