行程11 実際問題プールで撮影する意図がわからない
「おい、ハッシュ!あれそうだよな!」
「んーどうだろ。まぁ実際浮いてるしな。」
「まさお!後ろ後ろ!おい!もうAV女優はいいから後ろのUFO撮れやぁ!」
「んー微動だにしないね。」
一方10階のガラス壁に張り付いたまさおは、後ろにほぼ無音で浮いている円盤状の物体に気づくことも無く、屋内プールをひたすら凝視しているのであった。先ほどの源内の声も耳に入らない。するとその時である。まさおのまさに目当てのAV女優加藤ショコラがこちらの方を指差しているではないか。
「あ-ん、ショコちゃんショコちゃーん。俺だよ。この前握手会に行ったまさおだよー!」
絶叫せずにはいられなかった。するとそこに今日のお相手と思しきAV男優がプールに入ってくる。
「お、貴様が今日の男優かぁ!ちゃんとやれよコラぁ!畜生よく見たらイケメンじゃねえかぁ!ブッ殺すゾぉこの野郎!俺にも分けろ!オイシイ思いしやがってぇ!ブッ殺すゾぉこの野郎!俺にも何かこう・・・オイシイところを分けろ!ブッ殺すゾぉこの野郎!」
興奮と羨望と嫉妬が混同して、自分でも何を言っているかわからないがとにかく吠えていると、先ほどから後ろで静かに浮いていた巨大円盤がにわかに動きを見せた。
その円盤は上本文が蓋になっており、そこがパカリと開いた。どうやら中に人が乗れる構造になっているらしい。そしてそこからヒョイと一人の男が上半身だけ出てきた。以外にも出てきたのは宇宙人ではなく普通の人間であった。というかどこかで見たことのある顔である。それはまさお以下の面々には実になじみのある顔である。男は先ほどプールに入ってきた男優を指さし、後を向いて何か叫んでいる。恐らく円盤の中にいる仲間に向かって何か話しているのだろう。
「ほら今入ってきた!あのみどりのガウンの男優!あいつです!皆さんが探してるのあいつです!ええ、男田淵、嘘は申しません!本当です!信じてください!だから家に帰してください!」
未知との遭遇かと思いきや、既知の腐れ縁の知合いが、この円盤に乗り込んでいたようだ。
まさおは気づかてないが、まさおのヘルメットに内蔵されたマイクがブッチョこと田淵の声を拾った。
それを地上でタブレット越しに聞く源内とハッシュ。先に気づいたのはハッシュであった。
「あれ、何かブッチョの声しない?」
「は?バカ言え。こんな奇跡的な未知との遭遇の現場に、あんなホスト崩れのペテン師風情が居てたまるかぁ!」
「うーん。そうかなぁ。しかし、浮いてるあれなんだろな。まんまUFOなんだけど。AVの撮影を覗くために地球に来るかぁ?」
「ああ、もう何でもいいから!おい、まさお!後ろ向けや!後ろ!」
テンション高めの源内とモヤモヤしたハッシュのやり取りのあと、業を煮やした源内がタブレットに向かって怒鳴る。その直後である。
「案内ご苦労。それじゃあ行こうか。」
ブッチョの後ろから、ダッフルコートに身を包んだ二人の人間がひょいと顔を出した。