出だしは上々?
あたりを包んだ光が収まると周りを見渡す。
木が生い茂った森の中で、自分の立っている場所は少し周りが開けている。
両手を握って開いてを繰り返し手の感覚を確かめる。
次に両手でほっぺをつねって引っ張ってみる。うん痛い! 大丈夫だ。
次いで腕や足に異常がないか確認していく。
記憶も明瞭、体も軽い。何なら今から走り回りたいぐらいだ。
「大丈夫かルイン! 何があった!!」
前世と同じ名前で呼ばれ、声がした方を振り返る。
弓矢を携え、ガサガサと音を立てながら茂みから出てきたのは、自分の2コ上で四男のタスラムだ。
「大丈夫だよ、タス兄ちゃん。急に護り石が光ったんだ。」
しかし、記憶が戻ってみると妙な気分だ。まさか名前が前世と同じとは……。何か運命めいたものを感じる。
これなら名前を間違えることもない。前世ではそれでずいぶん恥をかいたからなぁ。
「護り石? お前が生まれたとき手に持ってたっていうソレだよな?」
そういって四男は首元に視線を注ぐ。
「妙な石だよなソレ。引き離してもいつの間にかお前のところに戻ってくるし。」
「でも悪いものじゃないよ? 階段から落ちた時もレンガが崩れてきた時も守ってくれたんだ」
周囲に異常がないか見回す四男に反論する。
「分かってるって。でもよくない事の前触れかもしれない。しゃーない、今日のところは引き上げるか」
四男は番えた矢を外して背に負った矢筒に戻すとポリポリと頭を掻きながら言った。
「えーっ!」
突然の帰還提案に文句を垂れる。まだまだこの体の力を試していない。それに何より……。
「えーっじゃない。いいか? いくら父上や騎士の皆が定期的に巡回してるとはいえ森の中には危険な魔物だっているんだ。初めての狩りで獲物を取りたいのはわかるけど、危険を冒す必要はないんだ。いい狩人ってのは異変を見逃さず、危険に近寄らず、無理せず、自分にできることをやるもんだ。」
目を閉じ人差し指を立てて俺に教え込むように説教しているが、先月全く同じセリフを村一番の狩人であるダノンさんに言われていた現場に一緒にいただけに説得力は乏しい。
「ちょっとだけ! もうちょっとだけでいいから!」
四男の服の裾をつかんで精一杯翻意を促す。
「だーめっ! さっさと帰るぞ」
精一杯の抗議に取り合わずプイっと横を向いてしまう。
お調子者の四男の性格からいって暴れたりないはずなのに、今日は俺のお目付け役だという意識が強く働いているらしい。
仕方がない説得はあきらめて、おだててそそのかしてその気にさせよう。
7話目にしてようやく主人公の名前が判明。
ほんとは3日目ぐらいでここまで来るつもりだったのに。
筆の遅さを甘く見ていました。