プロローグ
「はぁ、これでもダメか……いいところまではいってるんだけどなぁ」
ため息とともに剣を机に置き眼鏡を取る。
連日の作業で疲れた瞼を揉みほぐすと机の上の剣に目をやる。
華美ではないがシンプル過ぎず、機能美と装飾美が絶妙なバランスで共存している見事な一振りだ。
黄金色のベースに葉脈のように銀のラインが張り巡らされた聖銀と神鉄の複合合金。
積層化された聖銀の1層ごとに叶う限りの付与が施されている。
肉眼ではわからないが耐久性の向上のために刀身には液化金剛鉄メッキが施されており、戦略級魔術の直撃にさらされても傷一つ付かないだろう。
現代の技術を総結集した剣の極致ともいえる一振りだ。
再び眼鏡をかけ、そこに付与された「精密」「鑑定」の術式を起動させる。
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輪廻の霊剣『無銘』
使用者:未設定
主材質:聖銀神鉄積層合金
付与術式:「強化」「鋭利」「不壊」「加護」「修復」「退魔」「増魔」「防魔」「結界」「神聖」「四元」「四変」「二天」「生命」「変異」「時空」「制御」「精神」「同調」「投影」「念話」「成長」「探査」「転移」「転生」
主と共輪廻にする霊剣。使用者の死後その魂とともに輪廻の輪に溶け込み、転生とともに時空を超えて主のもとに現れる。付与の効果により硬化金剛鉄すら両断可能。使用者の魔力を増強し、刀身に魔力を注ぐことで火・水・地・風・氷・木・雷・無・光・闇・聖の属性効果を発動可能。非実体への干渉能力を有し、使用者及び任意対象への魔法効果の打ち消しや防御障壁の展開が可能。使用者の生命を維持し成長を促進する。使用者の身体・精神系状態異常回復、魔力による周辺の精密探査・念話機能を装備。転生時記憶は引継ぎがれない。
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「やっぱ失敗だな。うん」
どれだけ凄まじい性能を有していようとも最後の一文がいただけない。
記憶も引き継げないのにこんなもん持って転生したって意味がない。
それどころか間違いなくトラブルの種にしかならない。
再び眼鏡をはずし剣の横に置き、疲れた体を引きずってベッドまでたどり着くと寝台へ仰向けに倒れこむ。
無機質な天井を見つめていると思わず愚痴がこぼれる。
「生産職チートがみたいっつってもせめてまともに戦える体くらい用意してくれよ……」
本日最後のため息をつくと瞼を閉じ、早々に意識を手放した。
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「おっめでっとさーん‼」
声とともにパンパンパーンと火薬の破裂する音が響いた。
気が付くと古代ギリシャの人が着ていそうな衣装をまとった金髪のイケメンがニコニコしながら自分にクラッカーを向けていた。
突然目の前に現れたイケメンに思わず一歩後ずさる。
違和感を感じてあたりを見回すと周りは一面真っ白だった。目の前のイケメン以外何も存在しないかのようなどこまでも真っ白な空間。
なんで? どゆこと?
さっきまで帰宅路を歩いていたはずだ……
歩いていて上を見上げたら何かが目の前に落ちてきてそれから……
「おやおや?状況が呑み込めていないのかい?まぁ無理もない……君は死んだんだよ」
イケメンは一転して真面目な表情になって重大な事実を告げてきた。
「そう、空から落ちてきた物のせいで君は……」
イケメンは沈痛な面持ちで頭を振った。
あぁ、そうか俺は隕石か何かに当たって死んだのか、一体何億分の1の確率だろう。
なんて運のない最後だろうか。
いや、何の特徴もなかった自分の最後にしては劇的だと思うことにしよう。
「ぷっ、くくく……あははははっ!ひーっひっひ、げふっ!!ゴホッゴホッ」
目の前のイケメンは人が感傷に浸っているのに笑い転げだしやがった。
ムッとしながら睨みつけるとイケメンは目じりの涙を指で拭いながら言葉をつづけた。
「いやぁごめんごめん。何度思い出しても傑作でね。いやはやまさかカラスが運んでいる途中で興味をなくして投げ落とした乾電池を踏んで転倒して頭打って死ぬなんて、トリッキーすぎるでしょ君!滑るといわれてベタにバナナの皮じゃないとこにも好感が持てる!!」
なんじゃそりゃ!?お前の好感度とかほしくねぇよ!!
もはや何十億分の一とか考えたくなくなるレベルで不運過ぎるだろ!!
平凡な死に方よりはとかさっき思ったけど、
そんなギャグみたいな死に方いくら何でもあんまりだ……
「まぁ、何事も考え方だよ?あんな死に方だからこそ私の目に留まって転生出来るんだからさ~」
膝から崩れ落ちてうなだれているとイケメンはとんでもないことを言い出した。
あんな死に方のところで半笑いだったのには正直イラっときたが、
そんな事より異世界転生!?チートで無双でハーレムなアレですか!?
