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ある日龍姫になった滅龍者と武の頂を目指す槍使い  作者: 槻白倫
第3章 白の少女と滅龍者と信龍教会
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013 対、滅龍十二使徒

 クゥリエルと相対したアルク。


 その瞬間から、戦いは激化した。


 エンテを超える超速の槍捌きでクゥリエルを攻める。


「――ッ!!」


 対して、クゥリエルは先程のような、相手の攻撃を予見しているように動いて攻撃を躱す、といった動きが出来ないでいた。


 だからと言ってアルクの攻撃を食らっている訳では無い。


 剣を巧みに振ってアルクの攻撃を捌き切っている。


「お前が末席(あいつ)が言ってた協力者か……」


 不機嫌そうに、ノインが言っていた事を思い出す。


 武の極み、武神に届く程の猛者。


 なるほど、確かにノインの言っていた事に間違いは無いだろう。


 数手とは言え、ここまでクゥリエルと打ち合える者はそうはいない。


 そこには納得しよう。しかし――


「まぁ、僕様程じゃ無いな」


 直後、アルクの攻撃の息継ぎ(・・・)を狙った超正確な斬撃が繰り出される。


「――ぐっ!!」


 慌ててアルクは槍を振って防ぐ。


 しかし、心中では驚愕に支配されている。


 アルクの隙を狙うような者は多く居る。ノインだって、隙を狙って攻撃を仕掛けてきた。


 しかし、クゥリエルのように攻撃の息継ぎを正確に狙ってくる者は今までに一度も居なかった。


 アルク程にもなれば息継ぎは極短い間に行われる。そこを狙おうものならば即座に苛烈に槍を叩きこめるくらいには、アルクは反撃(カウンター)も持ち合わせていた。


 にもかかわらず、アルクは慌てて防ぐ事しか出来なかった。


 まるで息継ぎのタイミングを知っていたかのような動き。


 もしや自分やノイン以上の武人かとも思うけれど、クゥリエルの動きを見ればそうでは無い事は分かる。


 クゥリエルは確かに余程の武人だけれど、その剣捌きはノインに劣っている。武術という枠組みで言えば、クゥリエルはアルクやノイン以下と言っても過言ではない。


 そんなクゥリエルが正確にアルクの攻撃の息継ぎを狙えるとは到底思えない。


 であれば答えは一つ。


 こいつ……なんか持ってやがるな(・・・・・・・・)……!!


 滅龍十二使徒(アポストル)には特別な人材しか入る事が出来ない。


 ノインであれば使い手を選ぶ癖の強い武器『運命の三女神(モイラ)』を巧みに操る事の出来る精緻(せいち)さ。


 アリアステル・シルバーであれば精霊と人との混血(ハーフ)ゆえの常人を遥かに凌駕する身体能力と、超越的な角度から世界を捉えられる視界。


 それらがあって、実力も申し分なければ滅龍十二使徒(アポストル)に入る事が出来る。


 だからこそ、クゥリエルにも何かがあると踏む。


 しかし、たった数分ではそれを見極める事が出来ない。


 だから、この激闘の最中に探らなければいけない。


「気味の悪ぃ奴だなぁ、おい……」


「粗野なお前に言われたくないんだよ。ていうか、気安く僕様に話しかけないで貰えるかな? お前が思っている以上に僕様は(とうと)い存在なんだ。下賤(げせん)なお前が気安く話しかけられる存在じゃないんだよ」


「の割にはそこらの小悪党よりも糞みてぇな事してんじゃねぇか」


 視線の端に殺された三人の子供の姿が映る。


 ナホを害そうとした事もそうだけれど、子供を無惨に殺した事でアルクの怒髪は既に天を()いている。


 アルクの中で子供は護る対象だ。それは、師匠であるクレナイ・オウカが勝てないと分かっていてもなお中位龍に立ち向かったその姿をアルクが一生忘れる事が無いからである。


 アルクが子供を害するような悪漢になってしまえば、あの日何のためにオウカはアルクや村を護ってその左腕を失ったのかが分からなくなってしまう。


 だからこそ、アルクは子供を護る。弱者を護る。困ってる人だって、気恥ずかしいが出来る限り護りたいとも思う。


 困っている人を護りたいと思うのは、正直のところナホに影響されている側面もある。


 ナホのお世話になった人達を護りたいと思うその心意気を、アルクが気に入ったからだ。


「僕様の行いは全て正しい。滅龍に義があるかぎり、滅龍十二使徒(アポストル)である僕様の行いには全て義がある。それは至極当然の事だ。……そんな事よりもお前、僕様を糞と言ったか? この僕様を、選ばれし者である僕様を糞だと、もしやお前はそう言ったのか?」


