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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第陸章・君は君であれ
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第八十一話 桃源郷


(……どこだここ?)


 意識を失っていた晃は目を覚ました。


 横になっていた体を起こし、周りを見る。

 しかし、周りは暗闇。


 光が無く、様子を確認することは出来なかった。


 晃の居る暗闇の空間は、ガタゴトと揺れていた。


(なんだろうこの揺れ……もしかして、車の中?)


 ふとそう思い、晃は床に耳を当てる。


 そこから、微かにエンジンの音やタイヤが回る音などが聞こえてきた。

 その時、暗闇の空間が ガコンッ! と何かに突っかかったように大きく揺れた。


 晃は「わっ!?」と声を出し、その場で体勢を崩して倒れた。


 倒れた体を起こそうと、晃は手を床に着く。

 着けた途端、床と手の間に何かがある感触がした。


(なにこれ……?)


 何本もある細い糸のような感触。

糸と言っても毛糸のような柔らかさは無く、針金のような硬さも無いような感じの硬さだった。

 

(もしかして、髪の毛?)


 晃はそう思い、少し躊躇(ちゅうちょ)しながらその糸を辿った。

 辿った末に、その糸が生えてきていると思われる物に触れた。


 その物に触れてみると、表面に何本も辿ってき糸のようなものがある感触がし、糸は髪の毛、触っているのは誰かの頭だと確信した。


 そう確信した途端、晃は鳥肌が立った。



(動物……いや、マネキン? でも、もしかしたら本物の人……)



