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ある日龍姫になった滅龍者と武の頂を目指す槍使い  作者: 槻白倫
第3章 白の少女と滅龍者と信龍教会
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018 協力者

 ひとしきり槍を振り終えたアルクは、満足のいった様子で己の槍を見る。


 これなら、これならば戦える。


「よし……」


 戦えると分かれば、こんな場所に留まる必要も無い。すぐさま、ナホを助けに向かうだけだ。


「ようやく納得が行ったか? まったく、いつまで槍を振っているのやら……」


 施設内に戻ろうとしたその時、背後から声をかけられる。


「おう、居たのか」


 背後に立っていたのはオプスだった。熱中していたとはいえ、オプスの存在に気付かなかったのは情けない。


「ずっと前からな。まさか、三日三晩槍を振るってるとは思わなかったが……」


「まぁ、集中してたか――はぁ!? 三日三晩!?」


「ああ。三日三晩だ」


「嘘だろ……」


 集中していた自覚はあった。けれど、三日三晩も槍を振るっていとは思っていなかった。


 疲れはある。けれど、倒れる程の疲れではない。


「無駄な呼吸と力みが無くなった。それに、技の前の変な溜めも無くなったな」


「いや、呑気に俺を分析してる場合か! 直ぐに姫さんを助けに――!!」


「まあ待て。急ぐな」


「急ぐに決まってんだろ! 早く姫さんを助けに行かねぇと……!!」


「安心しろ。姫様は助けに行く。だが、決行は明日だ」


「明日だぁ!? そんな悠長に――」


「してられるから貴様を止めなかったのだ。明日まで槍を振るつもりだったのであれば、流石に止めたがな」


 言いながら、足元に置いてあった水筒を蹴り飛ばしてアルクに渡す。


 アルクは水筒をキャッチし、蓋を開けて浴びるように飲む。


「五日後、姫様が処刑される」


「ぶふっ!?」


 オプスの言葉に、飲んでいた水を吹き出してしまうアルク。


「なんで悠長にしてんだよ!!」


「その時までは処刑されないからだ。つまり、命の保証はされているという事だ」


「それが嘘の可能性だってあんだろうが!!」


「それは無い。龍姫を処刑すると、周辺諸国にも大々的に触れ回ったのが二日前。国賓を招いての処刑とあれば、日を早める事などしないだろうさ」


「だったらなおさらだ!! それに合わせて護衛の数だって増えんだろ!! 助け出すだけなら敵の護衛は少ねぇ方が良いだろうが!!」


「焦って事を仕損じる方が問題だ。その結果、必要以上に警備が増強されてみろ。姫様奪還は今よりもずっと難しくなる」


「失敗しなけりゃ良い話だ」


「ならば貴様は、何の準備も無しにアリアステル・シルバーとフガク・タソガレに勝てるのか?」


「――ッ!」


 滅龍十二使徒(アポストル)の第三席と第四席。有り得ない力を持つアリアステルと、自身が目指すべき武の頂点に立つフガク。


 この二人を相手にして、勝てるビジョンは今のアルクには見えてこない。


「当日、アリアステルとフガクが居る。それに加え、第六と第七が護る。もしかしたら、もっと人員が増える可能性もある」


「じゃあどうやって……!!」


滅龍十二使徒(アポストル)と対等に渡り合える人物が必要になるな。しかし、貴様と私しかまともに戦える者はいない。どうしたものかと悩んでいたのだが……まぁ、解決しそうだ」