 しかし、クゥリエルは神経を逆撫でされたように眉尻を吊り上げるだけだ。そこには子供達を殺した事に対する良心の呵責などは無く、あるのは糞と言われた事に対する怒りのみだ。


 その反応を見て、心底から腹が立つ。


「ああ、手前(てめぇ)の事だよ! 子供(ガキ)殺して平気な面してる奴なんざぁ糞だって、そう言ってんだよ俺は!!」


「そうか。ならば死ね」


 直後、クゥリエルの手に持つ剣が光り輝く。


「――ッ!!」


 警戒をしつつ槍を構え、クゥリエルの出方を窺う。


 光輝いた剣からは、光が剣の形をしたまま分離し空中に浮遊する。その数、十二本。


 クゥリエルの持つ剣はただの剣ではない。滅龍者メリッサ・キャンベルの持つ愛剣“輝ける者(グリトニル)”と同じ聖剣だ。


 名を“別たれる者(ディヴァイド)”。剣を光によって別ち、自由自在に操る事の出来る聖剣。その数に際限は無く、あるとすればそれは使用者の実力によって左右される形になる。


 クゥリエルは自身が攻める事無く、光の剣を差し向ける。


「――っ!!」


 飛来する光の剣を、アルクは華麗な槍捌きで叩き落と――


「なっ!?」


 槍と剣が衝突したと思われたその時、槍は光を貫通した。そこに手応えは無い。


 アルクに迫る槍はアルクの身体を貫く。


「がぁッ!?」


 剣が通り抜けた直後、焼ける様な痛みが身体に走る。


 いや、実際に焼けているのだろう。光の剣が貫いた部分の衣服は焼け焦げ、身体には酷い火傷の痕が残っている。


「僕様の剣に実体は無い。お前がどれだけ足掻こうと――」


 クレナイ流槍術、一の技、焔穿ち。


 クゥリエルの言葉の最中、アルクは即座に自らの槍術を繰り出す。


 そして、自身に迫る光の剣を炎によって打ち落とす。


「――っ!!」


「どれだけ足掻こうと、だぁ? はっ! ちっと槍振っただけで消されるような代物(しろもん)使って、よく吠えるじゃねぇか」


 不敵な笑みを浮かべ、アルクは次々と光の剣を打ち落とす。


 その槍捌きは華麗にして苛烈。瞬く間に十二本全てを打ち落とした。


「おいおい。滅龍十二使徒(アポストル)ってのも高が知れるなぁ。これならあいつの方がよっぽど強かったぜ?」


 挑発的に言うが、しかし、クゥリエルの表情は変わらない。


 多少息は飲んだ。が、言ってしまえばそれだけだ。


 呆れた様子でアルクを見て、クゥリエルは言う。


「高が十二本落としただけで吠えるな。その程度、小手調べにもならない」


 剣が激しく輝く。


 瞬間、即座に光の剣が現れる。その数、二十四本。


「さっきの倍だ。少しだけ遊んでやる」


「――っそ……!!」


 苦し気に表情を歪めるけれど、二十四本ならば捌けない数ではない。


 けれど、十二本が小手調べにもならないのだとしたら、クゥリエルの限界は今ではない。そして、これすらも小手調べではないとするならば、光の剣はまだまだ出てくるはずだ。


 その場合、恐らくアルクは対処しきれない。


 アルク一人で自由に動ける場合であればどんな攻撃にだって対処できよう。しかし、後ろにはナホがいる。ナホを護るという大前提がある状態では、アルクの動きはある程度制限されてしまう。


 っそ……!! 早く来いよ……!!


