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纏狼のノア  作者: 槻白倫
序章
7/28

第7話 二人の始まり

 カレンの家に全員が揃い、夕飯を食べ始めた。


 アレイは、会話をしながら食べ物を口に運び、料理の感想を言ったりしていた。その光景を、ノアはボーっと眺めていた。


「どうした?」


 そんな様子のノアに気付いたアレイが、食事の手を止めてノアに訊ねる。


「いや、器用だなと思ってさ」


「ああ。だろ? 慣れるまで結構苦労したんだぜ? けど、慣れると結構便利だ。戦闘でも、視界が悪いときとかに相手の位置が分かったりな。まあ、俺の場合は日常生活でも使うけどな」


「なるほど。俺もやってみようかな」


「やるなら、最初は近くの物を把握する練習からだな。部屋とかに物を置いてもらって、それまでの距離とか、その置いた物が何なのかとか言い当てたりな。あと、町中をねり歩いたり」


「ふむふむ」


 二人の会話を、他の三人は頭に疑問符を浮かべながら聞いていたが、会話の内容から二人が何を話してるか段々と理解していった。


 二人は、目が見えない時の物の把握の仕方を話しているのだ。


 ノアの最初の問いは主語が欠けていて、何に対して言っているのか、少なくとも三人は分からなかった。


 しかし、アレイは考える間も無く相づちをうち、ノアの言いたいことを瞬時に理解して見せた。


 そんな二人の様子を、カイルは驚きながらも感心したような息を漏らた。


「お前たち、本当に初対面か? 長年連れ添った友人みたいに見えるぞ?」


「本当に、仲良しねぇ~」


「……」


 三人は、三者三様な反応を示した。


 カイルとエレンは好意的であるが、カレンは少しジト目でノアを見ている。いや、見ると言うよりは睨むと言った方が適当ではある。


 そんな目で見られ、ノアは少しばかりたじろぐ。


 長年一緒にいる幼馴染にそんな目を向けられると、色々やらかして同じような目を何度もむけられたノアとしては、何も悪いことをしていないのにバツが悪く感じてしまう。


「な、なんだよ……」


「別に……」


 そんな二人を見て、エレンはふふふと微笑み、アレイは苦笑を漏らす。カイルとノアはなんでカレンがそのような態度なのか分からずに、頭に疑問符を浮かべている。


「なんかごめんな、カレンちゃん」


「いえ、別に……」


「ふふふっ、気にしなくて良いわよアレイくん。この子、拗ねてるだけだから」


「拗ねてない!」


「ふふっ、そうね。ごめんなさい」


「ふんっ」


 カレンがそっぽを向くと、二人はまた苦笑を漏らす。


 そして、そのやり取りの意味が分からず、ノアとカイルはまた首をかしげる。


 そんな二人に、エレンは呆れたように首を振る。


「ダメねこの男たちは」


「処置無し、ですね」


「なにがダメなのか分からないけど、アレイに言われるのはなんかムカつく」


「ふふんっ。ノアが何と言ったって、俺の方が女性の機微に関しては一枚も二枚も上手だからな」


「そうね~。ノアはもう少し女の子の気持ちを勉強した方がいいわね~。あとアナタもね」


「むっ、女の子の気持ちか……」


「俺もか……」


「ちょっと二人とも!!」


 流石に喋り過ぎだと、カレンは慌てて二人を止めに入る。


 いくら鈍感なノアでも、ここまで二人が女心だのなんだの言っていては、気づいてしまう。


「女の子の気持ち……」


 ノアもノアで考え始めてしまう始末。カイルもそれに倣って考え始める。


 カイルが女心を考えてくれるのは、年頃の女の子としては娘を理解しようとしてくれていると言うことで歓迎なのだが、ノアは止めてほしい。


 恋する乙女としては少しぐらい考えたり察したりしてほしいものなのだが、それは今ではない。


 今みんなの前で理解されてお互いに照れてしまって気まずくなっても嫌だし、それを皆に、特にアレイとエレンにからかわれるのは癪だ。


「ああもうっ! ノアも考えなくていいから! 二人も、この話はこれでおしまい!! いい!?」


「え~、もっとお話ししたいわ~」


