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血塗られた剣は救いの剣  作者: リュミエール
第1章 相対する二人
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第2話 死を望む少女

 俺とセカイが出会って三日が過ぎ、俺は彼女の意外な一面を見た。

 こいつ、見てくれが小さいから戦闘はからっきし駄目かと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。

 セカイの放つ魔法の威力は今までに見たことがないほどに強力で、魔法を一つ唱えただけで地面がえぐれてしまうほどだ。

 俺は魔法は使わないから、こういう存在が身近にいてくれるのはありがたいことなのだが…

「なあセカイ。お前、どこで生まれたんだ?」

「わからない」

 こいつ、感情だけでなく記憶もないらしいのだ。覚えているのは名前と一般知識だけらしい。

 最初は放っておけば勝手に離れてくれると思ったが、どうやらそういうわけにはいかなくなりそうだ。こいつのことを知ってるやつに引き取ってもらうまでは一緒にいた方がいいだろう。

 と、そんなことを考えながら道なりを進んでいると、目の前に倒れた男がいた。

 俺は容体を確かめるためにその男に歩み寄る。

「大丈夫か?」

「ぐう…くっ!」

 体のあちこちには鋭い牙や爪のような痕を見る限り、どうやら魔物に襲われたらしい。しかも状態を見ると、手術を施してももう手遅れだ。

「ねえ。この人、どうするの?」

「そんなもん、決まってる」

 俺は腰に差した剣を抜き、その刃を瀕死の男に向ける。

「助からずに死ぬのなら、ここでいっそ楽にしてやるよ」

 俺は剣を振るい、男を斬ろうとしたその時、横から飛んできた火の玉が俺に直撃した。

「ぐう!?」

 火の玉が飛んできた方を見ると、そこにはなにかと俺に絡んでくる厄介な金髪ロングの男、グランが立っていた。

 グランは俺の方に歩み寄り、殴り合いが可能なレベルの距離で止まる。

「お前、瀕死の男に何をしようとした?」

 グランは鬼のような形相でそう言った。

「見てたから俺に魔法ぶっぱなしたんだろ?ったく。空気読めない野蛮人はこれだからやなんだよ」

「なんだと貴様!貴様こそ死にかけの男を斬ろうとするとは、剣士として恥ずかしくないのか!?」

「残念。俺は銃も一緒に使うから、純粋な剣士じゃないんだよ」

「貴様!」

 と、恒例の挨拶も済んだことだし、本題に移るか。

「俺はこいつを殺す。今日こそ邪魔すんなよ」

「ふざけるな!まだ助かるかもしれないのに、諦めるやつがあるか!俺は絶対この人の命を救ってやるぞ!」

 ったく。こいつはいっつも俺をイラつかせやがる。

「こいつの命は十中八九助からねえんだ!だったら長く苦しめるよりも、ここでひとおもいに殺してやるのが優しさなんじゃねえのか?」

「そんなことはない!たとえわずかでも可能性が残ってるなら、俺はそれにかける!」

「んなもんテメエの自己満足でしかねえんだよ!自分頑張りましたって思いてえだけだ!」

「そんなことはない!可能性が残ってるなら、誰だってそれにすがる…それを後押しして、何が悪い!」

 こんの野郎…!見た目は大人でも頭脳は子供並みだな。適当に綺麗事並べやがって…!

「だったらこいつに聞いてみようぜ。どうしてほしいか」

 俺は男の前で膝まずき、尋ねた。

「おい、よく聞け。お前はもう何をしても助からねえ。お前はどうしてほしい?この場で殺してほしいか、ありもしない希望にすがるか。どっちか選べ」

「おい!その聞き方は汚いぞ!まだ死ぬと決まったわけじゃ…」

「お、俺は…」

 男はもうまともに動かせないであろう体で力を振り絞り、思っていることを言葉にした。

「し…死にたく…ない…」

「……希望にすがるか。チッ、付き合ってらんねえ。行くぞ、セカイ」

 俺は二人を置いて立ち去ろうとすると、セカイは瀕死の男の前に座り込む。

「セカイ?」

 セカイの手から黄緑の光が発せられ、それが瀕死の男の傷口を包む。

 すると傷口はみるみると塞がっていき、男の息も次第に落ち着いてきた。

 こいつ、治癒魔法も使えたのか…

 俺とグランはそれを呆然と見ており、セカイは治癒魔法をやめると立ち上がって俺の元へ歩み寄る。

「これで大丈夫。この人は死なない」

「死なないって…あんなに重症だったのに、お前、一体…」

 俺の言葉を遮るように、グランは俺たちの会話に入ってくる。

「この男は大丈夫のようだ。脈も平常になっている。ありがとな、君がいなければ危なかった」

 グランはセカイの頭をポンポンと叩く。

「わかったかブラド。この世に救えない命などないんだ!何があっても諦めなければ、必ず人は救える!」

「ふん、笑わせんな。今のはセカイの力が大きかっただけだ。奇跡でも何でもねえ」

「お前はまだ認めないのか…いい加減認めろ!お前が信じている救いは、誰も救われはしないということを!」

 こいつ…いつもいつも好き勝手に言わせておけば!

