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吹雪の中の光


「ふ…ふふ…」

吹雪の中で。体から流れ、すっかり黒くなった血で濡れた地面を。つい先程自分が斬り、地面に倒れた男を眺めながら。私は、自分でも気味が悪いほどに笑いが込み上げてきた。

「馬鹿な男」

人を斬るのは、初めてではない。こんな戦争の真っ只中だ。いくら女でも、例え王族でも、戦争に参加する世の中なのだ。前線に常に立ち、剣を握り、向かってくる者も、そうでない者も、敵である以上、殺さなくてはならない世の中なのだ。

例え、昨日まで同じ釜の飯を食った仲の者でも。裏切りの兆候を見せれば、見せしめとして公衆の面前で晒し首になるのだ。

そんな中で生きた私に。見知らぬ、ましてや敵国に自身を売った男を殺せば助かる中で。何故殺さない理由があるのだろうか。

ともかく、これで私は助かるのだ。この愚かな男のおかげで。

自ら剣を捨て、私に身を捨てた男のおかげで。

男を見下し、身の内から込みあげる笑いに体を震わせながら。そんな事を考えていると、微かに男が動いた気がした。

あり得ないと思ったが、その動きが早くなり、今まで聞き覚えのない音が聞こえてきた。それが、男の声だと気づくのにそれほど時はかからなかった。

既に死んだと思った男が、まだ生きていた。苦しそうに、血を吐きながら。地に倒れ、あれだけの時が流れたというのに。まだ、生きていた。

「この…」

その瞬間身の内から涌き出る笑いは、すぐに憎しみに変わった。

黒く色付き、恐らくは切れ味が悪くなっているであろう剣の切っ先を男の体に向ける。

男は、まだ動いている。自分が向けられている状況に、自らの運命に恐らくは気づかぬまま動いているのだ。体から涌き出る、生に属するための苦しみによって。周りなど全く分からずに。

「この死に損ないが…」

そのまま剣を男に突き出した。恐らくは心の臓を穿ったのだろう。一瞬であり得ない程の血が口から、体から吹き出し、痙攣する事もないまま、そのまま動かなくなった。

私は、目の前の事に注意を寄せすぎて、男の体から出た血以外の物に全く気付きなどしなかった。

「堕ちたか…」

男を今度こそ葬り去り、その事に安堵していた。

「恐ろしい男だ…」

死んだと、思っていた。もしも、あのまま油断していたら。その時は自分が怯み、あの時の状況から察するに道連れにされていたかもしれない。

まさか、敵に油断するなと教えられるとは。と思いながら、一息ついていると。目の前が明るくなった気がした。

吹雪が晴れたのかと思ったらそうではなかった。吹雪の中で気づきにくいが、白い光が宙に浮いていた。

さては、本当に道連れに爆弾でも残して行ったのかと思い、焦り。できるだけ後退しようとしたが、時が遅かった。

「なっ…!?」

急に光が更に輝きを増し。そのまま、光で目が眩み。反射的に手で、腕全体で目を守るようにしていると。

唐突に、声が聞こえた。

聞いた事のない男の声。女の声。そして、泣き声。

理解出来ぬまま、腕を下ろし、目を開けると。

『あなた、可愛い男の子ですよ~?』

『ああ、そうだな!』

「は?」

見知らぬ男と赤子を抱いた女が目の前にいた。

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