「そうよ~、なんで止めちゃうのよ~」


 アレイとエレンが残念と言う風にカレンに文句を言う。


「アレイさん女声気持ち悪い」


「カレンちゃんも毒舌に!?」


 心底嫌そうな顔でアレイに言うカレンに、アレイは酷いと泣きまねをして見せる。


 そして、アレイのこういうおふざけにすぐに反応しそうなノアは、未だ考えていた。カイルも一緒に考えていた。


「女心……」


「考えなくていい!」


「女心……」


「お父さんはもう少し考えてほしいところだけど、今はノアに便乗しないで!」


「真心……」


「アレイさんも二人みたいに考え始めないで――って、考えてること違うじゃない! 紛らわしいから止めてよ!」


たなごころ……」


「お母さんもアレイさんに便乗しないで! ノアが考え事してる分つっこんでくれる人がいないんだから、収集つかなくなっちゃうから!」


 肩で息をしながらツッコミを入れまくるカレン。


 いつもはツッコミを入れるのはノアの役目なのだが、ノアは今考え事をしていて機能していない。そのため、しかたなくカレンがやっているのだが、これが予想以上に疲れる。


「くっ! ボケをあしらうのがこんなにも面倒くさいだなんて……!」


「どうしますエレンさん。俺ら遠回しに面倒くさいって言われてますよ?」


「まあ、酷い。私悲しいわ」


「……もう二人は相手しない」


「それは酷いわ! かまってちょうだい!」


「そうだぞ! 俺たちかまってもらわないと死んじゃうんだぞ!」


 カレンは賢い選択を取ったが、二人はぎゃーぎゃー喧しい。


 いつの間に意気投合しているアレイとエレンにカレンは隠すことなく溜息を吐く。


(面倒くさいのが仲良くなった……)


 心中でそんなことを思いながら、ぎゃーぎゃー喧しい二人の文句を受け流し、カレンはノアを見る。


 ノアは未だ考えているのか、ぼーっと虚空を見ている。


 カイルは考えることを諦めたのか、それとも、カレンに構ってもらえない二人が、カイルにちょっかいをかけ始めたから考えている場合ではなくなったのか定かではなかったが、二人の相手をしている。


 がさつなところはあるが、常識人であるカイルは二人のノリに圧倒され、苦笑しながらも相手をしている。


 カイルには悪いなと思うが、そのおかげでノアの方に気が割けるので、もう少し二人の相手をしてもらおうと思う。


 カレンはノアに向き直り、声をかける。


「ノア。さっきも言ったけど無理に考えようとしなくていいからね?」


 先ほどとは違い、優しい声音で言うカレン。


「ん? ああ。大丈夫、分かったから」


「分かったって?」


 分かったとはどちらの意味なのだろうかと、カレンの疑問はすぐに言葉に出た。


 女心が分かったのか、カレンの言っていることを理解したのか。


「つまりあれだろ?」


「あれとは?」


「カレンは」


「私は……」


 カレンはごくりと生唾を飲み込む。


 長年のカレンの気持ちを、ノアがここで理解するのか。したとしても、今ここで自覚されても皆の前だから恥ずかしい。けれどもようやっと理解してもらえて嬉しくもあり、しかし、もう少し早く理解してくれてもいいのではと考えてしまう。そもそも、ノアは鈍すぎるのだ。何のためにノアを毎朝呼びに行って少しの時間でもノアを待っていると思っているのか。まさか全部幼馴染だからで完結させていたのではないか。いや、ノアならばありうる。超が付くほどの鈍感さを兼ね備えているノアならばあり得ることであった。しかし、そのノアが今自身の気持ちを理解してくれたと言うのならばこれほど嬉しいことは無く、ようやく思いが結ばれるのかと考えると、もはや感動すらする。そうだ、結婚したら姓はやはりルーヴになるのだろうか。二人とももうすぐ成人だから結婚はすぐできる。そう思えばここまでノアが引っ張ってくれてよかったと思う。ノアが早い段階で気づいていて、了承を出していたのならば、成人する日までが待ち遠しくて仕方がなくなるのだから。そう思えば、ノアの心が変わる前に結婚して既成事実も作れる。子供は何人欲しいか、家はどうするか。考えればきりがないほどノアとの未来が広がる。


