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纏狼のノア  作者: 槻白倫
序章
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第4話 アレイ

 気を取り直して、ノアは質問を再開する。


「そう言えば、人捜してるって言ったよね?」


「ああ、絶賛捜索中」


「なんで捜してるの?」


「渡さなきゃいけないものがあるんだよ。そいつにとって滅茶苦茶大切なものだからさ」


「へー」


「また興味のなさそうな声を……」


「だって、なんでかは知りたいけど、深く知りたいわけでもないし」


 とりあえず聞きたいが、さしたる興味もないのだ。


「お前は正直者だな……」


 呆れたような、感心したような声で言う男。


「村の人にも、よく素直な子だね~って言われる」


「へー。因みに俺的超理論だと、素直な子って子供っぽい感じがするんだよ」


「なにが言いたい?」


 暗に子供っぽいと言われ、若干不機嫌になるノア。


「だからお前はガジガジとか言っちゃうのかなと」


「それとこれとは全く関係ない!!」


「いや、でも子供って素直じゃん? 素直な子はガジガジとかお腹ペコペコって言うし」


「それは素直とか以前に子供だからだろ!」


「君はとっても素直な子だな~」


「今このタイミングで言われても馬鹿にされてるようにしか聞こえない!」


 ノアはそう叫びながら手近にあった木の枝を投げつける。


 それを男は、はははと笑いながら避ける。


「まあ、冗談はさておき」


「次冗談でも同じこと言ったら怒るからな」


「な~に言ってんの~もう怒ってるじゃ~ん」


 何を言ってるんだまったくしょうがないな、と言った感じに肩をすくめて笑う男に、正直苛立ちしか感じなかったが、ここで怒っては延々同じようなことを繰り返すばかりだと考え、なんとか怒りを押しとどめるノア。