「この世にはどうやっても救われねえやつがいるんだよ!そういうやつは、死ぬしか楽になる方法はねえんだ!」

「そんなことはない!俺は絶望していたところを師匠に救われた!誰だって、手を差し伸べれば救われるんだ!」

「……上等だ。だったら、それを俺に証明してみろよ!」

 俺は腰に差した剣と腰に下げた銃を持ち、グランを睨む。

「ああ…見せてやるよ。人の可能性を!」

 俺がグランに斬りかかろうとした時、セカイが俺のズボンを引っ張る。

「なんだセカイ!今はお前に構ってる時じゃ…!」

「あれ」

 セカイは俺を見ながら別の方向を指差す。

「ああ?あれ?」

 俺が指を差した方を見ると、暗い顔でとぼとぼと歩く少女がいた。

「あれは、なんかありそうだな」

 俺は剣と銃をしまい、グランに言い捨てる。

「グラン!テメエとの決着はまた今度だ!あばよ!」

 俺はそう言ってセカイと共に少女の元へ駆け寄る。

「ま、待て!俺も行く!」

 その後を、グランは追った。

「おいお前。どうしたんだ?」

 俺が話しかけると、少女は歩くのをやめてこちらを見た。

「あんたたちには関係ない」

 が、少女は悪態ついて立ち去ろうとする。

「お前、もしかして死にたいんじゃねえか?」

 俺がそう言うと、少女は歩みを止める。

「どうしてわかったの?」

「そういうやつの目は、何人も見てきたからな」

 俺は剣に手をかけながら言った。

「今なら、俺が殺してやるぞ?」

「ちょ、ちょっと待て!」

 俺の言葉に、少女ではなくグランが反応した。

「いくらなんでも、事情くらいは聞いてやってもいいだろう!?何も聞かずに殺すなんて、そんな酷いことがあるか!」

「……お前、事情話したい?」

 少女は首を横に振る。

「だってよ」

「だ、だが…」

「だったら救ってみろよ」

「何?」

「お前は全ての命を救えるんだろ?だったら救ってみろよ、この子を」

 俺は威嚇するようにそう言った。

 だがグランの表情は明るくなり、両手で拳を握る。

「もちろんだ!見てろよブラド!必ず俺が、この子を救ってやるからな!」

 俺は少女を見て言った。

「悪い。殺すのは後だ。お前さえよければ、あいつに付き合ってやってくれ」

「えっ?でも…」

「安心しろ。あいつが駄目なら、俺が殺してやるからさ」

 俺は優しい笑顔でそう言った。

「わかった…」

 少女は納得していないようだったが、グランがこの子を救えれば別に問題ない。救えなければあいつの心を折ることができる。どちらに転んでも俺は別に困らない。

 グランは少女に目線を合わせるようにしゃがみこみ、話しかける。

「君は一体、なんで困っていたんだ?聞かせてくれ」

 少女は言いたくなさそうな顔をしながら、小さな声で言った。

「お父さんとお母さんが、魔物に殺されたの…だから…だから…」

 少女は言葉の途中で涙を流す。

 この手の悩みはよく聞く話だ。だがこういうのは他人がどうこう出来る問題ではない。

 この少女に必要なのは心の拠り所だ。だが赤の他人である俺たちが手を出しても、少女の心の拠り所にはなれない。

 仮にこの少女が復讐を望んでいたとしても、その後は生きる目的を失って、ただひたすらこの世を意味もなく彷徨うだけ。

 だからこの少女のように、復讐心よりも自殺願望が勝っているやつの方が幾分か楽なのだ。望んでいることを、ただ行えばいいのだから。

「そうなのか…それで、友達とかは?」

 グランがそう尋ねた。

「死んじゃった…みんな…みんなあの魔物に…」

 少女の流す涙の量が、さらを多くなる。

 この馬鹿。魔物に両親が殺されて、他のやつが無事なわけがあるかよ。

「そうか。なら俺に任せとけ。俺がその魔物を倒してやる」

 グランが胸を張ってそう言った。

 だが少女の涙は止まることはなかった。

 それを見て狼狽えるグランに、俺は尋ねた。

「お前、魔物を倒した後、この子をどうする気なんだ?」

「えっ?」

「両親が殺された時、その子が真っ先に望んだのは死だ。そんな子を置いて、一人で魔物を倒しに行っても、この子の心は何も変わんねえよ」

「だ、だが!それじゃあどうすれば!」

「そういうやつは殺すしかねえんだよ。親の後を追わせてやるのが、せめてもの情けだと思うがな…」

「くっ…」

 グランは悔しそうに歯を食い縛る。

 その時、セカイは少女の前に立つ。

「貴女は、どうしたいの?」

「えっ?」

「貴女はどうしたいの?死にたいの?復讐したいの?」

「あ、あたしは…またお父さんとお母さんと、一緒に暮らしたい…」

「だそうだが、どうする気だよ。少なくともこの子がこの世で生きてる限り、夢は叶わないぞ」

「……だったら、俺が両親の代わりになる!」

 と、グランが突然馬鹿な発言をする。

「俺がこの子の傍について、心を支えてやる!それが出来れば問題ないだろう!」

 俺は両親の代わりになるというグランの発言に、怒りを通り越して呆れていた。

 こいつが馬鹿なのは知ってたが、まさかここまでとは思わなかった。

 そんなグランに、俺は言った。

「この馬鹿が…好きにしろ!俺は知らねえ!」

「ふん。これでお前が間違ってることを教えてやれるな。君、名前は何て言うんだ?」

「……あたしはカリン」

「カリンちゃんか。よろしくな、カリンちゃん」

 グランはカリンの頭をポンポンと叩く。

「とりあえず俺は様子を見てるぞ。お前が駄目なら殺すって約束したからな」

「ふん!お前の出番なんてないさ!」

 こうしてグランは、カリンと二人で野宿することとなった。

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