 ノアの答えが出るまでの数瞬でここまで考えてしまうほどカレンは浮かれていた。


 そうして、ノアの口が開かれる。


「俺が食事中にぼーっとしてたから怒ったんだろ?」


「は?」


 なんにも分かってなかった。


 思わず、どすの聞いた低い声が出てしまった。額に青筋さえ浮かんでいる。


 しかしそのことにノアは気付かない」


「いや、俺なりに女心を考えてみたんだよ。女の子って行儀を気にするだろ? だから、食べずにぼーっとしてるのが気に食わなかったのかなって」


 いやーごめんな。今度からちゃんと食べるからさと、微笑むノア。


 そんなノアに、カレンは更に青筋を浮かべる。


 ノアに悪気はない。悪気がない分、更にたちが悪い。


 ノアの回答に、アレイとエレンが額に手を当て処置無しと溜息を吐く。


 そんな二人を気にした様子もなく、スッキリした顔でご飯を食べるノア。


「……ノア」


 ノアに極力、できるだけ笑顔で呼びかけるカレン。


「なに?」


 ノアに、ノアが思っていることは違くて、今じゃなくていいからもう少しだけ考えてほしいと言おうとしたカレン。


 しかし、ノアの呑気な顔を見てついにカレンにも我慢の限界が来る。


「このおバカ!!」


「ふぎゃっ!?」


 笑顔から一転、眉尻を吊り上げながら拳骨を繰り出すカレン。


 アレイとエレンは額に手を当て「あちゃー」と天井を仰ぐ。


 しかし、そんな二人の様子など目に入らないくらいノアは狼狽していた。


「え? え? なんで? なにが?」


「もういい! ちょっとは自分で考えて!」


 そう言うと、ふんっとそっぽを向いてしまう。


 何がなんだか訳がわからず、アレイとエレンに助けを求めるノア。


「ノア、今のはあんまりだ」


「そうね。がっかりだわ」


「えぇ……?」


 しかし、二人にまでダメ出しされて、更に困惑するノア。


 最後の頼みの綱として、カイルに視線を向ける。が、さすがのカイルも分かったようで、溜息を吐く。


「ノア、さすがの俺もそこまで酷かねぇぞ?」


「そ、そんなぁ……」


 仲間だと思っていたカイルまで理解している様子に、ノアはがっくりと肩を落とす。


 そんなノアの様子に、アレイは苦笑を漏らす。


「カレンちゃん。こいつこの通り色々分かってないからさ」


「……うん」


「一度離れてみれば、何か色々見えてくると思うんだ」


 アレイが何を言いたいのか、なんのことを言っているのかを理解したカレンは、ビクリと肩を震わせる。


「だから、こいつと旅に出ること、許しちゃくれないかい?」


「――っ!」


 ノアの家にいるとき、カレンの様子が少しだけ変なことに気付いたのはエレンだけではなかった。


 アレイは、見えない代わりによく聞こえる。その耳で、カレンの様子がおかしいことに気付いていたのだ。


「あらぁ。アレイくん、ノアと一緒に旅に出るの?」


「ええ、まぁ」


「あらあら。いいじゃない。ねぇ、アナタ」


 どうやら、エレンは二人の旅に賛成のようだ。カレンは、エレンであれば賛成するのだろうと思っていた。


 エレンは、ノアのことを心配こそすれ、動きを制限するようなことは一度も言わなかった。全て、ノアの意思を尊重した。もちろん、危険なことは止めてやめさせたりもした。しかし、そうでないときは何も言わずに見守っていた。いわく、「男の子はやんちゃなくらいがちょうどいいわ」とのこと。