「は?」


 こともなげにオプスは言う。そして、アルクに背を向けて歩き出す。


「来い。中で作戦会議だ」


「あ、おう」


 オプスの後を着いて行くアルク。


 二人が向かったのは怪我人が寝かされている広間だった。


 広間の端っこに、テーブルと椅子が置かれ、そこで何やら話し込んでいる様子。


 席に着いているのは、クルドの一矢のメンバーと見慣れない人間が五人。そして、意外な人物が一人だった。


「待たせた」


「遅いぞ。一分一秒も無駄に出来ない状況で、何を呑気にしている」


「まぁまぁ、落ち着きなさいよ、アハシュ(・・・・)。決行は五日後よぉ? 焦る事なんて何にも無いわよぉ」


「お前は悠長過ぎるのだ、ギバラ(・・・)。もし龍姫に何かあってみろ。私とお前は確実に消されるぞ」


「……こいつぁ、どういう事だ?」


 目の前で展開される会話に、アルクは混乱する。


 椅子に座る二人の男女。互いにアハシュとギバラと呼び合う彼等は見た事もない人物だ。けれど、その名前だけは聞いた事がある。


 烈火龍アハシュ、炎桜龍ギバラ。先日戦った、二体のドラゴンだ。


「彼等は助っ人らしいよ。私と同じだね」


 アルクの言葉に爽やかな笑みを浮かべて返すのは、またしても予想外の人物。


「なんでてめぇが此処に居やがる?」


「さっきも言っただろう? 私は助っ人だよ」


 睨みつけるアルクの視線を涼やかに受け流すのは、ノイン・キリシュ・ハーマイン。滅龍十二使徒(アポストル)の第十二席だ。


「お前が戦う理由はねぇだろうが。むしろ、姫さんを狙う側だろ」


「戦う理由ならばある。私の理念はそこの二体のような邪龍の滅龍だ。彼女のような人と共存できる龍を殺すような愚は犯さない」


「誰が邪龍か!! 腕慣らしに貴様から葬ってくれても良いのだぞ!!」


「それはこちらの台詞だよ、邪龍君」


 怒気を振りまくアハシュに、笑顔で応対するノイン。


「おい、どうにかなりそうってこの事か?」


「それ以外に何がある。おい貴様等、喧嘩をするな面倒臭い。姫様奪還の策を練るぞ」


 席に着き、地図を取り出すオプス。


 アルクも席に着くが、ギバラが嫌そうな顔をする。


「……貴方、汗臭いわぁ。ちょっと着替えてきてくれるぅ?」


「あ? んな事言ってる場合か」


「確かに臭うな。それに、病人もいる。不衛生なのは良く無いだろう」


 と、アハシュが存外まともな事を言う。


「そうだね。君が身体を清める時間くらいはある。着替えてくると良い」


「……わーったよ」


 渋々といった様子でアルクはその場を後にする。


「ああ、湯浴みの場所なら私が案内しよう」


 そう言って立ち上がったのは、見慣れない男。


「……いや、待ておっさん。俺が行く」


 が、それを制止して、青年が立ちあがる。


「え、怜司が?」


「ちっと用があんだよ」


 言いながら、槍を背負った男――怜司が歩き出す。


 その後に、アルクが続く。


 二人は言葉も無く、ただ歩く。


 暫く歩いてから、怜司が声をかける。


「……あんた、師匠って居るか?」


「あ? 何のだよ」


「槍の師匠だよ」


「居る」


「……やっぱ、師匠が居ると違うのか?」


「何が?」


 上手く言葉がまとまらないのか、怜司は考えるように唸る。


「……昨日、あんたが槍を振るってるのを見た」


 怜司は脚を止め、アルクを見る。


「なぁ、俺に槍を教えちゃくれないか?」


 その目は真摯で、真っ直ぐにアルクを射抜く。


「あんたの槍捌き、ありゃ俺よりも数段先を行ってる奴の動きだ。頼む、俺に槍を教えてくれ! 俺は、もっと強くならなきゃいけねぇんだ!!」


 そう言って、頭を下げる怜司にアルクはただただ困惑する。


 まさか、まだ未熟な自分が、槍を教えてくれと言われる日が来るとは思ってなかった。


「……そういうの、後にしてもらえるか? 今はそれどころじゃねぇんだ」


「分かってる。後で良いから、俺に槍を教えてくれ。頼む……」


 深く頭を下げる怜司。


 怜司にどんな事情があるのかは分からない。けれど、その姿はどこか過去の自分を彷彿とさせた。


 オウカに追い付こうとしている自分と同じような焦りが怜司からは感じ取れた。


「……わーったよ。つっても、俺も人にものを教えた事がねぇから、上手くできっかは分かんねぇけど……」


「それでもいい!! ありがとう!!」


「おう。つーか、お前誰だ? なんでこんなとこに居んだ?」


「あ、そういや、自己紹介もまだだったな。俺は伊佐木怜司。滅龍者だ」


「……姫さんを狙ってんじゃねぇだろうな?」


「ちが……くは、無いか。でも安心してくれ。狙うとかじゃない。多分、あんたの言う姫さんは、元々俺達の仲間だ」


「はぁ? どういう事だ?」


「あの執事の話を聞く限り、あんたの姫さんってイシカリナホって名乗ってんだろ?」


「イシカリナホ……? あー、確かにそんな感じの名前だった気がすんなぁ」


「なんでうろ覚えなんだよ……」


 仲間の名前を憶えてないアルクに、怜司は呆れたように溜息を吐く。


「仕方ねぇだろ、一回しか名乗ってねーんだからよ」


「それでも憶えるけどな……まぁ、いいや。そんで、そのイシカリなんだけどよ、俺の仲間に同じ名前の奴が居んだよ。そいつ少し前から行方不明でさ。姿形は変わってるんだろうけど、多分同一人物の可能性があるんだわ」


「だから助けんのか?」


「まー、それもあっけど、正直ガキ殺すような奴は胸糞悪ぃ。そんな奴のする事がろくな事の訳が無ぇ。そりゃあ、ぶっ殺してでも止めるべきだろうがよ」


 冷めた目を見せる怜司。


 それは、ただの少年が見せるには不釣り合いな程に重みのある目だった。


 なんにせよ、覚悟の決まった者が手を貸してくれるだけでもありがたい。それに、深い理由は分からずとも、アハシュとギバラが手助けをしてくれるのはとても力強い。


 ノインに関しては謀反なのかなんだか分からないが、本人がこうして手を貸すと言っている以上大丈夫なのだろう。


 面子は十分に揃っているという事だ。


 後は、誰が誰と戦うかが問題だ。


 心境的に言えば、自分はクゥリエルと戦いたい。ナホを奪ったクゥリエルを、自分が大敗をきした相手を今度は自分が打ち負かしたい。


 けれど、高みに挑むのであれば、自身の選択肢は一つだけだ。


「此処が風呂だ。まぁ、湯浴み程度しか出来ないけどな」


「十分だろ。ありがとな」


「おう。先行ってるぜ」


 軽く手を振って、怜司は風呂を後にする。


 服を脱ぎ、アルクはお湯ではなく水を被り、ヒートアップしている自身の思考を冷やす。


 大切なのは、助け出す事。倒す事は二の次だ。勿論、倒せるのであればそれに越した事は無いけれど、それに執着するのは愚の骨頂だろう。


 今一番大事なのは、ナホだ。それ以外は、全て捨て置く。


「必ず助けるぞ、姫さん……」


 もう二度と失うのなんて御免だ。


 あの時は自分は戦えなかった。けれど、今なら戦える。


 今度こそ、大切なモノを守り抜く。


 そのためだけに槍を振るおう。


「今度こそ、必ず」


 適当に身体を洗って、風呂を出る。


 のんびりしている時間は、一秒だってありはしないのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] この話を見つけて、最新話まで一気に読んでしまいました。 続きが出るのを楽しみに応援しています。
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