第十一話 復讐
「……綺」
バットを置き、晃が戻ってきた。
よく聞くとすすり泣くような声が聞こえる。
「ど、どうしたの晃? 」
ゆなからのショックから立ち直った綺が晃に駆け寄る。
晃にタオルを渡した。
晃は涙を拭いてから周りを見渡す。
三人から作戦の話を聞いた後、晃は一人で休憩室に戻ってきたのだ。
周りに三人がいないことを確認した晃は、綺に作戦のことを全て暴露した。
「そんな………」
真実を知った綺の目には涙が浮かんでいた。
「そして、次に身代わりにされるのは綺か美香子さんどちらかと言っていたんだ」
「えっ!? 私か美香子さん!? 」
「そこでだ、ちょっと僕にも作戦があるんだ」
「何の作戦? 」
「復讐――」
その言葉に綺は黙り込む。
「………いいよ。乗ってあげるよその作戦とやらに」
「そうこなくっちゃ」
晃は指パッチンをした。
「教えてよ、作戦。私は晃が私たちを騙そうとしていないって信じてるから」
綺はすっかりその気だ。
「あの三人は謎の生物が大量発生しているところに偵察係を手配するって言ったよね? そこで、綺は謎の生物をおびき出してもらい、お店に集めてほしいんだ」
「ええっ、あの生物に大量ストーカー? ………まぁ嫌だけどその続きを教えて」
「僕はあの三人と一緒に綺が連れてきてくれた謎の生物が群がっているお店に三人を連れ込む。僕がサインを出すからそれと同時に綺は従業員部屋に逃げ込み、鍵をかける。獲物を見失った謎の生物たちは振り向き、僕と三人に目を付け追いかけてくる。その瞬間に、綺にはスイッチを押してもらってお店のシャッターを閉めてもらう」
「シャッター閉めるって、晃逃げられなくなっちゃうじゃん! 」
「僕は大丈夫。シャッターが降りてくる前に三人をお店の中に置いてきぼりにしてお店をでるから。シャッターが下りてきたら僕がシャッターを掴んで、一瞬で下す。そうすれば、お店の中にはあの三人と謎の生物でいっぱいってこと」
「うーんでも、あの人たちパイプ持ってるじゃん。閉じ込めておいても全員やっつけて『出せぇー! 』とか言ってくんじゃないの?」
「それは……僕がお店に入る前になんとか言って回収しておくよ」
「っていうか、私は謎の生物をおびき寄せるけどさ、あの三人の作戦の身代わり役ってのは誰がやんの? 」
「誰がと言っても……一人しかいないけど…」
晃は美香子の方を向いた。
「あの……」
「私なら大丈夫よ~。学生時代は運動部だったし~、ゆなちゃんの敵は是非とりたい気分だわ~」
「なら良かったです。僕がサインを出したら綺と一緒に従業員部屋に逃げ込んでください」
「了解~」
「お店は【立ち食い蕎麦 如月店】。あそこなら店も少し狭いしいいんじゃない?」
「良いと思うよ」
「それならいいこと思いついたわ~。晃くん、ちょっとバット貸してくれないかしら~」
「いいですけど何に使うんですか?」
「護身用に持っていきたいだけよ~。ちょっと今言ったお店に下準備しに行ってくるわ~」
美香子が出て行った。その数分後に三人が帰ってきた。
綺と晃は不審に思われないように演技をした。
綺はいつもどうりの声のトーンと顔で「おかえりなさい」と言う。三人の作戦のことを全く知らないかのように。
晃は作戦を聞いて落ち込み、暗いオーラを放っていた。
三人は綺と晃の演技に全く違和感を感じていなかった。
「晃がいきなり帰ってきたと思ったらずっとあんな雰囲気なんですよ。なにかあったんですか? 」
「いやー特に何もなかったけどなぁ。俺たちも急に晃が走り出したから吃驚してたぜ」
すっとぼける永介。頭をぼりぼりと搔いている。
「あるえ? 美香子さんは? 」
「……美香子さんならさっきトイレに向かいましたよ」
美香子を探す丈弥に晃がトーンを低くして言う。
三人は、なにも変には思っていなかった。