 だから、エレンが二人の旅に賛成することは予想できた。だから狼狽えない。


 それに、カイルは反対してくれると思っているからだ。


 カレンは、縋るようにカイルを見る。


「お父さん……」


 カイルは難しい顔をして腕を組んでいる。


 ややしてから、カイルは溜息を一つ吐いてから重い口を開いた。


「そうだな」


 カイルの出した答えは、二人の旅に賛成するものであった。


「お父さん!?」

 

 カイルが賛成したことに、カレンが驚きの声を上げる。その声は、言外に「何故?」と問いかけていた。


「ノアももう子供じゃない。世界を見てくるのも、悪いことじゃない」


「でも!」


「それに、ここにずっといてもノアの夢が叶うとは思えない」


「――っ!」


 カレンもノアが何を目指しているかは知っている。


 ノアは、兄のゼムナスと同じ「纏鎧士」になることを目標としている。その目標のために毎日鍛錬を積み重ねていることも知っている。そして、ノアが、ゼムナスのような天才でないことも知っていた。


 だから、ずっとこの狭い町にいてはノアが強くなれないことも知っていた。


 でも、それでも――


「やだ……」


「カレン……」


「絶対にやだっ!!」


 目に涙を溜め、カレンはノアを睨み付ける。


「ノアはずっとわたしの傍にいるの! そう約束したよね? 無茶もしない、危険なこともしないって! でも旅に出たら無茶もするし危険なこともするんでしょ!? そんなのやだ! わたしはノアが死ぬのはいや! 怪我をするのも嫌だし、わたしが知らないところで危ない目に合ってるのもいや! 傍にいてくれなきゃ絶対にいや!!」


 カレンはそうまくし立てると、家を飛び出して行ってしまった。


「カレン!」


 ノアが呼びかけるも、カレンは振り向かずに走っていった。


「くそっ!」


「待って」


 すぐにノアが追おうとするが、エレンが制止の声をかける。


「エレンさん!」


 止めるエレンを責めるように呼ぶ。しかし、エレンも譲れないと言った表情をしていた。


「カレンも頭を冷やす時間が必要でしょうし、なにより泣いてる顔をノアに見られたくはないと思うの。だから、今はそっとしておいてあげて」


「……はい」


 ノアはカレンが心配で仕方がないと言った顔をしていたが、エレンの言いたいことも分かるので、不承不承ではあるが椅子に座った。


「なんか、すみません。俺が余計な事したみたいで……」


 アレイは、一気に悪くなってしまった空気に、申し訳なさを感じて謝る。


 そんなアレイに、エレンは優しく微笑みながら首を横に振る。


「いいの。いずれこうなるって分かってたから」


「そうだな。ノアが旅に出るときに、一悶着あるとは思っていた。いずれだったのが今日に早まっただけだ」


 二人は気にするなと言ったが、アレイとしては気にしないわけにもいかなかった。


 少し、性急に事を運ぼうとし過ぎたと反省する。


「あの子は、ノアがお気に入りだから。ずっと傍に居てほしいって、ノアの横は自分の物だって。それが、今日アレイくんがノアと親しそうだから、少し焦っちゃったのよ。ああ、別にアレイくんが悪いって言ってるわけじゃないのよ?」


