中
マイクが招集された場所は戦の前線であった。これは何も普通じゃないことではない。貴族の子息を前線へ立たせることで、武勲を取りやすくさせるという考えから、家からの申し込みがない限り国は彼らを前線へ立たせることが多い。家からの申し立てとして例を挙げるとしたら、「大切な跡取りなのでなるべく安全な場所に頼む」などだ。この例は実際にマイクの父が、義兄が招集されるときに使った言葉なのだがマイクには使ってはくれなかった。父からしてみたらマイクは厄介者なのだろう。これを機に死んで来てくれとでも思っているだろうとマイクは考えていた。前線で戦う前夜、マイクは仲間たちと酒を飲みかわし、明日の成功を願っていた。しかし、その傍らマイクを含めた仲間たちも彼らに勝ち目がもうないことは知っていた。相手国であるアルセイ国は発展した技術を使い、どんどんシルアニアを追い詰めていっているのだ。戦争がシルアニアの敗北で終わるのもあと数か月であると皆が考えていた。マイクは眠る前、姉に幸せが訪れることを願った。自分を唯一女と知る彼女は、自分を守るために狭い折の中に入れられてしまったのだ。彼女の幸せと引き換えに失わずに済んだ女の体をろく使いもせずに死ぬことはあってはならないと考えたマイクは、明日の戦は何が何でも生き抜こうと決意した。
そして翌日、戦は開始した。剣と剣がぶつかり合う音が響く中、アルセイ軍の新兵器による銃弾が飛び交い、戦争は泥沼化した。暫く経つと、誰がどう見てもアルセイが優勢に立っているとわかるほどシルアニアは追い詰められていた。シルアニアはついに撤退を決め、この日の戦はシルアニアの敗北で終わった。マイクは撤退に参加することができなかった。なぜならアルセイ軍に捕虜として捕まったからである。マイクは撤退を知って、隠れていた場所から抜け出したのだが、そこでアルセイ軍に見つかったのだ。捕虜として捕まって連行されているとき、マイクはどのような扱いを受けるのかびくびくとしていたのだが、待っていたのは治療と温かい食事であった。食事には何か毒でも入れられているのではないかと初めは手を付けなかったが、空腹に負けて手を付けた。その味はとても暖かく身に染みていくようなおいしさであった。マイクは食事に感動していると「うまいか?」と声をかけてきた人物がいた。彼は後にマイクの良きパートナーであり部下になる男である、トム・エレファントだった。
トムはマイクと同じ十六の少年で、捕虜であるマイクに親切に接してくれた。アルセイ語をマイクに教えたのもトムであった。そのおかげで他のアルセイ軍の兵士とも会話ができるようになり、彼らが悪い人間ではないことが分かった。むしろ封建的なシルアニアの方が、そういう人間が多かったようにマイクは思えた。ふとそこで、マイクは共に兵役に出された軍人で、数少ない友人たちが今どうなっているのか心配になった。その気持ちに気づいたのかトムは「大丈夫か?」とマイクに尋ねた。マイクは敵軍にいるにも関わらず、自国の兵士の心配をしているなどという事はあまり知られない方が良いだろうと、秘密にしようとしたのだが、「何でも言ってみろ」とトムに言われつい口に出してしまった。
「そんなの誰だって思うことだ。自分の友人を心配することは何も悪いことじゃない。」
そうトムは言ってくれた。マイクは次第にトムに好意を抱くようになっていった。しかし彼女はこの声で自分は女なのだとトムに知られたら、どのような顔をされるか不安で仕方なかった。もしかしたらいつものように明るく笑って認めてくれるかもしれない、でももし気持ち悪い拒絶されたならと考えるとマイクは言い出すことができなかった。
そんな様子で捕虜生活を送っているとシルアニア国が敗北を認め、長きにわたる戦争は終結した。それは温かい春の日の事だった。
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