エルフとステーキ
この作品は紅茶乃香織様の作品
『私、勘違いされてるっ!?
〜『最強の吸血鬼』だと勘違いされているので誤魔化しながら見栄とハッタリで何とか生き抜きます!~(挿絵あり)』
https://ncode.syosetu.com/n9157em/ の二次創作です
紅茶乃 香織様より許可いただいています。
「っぱねぇっすは。やべー奴なんてもんじゃない、あれはマジキチでしたは。」
~リブ=ツェペッシュについて。あるエルフのつぶやき~
エルフは方言を持っており、これを専門用語で『スラング』という。
今回の難解なコメントを解説すると、以下のとおりである。
まず、『っぱねぇ』とは『半端なものではない』の意味である。
半端ではない、つまり整った完全なものであるということから、
敬意を示すべき相手や、そのような行動のことを指す。
また『やべー奴』は『豪胆な人、狂った人、恐ろしい人』
『マジキチ』は『正真正銘、状態が著しく常軌を逸した相手』である。
『やべー奴』がまだ理解の範疇にあるとするならば、
『マジキチ』は想像もつかない言動・行動をする相手を指す。
今回の場合は、
「あまりにも偉大な天才的人物で自分のような凡夫では測れないほどの、
神にも等しい叡智をもった相手」という意味で使われる。
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これはある日の厨房での出来事です。
今日、私はリブ様の料理の手伝いをしていました。
手伝いと言っても、食材、調理器具やカトラリーを用意する程度でこまづかいのようなものです。
「さてサティ、後片づけは頼んだぞ。」
料理を終えたリブ様はそう私に命じられました。
吸血鬼の王、リブ=ツェペッシュ様。彼女は重要な会談の際は決まって手料理をふるまいます。
これを不思議に思わぬ者はいないでしょう。
なぜ一国の王が料理などしなければならないのか。
なぜそれを相手に食べさせる必要があるのか。
私もそうでした。しかし、一口食べればわかるのです。
これが本当に「支配する」ということなのだと。
そして
「これはサティの分だ。今日はステーキを作った。
よかったら後で感想を聞かせてくれ。」
そう言うと、リブ様はワゴンカートに料理をのせ、その足で会談に出かけて行かれました。
私は・・・
「がぶぅ」
誰も見ていないことをいいことに、このすてぃきにかぶりつきました。
正直、リブ様がお料理をされている段階で
「じゅるり」
涎が止まなかったのです。
しかし、こんな私でもエルフの統率者です。
他人の、それも王の前。失態は見せられないと気を張っていたのです。
さっきまでは。
「うんまー!マジウマー!泣けるほどうめーですわ!」
思わず『スラング』がでてしまいました。
『スラング』とはエルフの方言であり、古の時代よりも続く
エルフにのみ受け継がれてきた言葉でもあります。
神聖な言葉であり、より知的な者ほどスラングをよく解します。
短いセンテンスに、複雑な意味を持たせているため、教養者の言葉だとも言われます。
ちなみに、『うんまー』はよく「美味い」という言葉に似ているため、
混同されがちですが似て非なる言葉です。
「美味い」とは、食事が単純に口に合ったことを指します。
対して『うんまー!』は高等な食材に対して用いる言葉なのです。
当然ですが、豊かさによって食事事情が違います。
妖怪は力があるものから順に 肉→魚→果物→野菜→芋類→小麦→米 とある程度食物が決まっています。
そして、その食物の中でも高等なもの、つまり力のある豊かな者の食物に対して用いる言葉なのです。
つまり、『うんまー』とは
『こんなにも希少で、感動的な食物を口にできる機会に私は恵まれた。
これは神からのご褒美で、こんな素晴らしい食物を食べられるのは
きっと私が特別な存在だからなのなのだろう。
もちろん、私が孫に与えるのもうんまーな食物。なぜならば、彼もまた特別な存在だから。」
という含蓄のある言葉なのです。
そして『マジウマー』はマジという表現を使い、
後に続く言葉により力強さと神聖さを与える物言いです。
事物の基準を著しく超越した際用いる上に、
今回は『うんまー』→『ウマー』と「ん」を省略することで、
より語感を良くし美しい音色を奏で静謐な言葉にしているのです。
話がずれました。要するに私は
「涙がとまらないっすわ。なんで肉ジューシーなん?なんでソースうまいん?馬鹿なの、死ぬの?」
うんまーな肉はもちろんですが、
リブ様の能力を用いて作られた(とサティは思っている)ソース。
これがたまらないのです。
この黒いドロリとした液体。一見すると汚泥のようで、おぞましいことこの上ありません。
なんと、塩・胡椒・酒・醤油・脂。
これらを混ぜるという、暴挙暴挙の上に成り立つものなのです。
しかし、これを口に入れた瞬間
「ペロペロペロペロ」
やめられない、とまらない、ぺろぺろぺろりん☆
苦しいのに、悔しいのに、なぜか私の舌が動きを止めないのです。
私が皿を隅々までなめるという卑しいことをしなければいけないのでしょう。
なぜこれだけの辱めを受けなければならないのでしょう。
私はリブ様に言われました。
後で感想を聞くと。
吸血鬼の王に逆らっては、エルフがどうなるかわかりません。
私はこの料理を食べなくてはいけない運命にあったのです。
そもそも、調理のにおいをかがされているときから、
いや料理器具を用意しているときどころか、
そもそも厨房に入った瞬間から、
こうなる宿命にあったのです。
リブ様の料理は脳に殴りかけるような危険なものです。
口にすれば匙スプーンを延々と動かすことを強要され(とサティは思っている)、
食事を終えても舌が勝手に動き(とサティは思っている)、
皿をすべて舐め切ることで解放されると思いきや
「・・・また食べたい」
なんということでしょう。
支配!まさに支配!
からだがありえない動きをさせられるのです。
行動が強制され、皿を舐めるという下劣な行為を無理強され(とサティは思っている)
恥ずかしくてたまらない、屈辱だと感じているのに、
また食べたい、同じ行動をしたいと思わせる・・・悪魔の食事。
口にしたら最後、
心が屈し、肉体が屈し、吸血鬼の王にに服従せざるを得ない妖怪となり果ててしまう
(とサティは思っている)
吸血鬼の王、リブ=ツェペッシュ様。
彼女こそアンタッチャブル。
決して触れてはいけない相手、起こしてはならない禁忌の魔物だったのです。
しかし、時すでに遅し。
悲しいかな、私は従順なる吸血鬼の下僕でいるしかないのです。
「マジウメー!・・・洗い物・・・フライパン。・・・・・・ゴクリ」
僕的に思った「ここの描写もっとないの!?」を脳内で
→要望を出そう?
→でも小説進めてほしいし
→あぁ、自家発電ね
→出来上がり
リブのことすごいすごいって言っているみんなが好き。