「いいえ、俺も、焦ってことを運ぼうとしてたんで……もう少し、待てばよかったですね」


「そうね。それじゃあ、そういうことにもしておきましょうか。ともかく、あの子も少し頭を冷やせば冷静に考えられる子だから、少し待ってあげて」


「はい」


 エレンの言葉に、アレイは元気なく頷く。


 場の雰囲気が暗くなる。そんな暗さを振り払うようにエレンは明るい声で言う。


「さて! 暗い雰囲気はここまで! ノアは、旅に出るのは、もう決めたことなのよね?」


「うん」


「そう! それじゃあ、旅の準備をしましょうか! 大きいカバン用意しなきゃね! いっぱいお土産買ってきてもらわなくちゃ!」


 明るくそう言い放つエレンに、ノアは苦笑する。


「おいおい。ノアは旅行に行くわけじゃないんだぞ?」


「あら、いいじゃないお土産くらい」


 カイルに言われ、拗ねたように頬を膨らませるエレン。そんな子供っぽい姿でもエレンは様になるなとノアは苦笑する。


「いいよ、お土産くらい。ちゃんと買ってくるから」


「ほら! ノアもこう言ってるじゃない!」


「んまぁ、ノアが良いのであれば、構わんが……」


「カイルさんも、なにかあったら買ってきますよ?」


「ほらほら、アナタも遠慮しないで」


「エレンさんは、ほどほどにしてくださいね?」


 先ほどの空気から一片、また明るさが戻ってくる。


 この後、頭を冷やしたカレンが戻ってきて、結果的に自分の旅立ちを祝福してくれる。ノアは、なんともなしにそう思っていた。


 しかし、現実はそうはならなかった。


「――っ!?」


「? アレイ、どうしたの?」


 突如、アレイが驚愕の表情で立ち上がり、家の外へと出た。何事かと、ノアもその後に続いた。


 外に出て、アレイの横に並ぶ。そうして、アレイの顔を覗き見た。


「……どうしたの?」


 アレイの顔は、ノアが見たことないくらい焦燥に駆られていた。思わず、心配して声をかけるが、アレイは答えない。


「アレイ?」


「暗い……」


 ようやく喋ったと思えば、その一言。


「なに当たり前のこと言ってんのさ。夜なんだから、暗いに決まって……」


 最初は、何を当たり前のことを言っているのだと思ったノア。しかし、話しているうちに、ノアもアレイの言っていることを理解し、この異常性に気付いた。


 暗い。暗すぎた。


 本来見えるはずの星も、月も何も見えない空。


 それはまるで、闇でこの町を囲い込んだかのようであった。辛うじて、夜警の松明の炎で全く見えないと言うわけでは無い。


「くっそ……! 遅すぎたってのか!」


 アレイが悔しそうに歯を食いしばる。


「……アレイ?」


「ノア! お前はカレンちゃんを捜して来い!」


「え、でも」


「早くしろッ!!」


 アレイの、余裕の怒声で言う。


「どうしたんだ?」


 ようやく出てきたカイルが、怪訝な顔で問いかける。


 そんなカイルに、アレイは未だ余裕のない表情で言う。


「カイルさん! 今すぐに町の住民を入口の大門の反対に避難させてください!」


「おいおい。どうしたんだいったい」


「説明している余裕が無いんです! 一刻も早く避難させないと、大変なことになる!」


 真剣な表情でまくしたてるアレイ。その切羽詰まった表情に、カイルはようやくただ事ではないと理解する。


「分かった」


 カイルが頷くのを見ると、アレイはノアに向き直る。


「ノア! お前は早くカレンちゃんを見つけろ! 手遅れになる前に!」


「……分かった」


 ノアも、アレイの余裕の無さを見てただ事ではないと理解する。


 アレイの言葉に、頷き走り出す。


「カイルさんは、避難させつつも、火を起こしてください。この暗闇じゃ、火が尽きれば命取りだ。あと、避難しても夜明けまで行動しないでください」


「了解した」


「それと、剣はありますか?」


「ああ、あることにはあるが」


「貸してください」


「分かった」


 カイルは、家の中にいったん戻り、急いで剣を持ってくるとアレイに渡す。


「ありがとうございます」


「君はどうするんだ?」


 アレイは剣の感覚を確かめるように、一振り二振りと剣を振るう。


「元凶を倒しに行きます」


 剣を鞘にしまうと走り出す。


「もう失ってたまるかよ……!」


 アレイは強い覚悟のこもった声でそう言うと、走る脚に力を籠める。


 目指すのはこの町唯一の入り口の大門。


 そこに、アレイの倒すべき宿敵いると確信しながら。


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