第十三話 優越感
「あらら~? あそこすごいことになってるわね~」
「【立ち食い蕎麦 如月店】か…」
「美香子さん、ちょっとあそこ一人で見てきてくれませんか? 」
永介が謎の生物が群がっているところを指さして言った。
「一人で~? なんでかしら~? 」
「あそこにこの人数でいくのは危険だと思うんです。かといって俺が行ってきたとしても食材が分かりませんし………」
美香子は口を押えた。一人であの中に行かせる理由が無理やりすぎて笑いそうになったのだ。
「………頑張ってみるけど何か武器がないと危険だわ~」
「それなら………丈弥、パイプ渡せ」
「え~まっ、いっか」
丈弥はしぶしぶパイプを美香子に渡す。
ここまでは計画通り。後は美香子が無事に綺と合流すれば完璧だ。
「あ、こっちからならいけるわ~」
美香子は丈弥から受け取ったパイプを握り閉めながら謎の生物の間を縫い、カウンターに入った。
「美香子さん! 」
テーブルの下でうずくまっている綺に美香子が抱き着く。
「お疲れ様~。後は晃くんが合図を出してくれるだけよ~。一人でよく頑張ったわね~」
美香子が綺の頭を撫でる。
綺は美香子の急な行動に驚いた。
「………美香子さんって近くで見ても綺麗ですね」
「なにか言ったかしら~? 」
「いえなにも」
咄嗟に口をおさえた。
無意識に心の声が漏れてしまったのだ。
「晃、いつサイン出すのかな………」
「永介さん」
「なんだ? 」
「質問なんですけど、この作戦って穴だらけだったりおかしな気がしません? 例えばさっき美香子さんも言ってましたけどなんで武器を持っている人が偵察に行かないんですか? 」
永介は少し黙った。
「自分の生存率を上げる………。言ったはずだ。こんな状況になって他人のことなんか見てられるか。まさに弱肉強食。弱い者が死に、強い者が生きる。それだけさ」
「でも少しでも生きている人は多い方がいいんじゃないですか? 」
永介は完全に黙り込んでしまった。
そこに丈弥が入ってきた。
「永介は答えずらそうだから俺が代わりに答えるよ」
丈弥は不敵な笑みを浮かべた。
「優越感………」
「優越感? 」
晃はその言葉が一瞬理解できなかった。
「弱い奴たちが負けて強い人たちが勝つ。まさに弱肉強食だよ。んでもって僕たちは、ズバッと言うけど強い方になりたいわけ。そのための犠牲はつきものだよ」
丈弥は続けた。
「でも凄いよね。あんなに弱い人たちでも俺らの役に立ってるんだよ? いやー感動ものだね! 」
丈弥は笑いながら涙を拭うそぶりを見せた。
完全に壊れている。晃は断定していた。
普通に考えればおかしいし、意味のないことを淡々と胸を張って喋る丈弥。それに対してなんの反論もしない永介と怜。
そんな意味のないことでこれ以上犠牲者を出してたまるか。
そう心の中で誓った晃はバットを床に落とした。