 すると途端に、その頭がもぞもぞと動き出した。

 晃は驚いて頭から手を放して後退した。


 その時、目視出来なかった暗闇の端の壁に ゴンッ! と頭をぶつけた。


「いったいなあ!!」


 思わず声が出る。

 晃は頭を抱えて悶絶していた。


 次の瞬間、暗闇の中から晃以外の声が聞こえた。




「……その声~晃くん~……かしら~?」




 その声に、晃は目を丸くする。


「美香子さん……ですか?」

「そうよ~」


 晃は安堵して、ホッと息を吐いた。

 先程晃が触っていたのは、美香子の頭と髪の毛だった。


「よ、よかった……。美香子さん無事だったんですね」

「無事だけど~ここはどこかしら~? さっきまで私たち~駅にいたわよね~?」

「確か社長になにか吹きかけられて……僕も気づいたらここに居ました」




 晃が話していると、いきなり暗闇に車のクラクションのような音と、ブレーキ音のような音が響いた。


 それと同時に、晃と美香子は思いっきり横に倒れた。


 晃はまた頭を打った。


「イタタ……こんなに頭打ってたら馬鹿になっちゃうよ……」


 「もともと馬鹿だけど」と小声で付け足してから、晃は美香子に慌てて話しかけた。


「だ、大丈夫ですか? 美香子さん!」

「大丈夫よ~。倒れたところに荷物があったわ~」


 美香子の安全が確認出来て、晃は「よかった……」と安心した。


「なんだったのかしら~今の~」

「やっぱり僕たち車の中に居るんじゃ……」

「車の中~?」


 美香子が疑問を抱くと、 ガチャン と音が響いた。

 何かの鍵を開けたような音だった。


 そして、 ギィィ と重い音が聞こえ、暗闇の中に光が差し込んでくる。


 突然の光に目が慣れず、晃と美香子は目をつぶった。



「急ブレーキかけてごめんねー! さ、着いたよ。二人とも」



 眩しい光の中に、聖間の姿が映る。

 目をこすって光の方を向くと、晃と美香子にとって驚きの光景が目に映った。



「あれって~……」

「そ、外だ!」


 そこには、久方に見る青い空、白い雲、華やかな建物、道行く人たちの姿があった。

 自然の生暖かい風が吹き、遠くの空では小鳥が飛んでいた。


 信じられない光景に、晃の額からは冷や汗が垂れてきていた。


「約束どーり、君たちを駅から出してあげたよ」

「し、信じられない……本当に、外? ハリボテとかじゃなくて……?」

「もう、そんなに信じられないならこっちに来て降りてみなよ」


 聖間は手招きをする。

 晃と美香子は半信半疑で聖間の元へと降りた。

 その時晃と美香子は、自分たちがずっといた暗闇はトラックの中だと知った。


 久々に踏むコンクリートじゃない素の地面は、謎の心地よさがあった。


 そして、久々に浴びる太陽の光は、晃と美香子の体を優しく包んでいるような気がした。


「僕、今までずっと太陽の光浴びたり、普通に地面を歩いてたりしたけど……」

「ちょっと離れちゃうだけで~こんなに恋しくなるものなのね~」

「うんうん! 普通のありがたみを知ってもらえて良かったよ」


聖間はニコニコしながら言う。


「いや、ですから僕たちをこの普通から隔離したのはあなた……」

「いいじゃん難しいことは考えなくて。外に出るにあたって、僕から話しておきたいことがあるんだ」


 聖間はコホンと息をついてから話し出した。


「まず外に出るにあたって、三つ……いや、四つ言っておきたいことがあるんだ。

一つ目は、警察署に行かないこと。君たちは行方不明者の身だし、地下でのことを話されると色々と厄介だからね」

「え、そんな……」


「二つ目は、絶対に誰にも地下での出来事は一切教えないこと。そして三つめは、自分の家、親族の家、知人の家に寄らないこと……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 聖間の約束事を聞いている途中に、晃が聖間に突っかかった。


「仮出所中の犯罪者みたいな……大体、そんなに縛りを設けるなら、なんで僕たちを外に出したんですか!」

「さっきから質問しかしてこないね晃くん。出してあげただけでも感謝してもらいたいぐらいだよ」


 気さくな聖間の話し方に、晃は段々と苛立ちを覚えてきていた。


「まあいいや。それで四つ目だけど、制限時間は今日の午後五時まで!! それまでにここに戻ってきてね」


「え? 戻ってくるって……」


 晃は首を傾げた。


「特別に出してあげただけであって、君たちには戻ってきてもらおうと思ってるよ。解放してあげるってなら、こんな約束しないもん」


 聖間の言葉を期に、その場が静まり返る。

 その時、晃が恐る恐る質問した。


「…………今言った約束を破ったら……?」


 晃の質問を聞いて、悪戯(いたずら)っぽく聖間は笑った。




「地下にいる何も知らない綺ちゃんたちを…………」




 聖間はそう言いながら、右手の親指を立てて親指の先を自分に向けて手ごと倒し、首の前で左から右へとスライドさせた。


 晃と美香子はゾッとした。


「そんな~! いくらなんでも~!」

「だから、君たちが約束を守ればいいというか、君たちが余計なことをしなければいい話なんだよ。それとも、駅に戻る? 折角外に来たんだから遊んできなよ」


 聖間は笑顔で晃と美香子の背中を押した。

 晃と美香子はポカーンとしていた。


「後、これだけは覚えておいて」


 トラックに乗り込もうとした聖間は、晃と美香子の方を向いた。



「『ニホンハボクノハコニワ』。逃げたらどうなるか……ね」



 そう言い残し、聖間はトラックの運転席に乗り込み、トラックを発進させて去っていった。


 取り残された晃と美香子は、顔を合わせた。


「……社長は、なんで僕たちを外に出したんでしょう?」

「分からないわ~。でも外に出た以上~、余計なことをしたら綺ちゃんたちが~……」

「あーもう! 社長は何がしたいんだよー!!」


 晃は頭を掻いた。

 そんな晃を、美香子は「まあまあ」と言って落ち着かせた。


「今の私たちは一文無しだから~買い物とかは出来ないわね~」

「そうですよ。だったら僕たちは何をしろと……」

「晃くん~」


 美香子が晃を呼ぶ。


「私この辺り知ってるわ~。近くに入園無料の動物園があるのよ~。一緒に行ってみないかしら~?」

「動物園……ですか?」


 急にそんなことを言い出した美香子に、晃は首を傾げた。


「余計なことが出来ないなら~純粋に外を満喫するしかないじゃない~。折角出れたことだし~綺ちゃんたちには悪いけど~なにかしましょうよ~」

「うーん…………なんかなあ……」

「それに~……他に、寄っておきたいところもあるのよ~……………」



 晃は悩んでいたが、聖間はもう去ってしまいどうしようもないので、『仕方なく』外を満喫することにした。

何気に第100部分

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