昔、昔。
それから、レヴァンの時間は夜だけに限定されるようになった。
太陽の眠りと共に彼の一日が始まり、太陽が再び目覚めるまでには彼の一日も終わる。家の中にいても外の様子が分からない所に彼の部屋があり、太陽が地面を照らす姿を彼が記憶に留める事はない。立ち上がり、言葉を発せられるようになってもそれは変わらなかった。
「母さん、俺。外に出たいよ……」
「いいわ。でも夜になるまで待ってね」
「あ、いや……俺は……今」
「レヴァン。貴方の為なの。分かってちょうだい」
「…………わかった」
幼さが残るあの男は、ただの少年だった。そんな事など知りたくもなかった。殺すべき相手としか考えていなかった。私と同じように、殺した者たちは生きてきて、愛するものがいて。
悲しいことや辛いことがあって、それでも生きようとする者が多いのは、生きたいからに他ならないのに。
「私は……」
私は、何をした?
『ふう……夜中までやっている店を探すのも一苦労だな』
レヴァンは袋から三冊の本を取り出した。新品だ。本は私から見てもお高めなのに、平民の子供だと侮っていた。自由に使えるお金を貰えるほどには裕福なのか。
サンドラ国の歴史書、魔導指南書、物語書。この三冊。この組み合わせは見たことがある気がする。私の友人とセンスが同じなのだろうか。
そのうちの物語書を座って読む。
『昔、昔。あるところに、お姫さまが住んでいました。お姫さまは若い騎士の事が好きでしたが、騎士には幼い頃より結婚を誓い合った町娘がいました──』
この話は最後に騎士がお姫さまを救うために罪を被って命をたつという、悲しい結末で終わっていた。
この話を読み終わり、次の話を読む途中に眠ってしまった。そして、私の意識も飛ぶ。
太陽を浴びることが出来ない位で、彼は人前では不満を漏らすことなどなかった。
人前では。
太陽が出てくる描写では太陽がどの様なものなのかを知らない。暖かい日差しも、暑い夏の光も彼は知らない。
記憶を巡って、彼が七歳の少年になったとき。
彼はサンドラ国王、ベルデューク・S・ハッラーンに謁見することになった。