 そうは思うけれど、それが難しい話である事は分かっている。


 何せ、向こうも足止めを食らっているのだから。



 〇 〇 〇



 時間は少しだけ遡る。


「姫様の匂いがした! 直ぐに向かうぞ!」


 起き抜けにオプスに言われ、アルクは即座に意識を覚醒させる。


 槍を引っ掴んで立ち上がり、オプスの先導の元、ナホの元へと駆ける。


「って、お前等も着いてくんのか?」


 背後を振り返れば、そこにはクルドの一矢が。


「ええ。話し合って決めました。私達はカタリナの友であり仲間です。カタリナのために力を貸すのは、仲間として当然のことです」


「それに、ナホさんだってもう俺達の仲間だ。勿論、アルクさんもオプスさんも」


「だから見捨てないわよ! 全員でちゃんと生き延びるんだから!」


「まぁ、そういう事だね。それに、二人よりも七人の方が、効率は良いでしょ?」


 全員、アリアステルの力はその目で見たはずだ。見てなお、勝てる見込みの無い相手だと分かったはずだ。


 それでも、全員ナホを助け出す事に協力してくれる。


 その事実が、素直に嬉しい。


「後悔しても知らねぇぞ……」


「しない! 此処で見捨てたら、それこそ一生後悔する!」


「そうかよ。んじゃあ、存分に力を貸してくれや」


「ああ!!」


「分かっております」


「言われなくったって!!」


「期待に添えるように頑張りますね」


「私も、頑張る」


 クルドの一矢のやる気は十分。けれど、やる気だけでどうにかなる相手ではない事は此処にいる全員が分かっている事だ。


「見えた! が、すでに滅龍教会と交戦中のようだ!」


 一番目の良いオプスが状況を簡潔に伝える。


 しかし、信龍教会の建物本体は見えていない。見えるのは森と立ち上る煙、そして森を囲むようにして配置されている滅龍教会の信徒と、数字の(・・・)VI()』が刻まれた背中。


「おい、赤毛馬鹿」


「んだよ糞蜥蜴」


「今からお前を森へ投げる。目前の者達はこちらに任せろ」


「……良いのか?」


「ああ。悔しい限りだが、姫様が一番待ち焦がれているのは貴様だ。だから、今回は貴様が行け」


「分かった」


「では……行くぞ!!」


 オプスがそう叫んだ直後、オプスの右腕だけが龍のものへと変貌する。


 突然の事にアルクはおろか、クルドの一矢の面々も驚くけれど、その驚きも一瞬だ。ナホに出来る事がオプスに出来ない事も無いだろう。


 アルクは龍化したオプスの腕に飛び乗り、オプスは腕を引き絞り思い切り森の方へとアルクを投げ飛ばす。


「まぁ、そうくるだろうな!!」


 しかし、相手はアルクをそのまま通してくれる程優しくはない。


 豪速で飛ばされたアルク目掛けて無数の魔術が放たれる。


「この私の邪魔をするな!!」


 走りながらオプスは咆哮(ブレス)を吐く。


 以前のように範囲を絞って高出力で放つものでは無く、広範囲に吐き出された咆哮(ブレス)は直撃した魔術を燃やし尽くし、咆哮(ブレス)の余波に巻き込まれた魔術は呆気なく掻き消された。


「お前達は雑兵をやれ!! 姫様は殺す事を嫌うだろうが、自身の命を最優先させろ!! お前達が死ねば姫様が悲しむと知れ!!」


「分かってます。私達も、死ぬ気はありませんから」


「助けに来たのに俺達が死んじまったら立つ瀬が無いでしょ!!」


 クルドの一矢も覚悟は決めている。元々、その仕事柄ゆえに人を殺した事だってある。だから、躊躇いは無い。


 人殺しに対する拒絶が無い事を確認してから、オプスは一人速度を上げる。


滅龍十二使徒(アポストル)は私が狩る」


「ほぅ。()うやないか」


 オプスの言葉に呼応するかのような声が目前から聞こえてくる。


「止まるな!! 走れ!!」


 驚愕に足を止めて対処をしようとしたクルドの一矢を怒鳴りつけて先へと行かせる。


 先程の言葉の意味を皆忘れた訳ではない。


 滅龍十二使徒(アポストル)は私が狩る。


 オプスがそう言ったのだ。であれば、オプスの言葉を信じるのが仲間というものだ。


 振るわれる大斧をオプスは龍化した腕で防ぐ。


「――ッ!!」


「ほうほうほう! えろう頑丈やないか!!」


 走り抜けるクルドの一矢に注意を向ける事無く、大斧の男はオプスへと全神経を向ける。


「ぐっ……!!」


 オプスは苦痛に呻き、眉を寄せる。


 己を防いだ腕には頑強な鱗がびっしりと生えている。しかし、その腕からは血が滴り落ちている。


 力任せの一撃ではない。力任せの一撃であれば、例え大斧だろうがオプスの鱗には傷一つ付ける事は出来ない。


 そんなオプスの腕から血が流れている。それはつまり、目の前の男は確かな技を持ってオプスの腕を斬り付けたという事だ。


 腕を痛めないように大斧を弾き、男から距離を取るために数歩下がる。


「そら遅いわ」


 が、一瞬にして男はオプスへと詰め寄った。


「――ッ!!」


 瞬く間に踏み込み、大斧が振られる。


 今度は大斧を防ぐのではなく、側面を叩き付ける事で大斧の軌道を逸らす。


「嘗めるな!!」


 範囲を絞った咆哮(ブレス)を男に向けて放つ。


「うおっと!?」


 が、男の姿は一瞬でその場から消え去る。


「ちッ! 転移か……!!」


「ご名答。ま、直ぐに分かるこっちゃね」


 オプスの少し先に、男は立つ。


滅龍十二使徒(アポストル)が第六席。アイザック・シュベルニー。以後、よろうしゅうな」


「よろしくするつもりは無い。姫様を害する者はただ死ね」


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