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行程12 

 UFOの上部が開いた。構造としては二枚貝のようになっており、上半分がパカリと開いたのだ。ブッチョの後ろにダッフルコートの人間が2人。姿がはっきりとしてきた。うち一人がプールに向けて手をかざす。すると次の瞬間、ちょうどまさおが張り付いていたガラスの壁が電動音を響かせて、動き出した。このプールの壁と天井は電動で開閉できる構造になっていて、ある種の超能力みたいなものだろうか、そのコートの人間の力でひとりでに壁がオープンになったのだ。壁が開くとまず一人が颯爽とプールサイドに飛び降りた。次にもう一人もブッチョの首根っこを掴むと、重さなど微塵も感じさせないような軽やかさで、同じく飛んで、着地した。まさおは気が動転してしまい状況がさっぱりわからない。


 地上からタブレット越しに見ていた源内とハッシュの二人にしてみると、謎のコートの数人が画面端から突如として表れた格好になった。気づき不思議がる二人。


「何なのこいつら?」


「あ、きっと宇宙人じゃね?UFOから降りてきたんじゃね?」


「ん?その宇宙人の一人が引っ張っている奴、なんかどっかで見たことないか?」


「ん?確かに。誰だこれ?」

 先ほどのUFOから降りてきた二人の内、若干背の低い方が左腕ででもって、田淵の首を締めあげるようにしながら引っ張ってくる


「あ、アイツです!緑のバスローブのアイツです!」


「確かに…。改めて近くで見ると私たちとそっくりね。」


「本当だね。まったく、自分たちの家族に会いに行くというのにこんなに手間がかかるなんて思いもよらなかった。」


「あら、さっきまでとても楽しそうだったじゃないの。」


「なんでだろう、いざ会ってみると心の中にぽっかりと、何ていうか乾いた穴が開いたっていうのかな。空っぽになってしまったんだ。」


「ふうん。それは夏の乾いた井戸よりも深いの。」


「わからない。井戸についてはあまり詳しくないんだ。」


「そう。それでもいいんじゃないのかしら。」


「ありがとう」


 プールサイドにブッチョを連れたコートの二人が舞い降りた。一人は身長180cm前後の男、もう一人は160cm前後の女、いや少女といった方が良いか。そんな二人がプールサイドをツカツカと歩いてその男優のところに歩いてきた。唖然として固まったまま、一言も言葉もです、身動きができないスタッフをしり目に、モスグリーンのバスローブを羽織って椅子に座っていたAV男優の前に立った。ちなみに謎の男はネイビー色、一方の女はワインレッド色のコートを着ている。


「あ、あのーすんません。そろそろ苦しくなってきましたんでぁ、放していただけるとぐぁっつ!」


 ブッチョが何か話そうとすると、すかさず女がヘッドロックを固くする。メキッという音が響く。

 

このコートの女、華奢な身なりの割に小脇に抱えたブッチョの頭に対するヘッドロックは恐ろしく的確で、ブッチョは逃げることができない。


「あ、あ、割れる、割れる。やめて、やめて。」


 ブッチョが悶絶する。コートの男は気にもせず椅子に腰かけたバスローブ姿の男優に話しかける。


「探したよ、試験擬体4号。いや今は例の名前・・・“キハル”というべきか。あるいはそもそも僕らに名前なんて意味がないのかな。」


 男がそう言うと、それを受けてゆっくりと男優が口を開いた。


「・・・僕らに名前なんて意味がない。空港で荷物を預けたらクレームタグを貰う。大事にしまっておく。けどなんて書かれているかなんて気にもしない。そんな感じ。」


「ああそうだ。そんな感覚だろう。」


 コートの男が頷いた。この両者の何とも言えない独特のやり取り、会話のキャッチボールを聞いてブッチョがまた口を開く。


「あ、例のメンドイ言い回しの話しが通じてる!てことはキハル!やっぱしこいつらお前と同業のヤリチン仲間なのか!?そんなとっととこのブッチョ様の頭を話してもらうようぐぁっ!」


 やはりブッチョの叫びはワインレッド色のコート女に遮られる。


「ところで君、僕と一緒に来てくれないか。」


 コートの男は提案する。


「君と一緒に?」


 男優が答えた。


「そう、一緒に来て欲しいところがあるんだ。もちろん無理にとは言わない。君の日課の水泳の時間を邪魔するのは僕の本意じゃあない。」


 すると男優が返事をするには


「どうなんだろう。今から何をしようかなんて、実際のところ僕もわからないんだ。」


「そうだね。僕らは明日のリヴァプールの天気もわからない。僕ら自身のことなんか、なおさらわからないものさ。」


 そこでキリキリに締め上げられたブッチョが、死にそうな声で男優に叫ぶ。


「おいキハル!やっぱ知り合いなのか?!だったらこれやめさせホゲェ!」


 言い終わる前にまた締められる。その女が続けて口を開く。


「でも一緒に来てくれた方が・・・。お互いのためになると思うの。でも・・・。」


 そこで男の方が遮るように


「いや、彼にも彼の生活がある。僕らはそれを受け入れなくてはならないんじゃないのかな。」


「・・・そうね。一度始まってしまったら止まらない。ショーマストゴーオン・・・。」


 女はあっさりと男に同意した。ということはこの連中はこのAV男優をあきらめて帰るのか?


 やおら、そんな空気が一瞬流れた。


「え、帰るの?マジ?!じゃあ、俺もうお払い箱ね!放して!放して!」


 しぶとく叫ぶブッチョ。


 二人とも顔を見合わせて、ため息をついた。


 と、次の瞬間、黒コートは男優の胸ぐらを瞬時に掴み、軽々と片腕で持ち上げるとそのまま一気にプールサイドのコンクリートの床に叩き付けた。バスローブに包まれた肢体がコンクリートにぶつかる、鈍い音が響く。


 一瞬のことに唖然とするブッチョ。相変わらず身動きが取れないスタッフ。


「お。おい!キハル逃げろぉぉおああああああ!」


 叫ぶや否や、抱えていた女はそのブッチョをプールに放り投げた。


 そして間髪入れず、その足で倒れた男優の顔面を強烈に踏みつけ始めた。


「んぁ?これ何が起きてんの?」


 首をかしげる源内とハッシュであった。


 思い出してみよう。まさおを使ってAVの撮影現場を盗撮して、ネットに上げようと考えた。うん、良いコンセプトだ。炎上してくれること間違いない。そこでまさおに度数の強いヤツを飲ませて、撮影現場まで壁登りをさせた。何とか目的地にたどり着いた。ここまではOK。で、ヘルメットに仕込ませたカメラも回った、中の様子もガッツリ撮れている。・・・完璧じゃん。が、問題はこっからだ。どこからともなくUFOが現れた。で、次にビルに横付けして、中からコートのよくわからん2人組が出てきた。しかもセットであまり知合いと思われたくない知り合いがヘッドロックを決められた状態で連れられている。で、何故かAV男優の方に用があるらしく、口をきいたと思ったら、その男優をリンチしだした。ざっくり言うとそんな感じかなぁ。まぁそんな感じなのだが、結局じゃあ何でそうなるのかが・・・。


「やっぱよくわかんねぇや。」


 首をかしげる源内とハッシュであった。



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