いやコミュ障ボッチの自分にハーレムは無理だけども……
「実は最近生産職チートにはまっててね。君はポイント高いよ!やれトラックだ通り魔だと捻りがないにもほどがある。トラックに至っては風評被害も甚だしい!安全運転を心掛け、陰に日向に世界の物流を支えるトラックドライバーの皆さんに失礼だとは思わんのか!!」
突然激怒しだしたイケメンに目をやると手には見覚えのあるラノベを何冊も持っていた。
チートもらって異世界に転移して美少女たちに囲まれてイチャイチャしながら好き勝手してスナック感覚で世界を救ったりするアレだ。なろう系だ。
「と、言うわけで君にはさっそく私の管理する世界の一つに転生してもらうよ」
え?展開早すぎない?
もっとこうこれから飛ぶ世界の説明とかもらえるチートを選ばせてもらえたり、
スキルとかの説明とかいろいろあるでしょ?
「大丈夫すっごいの付けとくから!!そいじゃ頑張ってね~」
グッドラックと言わんがばかりにサムズアップするイケメン。
ちょっとはこっちの話をきけぇぇぇぇぇ!
その瞬間自分の意識は真っ白に埋め尽くされた。
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いやな夢をみた。
この世界に飛ばされた時の夢だ。
自分も少し感傷的になっているのだろうか。
思い返せばこれまでひどい人生だった。
剣も魔法もモンスターもそろった完璧な異世界にチートももらって飛ばされたが全く持って無双なんてできなかった。
別にサボっていたわけでも好きで隠遁しているわけでもない。
言い訳をさせてもらうなら3つほど大きな問題があるのだ。
まず1つ目に今世の体のスペックがあまりに貧弱過ぎた。
子供でもちゃんと武器があれば楽勝できるようなゴブリンにも殺されかけ、
運動がダメなら魔法でと思えば、膨大すぎる魔力に対して貧弱すぎる制御能力のせいで魔術の使用は幼少時に禁止された。
自分の体を診断した魔術の権威の言を借りれば俺の魔法は20メートル先の種火に消防車でガソリンをぶちまけて火を起こすようなものらしい。
無駄が多すぎる上に魔力の切り時を間違えたら逆流して体ごとボカンだそうな。
2つ目にこの世界は魔法と科学が融合していてぶっちゃけ前世よりも発展している。
とてもじゃないが知識チートや内政チートができる世界じゃない。
それどころか前世の知識があるせいで科学と魔法の融合に違和感があったり。魔法で解決した方がスマートなところを科学で解こうとして詰まったり弊害だらけだ。
こちらの感覚になれるまで随時かかった。
そして最後3つ目だが「もらったチートが使えない」のだ。
いや、使えないというのは語弊があるな、使いこなせないのだ自分の努力とか理解とかそうゆうレベルでなく。
自分が授かったチート「魔巧付与」は魔法理論と紋章学からなる高等魔術で、魔法適性が高い素材にどれだけ精緻な紋章を刻み、どのように魔力をかけるかによって、質もできることも変わる。
二十の術式が使えて一人前、五十使えれば一流と言われる世界で自分は百を越える術式を使うことができた。
ただそれだけだ。
魔巧付与のポテンシャルは凄まじい。
なにせ術式が成立しさえすれば森羅万象を操れるのだ。
それこそライター代わりの火おこしから天地創造まで何でも出来る。術式さえ成立すればだが。
肉体でも前世の知識でもダメならばともらったチートを生かした装備の強化にいそしんだ。
最強装備があれば無双できるなんて思っていた時期もあったが、すぐに壁にぶち当たった。
ここでも低すぎる身体能力が足を引っ張るのだ、どれほど優れた装備でも使い手が性能を引き出せなければガラクタだ。
現在の技術で作れる装備で固めても自分の実力では二流どころが関の山。
その辺のルーキー冒険者が振り回しても一流として活躍できるような装備なのにだ。
現状自分が使える術式の範囲を大きく逸脱する術式を使いこなすのはほぼ不可能だ。
材料工学と工作精度の水準が圧倒的に足りないのだ。
紋章のラインが僅かに歪んだだけで魔巧付与の作用は大きく減衰する。
それを補うために補助する術式を組み込むと効果がぶれるのだ。
自分の頭の中にはすべての術式が詰まっている。
実現すれば世界の創造も破壊も思いのままだ。ただ現実がそれを許さない。
冶金術や材料工学研究にも力を入れたが自分の生きているうち、
それも現役でいられるうちに大きな発展があるとは思えない。
だからもう一度転生することにした。神の手によらず自分の手で。
今度こそチートで無双するために。
不定期にゆるゆると書いていこうと思います。
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