表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られた剣は救いの剣  作者: リュミエール
第1章 相対する二人
6/7

第5話 セカイの母親

 俺はカリンの死体を、村の近くで埋葬した。

 その様子を、グランは悲しそうに見ていた。

「お前はお参りしねえのか?」

「今は、そんな気分じゃない…」

「……生きてても、カリンは現実に苦しんだと思うぞ。それでも、生きててほしかったってか?」

「俺は…救われてほしかったんだ…でも、カリンの望んだのは結局死で…俺は、これからなにを信じていけばいいんだ…」

「そんなもん、自分で見つけろよ」

 俺は投げやりな返答を返してセカイの待つ街道に戻ろうとする。

「待てブラド。一つだけ聞かせろ」

 俺は足を止めて、グランの方を見る。

「お前は、なぜ殺す道を選んだ?救いたいという想いはおれと変わらないはずなのに、どうしてここまで違いがあるんだ?」

 俺はその質問に、一言で返す。

「生き方の違いだろ。人の価値観は、周りの環境で変わるんだから」

「……そうか」

「もう満足か?なら俺はもう行くぞ」

「ああ、呼び止めて悪かったな…」

 俺はカリンの墓から立ち去り、街道に向かう。

 しばらく歩いていると、セカイがボーっと突っ立って俺を待っていた。

「よう、待たせたな。それじゃあ行くか」

「ブラド、ちょっと待って」

 セカイの制止の声を聞き、俺は止まって彼女の方を見る。

「どうした?トイレか?」

 セカイは顔を横にふるふると振る。

「じゃあどうしたんだよ?」

「村の人たちを治療してる時、みんな苦しそうな顔で助けてって言ってたの。人は、どうすれば幸せになれるの?」

「随分難しい質問するな…まあ、やっぱり人それぞれなんだよ。この世界を生きるのが辛いやつには死ぬことが幸せだけど、逆にこの世界が好きなやつには生きることの方が幸せだ。辛いやつの命を断ち切って楽にしてやることが、俺の旅の目的だ」

 俺は腰に差した剣を見ながらそう言った。

「そうなんだ。でも、どうやってその人を見極めるの?」

「辛そうにしてるやつは顔を見ればわかるんだよ。俺はあの時、本当に絶望したやつの顔を知ってるからな…」

 俺は無意識の内に剣を握り締め、歯を強く食い縛る。

 しばらくすると気分が落ち着いてきて、全身から力が抜ける。

「それじゃあカリンも、死んだことは幸せだったの?」

 セカイの質問に、俺は空を見上げながら答える。

「あいつが幸せだったのかは本人にしかわからない。だけど俺は、それがカリンにとって最善のことだったと信じてる」

「そっか…」

 俺の説明を、セカイは無表情で聞いていた。

 やっぱりセカイは、グランと話すときと違って反発がないから話がしやすい。

 そんなことを考えていると、セカイが突然頭を抱えて唸り声をあげる。

「う…うう…」

「お、おい…どうした?」

 セカイはしばらくすると唸り声をやめ、棒立ち状態になる。

「ブラド…私の声が聞こえますか?」

「セカイ?」

「いいえ、私はセカイではありません。私はセカイの母親のようなものです」

「セカイの母親?そいつがセカイの体乗っ取って何してんだよ?」

「あなたに伝えたいことがあって、この子の体を借りました」

「伝えたいこと?」

「ええ。この世界は今、滅びの危機に瀕しています。あなたには…」

「この世界を救ってくれってか?言っとくが、俺はそんなことするガラじゃないぞ」

 俺はセカイの母親の言葉を遮ってそう言った。

 するとセカイの母親が首を横に振る。

「いえ、あなたに頼みたいのはこの少女、セカイを正しい道に導いてほしいのです」

「セカイを導け?一体何言ってんだ?もうちょっとわかるように…」

 俺が尋ねようとすると、セカイの手のひらから一点の光が放たれ、それが俺の中に入ってきた。

「今、何をした?」

「それはいずれわかります。世界が滅びる時がくれば…ですが…」

「世界が滅びる?お前、本当に一体何者なんだよ?」

「私の話はここまでです。それではブラド、あなたが私のもとにやって来ることを待っていますよ」

 セカイの母親は俺の質問を無視してそんなことを言い出す。

「おい!ちょっと待てよ!」

 セカイの母親が瞳を閉じると、ふらついて前に倒れそうになる。

 俺は急いで彼女のもとに駆け寄り、体を受け止める。

 セカイはスースーと息を漏らしている。どうやら眠っているようだ。

 俺はセカイを木陰に運び、横にする。

 それにしてもあいつは一体何者なんだ?

 セカイの母親とか、こいつを導けとか、訳のわからないことをベラベラと喋りやがって…

 まあいい、俺はいつも通りにするだけだ。

 世界がどうなろうとどうでもいい。そんなのは正義感の溢れるやつがやればいい。

「んん…」

「目が覚めたか」

 セカイは目を覚ますとゆっくりと起き上がり、目を擦りながら辺りを見渡す。

「あれ?私、いつの間に寝てたの?」

「覚えてないのか?」

「何が?」

 どうやら母親に体を乗っ取られた時のことは覚えてないようだな。

「なんでもないさ。それより体の方は大丈夫か?」

「体?別になんともないけど…」

「そうか。じゃあさっさと出発するぞ。グランのせいで無駄に時間を使っちまったからな」

「わかった」

 俺たちは立ち上がり、道なりに沿って進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