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スルート

記憶の中に閉じ込められて、2ヶ月程記憶が進んだ。

今頃、この記憶の外はどうなっているのだろう。

『へんね…』

『ああ…』

この記憶には、いつまで閉じ込められていればいいのだろう。

この記憶は、先程私が斬った男の──レヴァンとかいう男の記憶だ。

そして、私の目の前にいる大人二人に赤子。

まず、男の名はユエン。ユキフラ国の人間らしく、白い肌だ。女の名はミシリカ。サンドラ国の人間で、褐色の肌。そして、この異色な組み合わせの二人に挟まれニコニコ笑う赤子はレヴァンと名付けられた。この二人が本当に夫婦で子まで成したのならば、それは両国の……ユエンがこの国の王と知り合いらしいから少なくとも、ユキフラ国に対する裏切りで一族を巻き込む殺しに発展する。

まあ、その赤子は大きくなったら私に殺されるのだが。ざまぁみろ。そう思わないと、この記憶の中で心が押し潰されてしまう。殺した男の過去など、知りたくもない。

『外に出るとすぐに寝ちゃうなんて』

『夜泣きに効果的かと思いきや、寝るのは昼だしなぁ』

そういえば、そうだ。私が見る破目になっている記憶。それは仕切りに閉ざされた場所。もしくは夜に限定されている。

昼間室外にいると、決まって目の前が霞み、気がつくと別の時間軸に飛ばされる。

まるで、太陽の光の元で生きることが出来ないと言うかのように。太陽の元に晒されている記憶がない。

『お医者様に、見せた方が……』

『……そうだな』

再び靄がかかる。見るとレヴァンがうとうとしている。その目が完全に閉じた瞬間に、場所が変わっていた。

見慣れぬ、男がいた。先程の話を聞くに、医者なのだろうか?

見慣れぬ生き物のような物が描かれた紙を引っ張り出してきて二人に見せる。

『これは、スルートと呼ばれる寄生虫だ』

『寄生虫?それがどうしたんだ?』

スルート?私でも聞いたことがない。見る限り、その絵から分かるのはモヤモヤとした生物だということ位だ。

『私も、お目にかかるのは初めてだ。恐らく対処の方法もないだろうね』

『待ってくれよ!スルートって一体なんなんだ!』

ユエンの問いかけに、医者の男はため息をつき、残酷な答えを述べる。

『スルートが食べるのは【記憶】なんだ。日の当たる場所で活動し、宿主のそれまでの記憶を吸い尽くす』

『え……?』

記憶を奪う寄生虫……?

そんなもの、聞いたことない。

その宣告を受けた二人は顔をこれでもかというほどに真っ青にしている。赤子は、無邪気に笑っている。残酷なまでに。その笑顔も、今真っ青になっている両親の顔も、日の当たる所に行ってしまえば忘れてしまうのだ。

『普通ならこいつは寄生に失敗して死ぬか、寄生した瞬間に胎児と共に死ぬんだ!』

『やめて……』

ミシリカは体を震わせて訴える。

頬に一筋涙の線が入る。

『胎児と共に生きて出てき例なんて、奇跡と言ってもいい!』

『やめてくれ!』

ユエンが怒鳴る。息が荒れ、絶え絶えなる。

医者は顔を歪める。二人の気持ちを察したのだろうか。部屋から出ていった。

残された二人は暗い表情。一言も口を交わさない。レヴァンだけがキャッキャ笑っている。

やがてユエンが懐から小さいナイフを取りだしレヴァンに向ける。ミシリカは目を見開きすぐさまその間に立つ。何が起こっているのか分からないのだろう。レヴァンは笑っている。

『何をしているの!?』

『どうせ、太陽の下に晒されれば記憶を失うんだ!』

『この子に罪なんてないわ!罪のない人の命を奪うことは、この国で一番やってはいけないことなのよ!?』

『この太陽が大地を照らすこの国で、どうやってこの子を守ればいい!?』

『……それは……』

私は、この結末を知っている。あの男があの場で私に殺されたのならば、それまでこの男は生きていないといけない。

レヴァンはまだ笑っている。両親に向けて、輝くような笑顔を。

『やめろ……なんで……?

なんで、わらえるんだ……?』

ナイフを突きつけられたという事実も、両親に殺されかけたという事実も、太陽に晒されれば忘れてしまう。

そもそも赤子の頃の記憶なんて、普通の人間でも何時まで持つのか分からないのだ。


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