「さておきなんだよ?」


 半ばやけくそ気味に訊き返すノア。


「いや~、恥ずかしい話、俺って旅ばっかり繰り返してるから無一文なわけよ」


 あまり恥ずかしそうにせず、開けっぴろに言い放つ男に果たして羞恥心の類があるのか不明だが、そこを突っ込んでしまうと先に進まないので我慢するノア。


「だから、どこか美少女のいる家に泊めてもらいたいな~なんて」


「そうか、野宿頑張れよ」


 図々しお願いに立ち去ろうとするノア。しかし、俊敏な動きでノアの脚に抱き着く男。


「待って! 冗談だ! 頼む! 一日だけでもいいからお前んちに泊めてくれ!」


「断る! うちの町にも一応宿屋があるんだ! そこに泊まればいいだろ!」


「お前は俺の話の何を聞いてたんだ! 言っただろ! 無一文だと!」


「堂々と言うことじゃないよな?!」


「なんどでも、あえて言わせてもらおう! 無一文であると!」


「なんども言うな! 恥ずかしくないのか?!」


「恥など捨てよう! お前の家に泊めてもらうためならば!」


「ああもう! 恥捨てるにしても俺じゃなくて他の大人に頼めよ! 町長なら泊めてくれるだろうしさ!」


「じじいの家に泊まって何が楽しい!? こっちだって、できれば美女の家に泊まりたいがお前で妥協してんだよ!」


「恥捨てるわりには本当に図々しいなあんた!」


 恥を捨ててもなおも図々しい男に、ノアは感心すら覚える。


 いや、恥を捨てたからこそ図々しいのかもしれない。どちらにしても、目標にはしたくない大人である。


 因みに、町長は初老の優し気なお爺さんだ。ノアも良くしてもらっている。


「ええい! じじ臭くとも我慢しろ!」


 割と酷いことを言っているノアだが、それを咎める人物は今はここにはいない。


 そんなノアに、男は神妙な顔で言う。


「俺……実は病気なんだ」


「え?」


 唐突なカミングアウトに、ノアは一瞬固まってしまう。


 病気であるならば、確かに屋根がある場所で寝た方がいいだろう。それに、なんだかんだ言っても、ノアも本気で嫌なわけでは無い。泊めるのはやぶさかではないのだ。


 ノアの町には医者と言うものはいない。大きな街でもなければ医者などと言うものはいないのだ。


 唯一、魔法による医療行為を少しばかりできるのがエレンだ。そのため、何かあった時のために、隣家であるノアの家に泊めるのは当然であるともいえる。


 そう考え、一瞬、泊めるのを許可しようかとも考えた。


 しかし――


「美女の匂いを嗅がないと死んじゃう病気なんだ」


「なら死ね! ここでくたばっちまえ! 俺の同情返せ!」


 全てが台無しだった。


「待って、冗談だ! 確かに冗談だ! だけど、病気と言うか不自由してることならある!」


「なんだよ! 男として不能とかくだらないこと言ったら怒るからな」


「ふっ……もう、怒ってるだろ?」


「ああ、怒ってるよ! はいさよなら!」


「ああ、待って待って! まじでまってぇぇぇぇええ!」


「ああもう! 鬱陶し……」


 あまりにもしつこい男に、蹴りを入れようかと思い男の方を見る。そして、そこで見えてしまう。


 今まで一度も見たことが無かったので思わず固まってしまう。


 男は、その間だけでノアが何を見たのかを気付いたのだろう。男は少しだけ自虐的な笑みを浮かべる。


「ああ、気づいたか?」


「あ、うん……」


 男には、左腕が存在しなかった。肩口から綺麗にその先が無かったのだ。


 男は、ノアの脚を離すとマントをはだけさせて左肩を露出させる。


「昔やっちまってなぁ。滅茶苦茶強い敵にやられた」


 情けないよな~とからからと笑う男。


「ちなみに、目も見えてない」


「え!?」


「音と魔力だけで判断してる状態だな」


 そう言われ男の目を見てみると、確かにこちらを向いているのだがその焦点は合っておらず、目には光が宿っていなかった。


「あ、と……そのぉ……」


 若干ではあるが気まずく感じてしまうノア。


 言葉に詰まるノアに、男は苦笑しながら言う。


「別に、同情する必要はねえさ。これは、俺が選んだことの結果だからな。悔いはねえよ。逆に、勲章的な? ほら、よく言うだろ? 怪我は男の勲章だって」


「……戦闘で受けた傷は弱者の証だって、よく言われてる」


「厳しっ! でもまあ、確かになぁ……この傷は、俺が弱かったからだしなぁ……」


 ノアの物言いに少しだけ落ち込んだようになる男。


「でも」


 そう言いながら、ノアは男の目に優しく触れる。


「誰かを守るために傷ついたのなら、勲章だと思う」


 ノアのその目は真摯で、偽りを言っていないと分かるものであった。男も、盲目であるが、ノアのその雰囲気を感じ取ったのか、神妙な雰囲気になる。


「誰かを守るために傷つくなんて、誰にでもできることじゃないから」


「そうか……」


 ノアの言葉に、男は嬉しそうに頬を緩める。


「そう言ってもらえると、俺も体を張ったかいがあるってもんだよ」


「まあ、その言葉も守られた本人が言わなきゃ意味ないけどな」


「そんなこともないさ。誰かに俺のこの傷は意味があったって言ってもらえるだけで、俺はまだ戦える」


 あっけからんとそう言い放つ男、しかし、その言葉には口調以上に思いが詰まっているのを感じた。


「……なんか、かっこいいな」


「ん?」


「かっこいい、そういうの」


「そうか?」


「うん。自分が傷ついてまで守ろうと思える人がいるのは、正直羨ましいし、そこまで自分を貫けるあんたも、かっこいいと思うよ」


「そ、そうか……」


 茶目っ気もなくそう言われると、いつも陽気にふるまうことを信条としている男としては照れくさくなってしまう。


「でも子供にたかるのはかっこ悪い」


「上げて落とすね!?」


 プラマイゼロだよ~と泣いたふりをする男。


 そんな男に、ノアは呆れたように微笑む。


「いいよ」


「え?」


「泊めてやるよ。うちに」


 どうせ家にはノア一人しかいないのだ。まだゼムナスの寝具は家に残っている。纏鎧師として宮仕えをするのに、今まで使っていた家具や寝具では相応しくないので置いて行ったのだ。


 そのため、ゼムナスが使っていたものはあらかた残っている。人一人泊まるくらいわけない。


 それに、なんだかんだ言っても結局、ノアはこの男を泊めてやるつもりであった。


 なぜだかは分からないが、この男を一目見たときからそうするべきであると思ったのだ。


 ノアはその直感を信じることにしたのだ。


「あ、ありがとおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 男は急に跳んでくるとノアに抱き着こうとする。しかし、簡単に捕まるノアではない。


 ひょいとかがんでかわすと同時に、拳を握りしめて腹に一発当てる。


「ごふっ!」


 男は、ろくな着地もできず顔から地面に突っ込んでいき、そのまま数メートル進む。


「うわ、痛そ……」


 自分でやったくせに人ごとのようにそう言うノア。


 男はガバリと起き上がると抗議の声を上げる・


「いてえよ! 顔削れるかと思ったわ!」


「削れればよかったのに」


「はん! 俺の頑丈さを舐めんなよ? 地面に擦れる程度どうってことないわ!」


「そうか。じゃあ行くぞ」


「軽い! 反応が軽いよ! もっとあるだろ? どうってことないなら、なんで痛がるんだよ! とか、つっこめよ!」


「え~。めんどくさい」


 本当にめんどうくさそうな顔で言うノア。


「お前は淡白な野郎だな……そんなんじゃもてないぞ?」


「モテなくてもいい。俺はそんなことより強くなりたいんだ。そんなことに時間を割いてる余裕はない」


「……」


 ノアの言葉に反応を返さない男に、ノアは訝しげな顔をする。


「なんだよ?」


「いや、なんでもねぇよ」


 男はため息交じりにそう言うと立ち上がり、ノアに着いて行く。


 なにか含みのある感じではあったが、どうせまたくだらにことだろうと気に留めないノア。


「そういや、親御さんに許可とんなくていいのか?」


「凄い今さらだなそれ……大丈夫だよ。うちは親いないから」


「あ、わり……」


「いいよ。物心ついた時からいないから、正直顔も覚えてないし」


「そっか……」


「あんたは? 家族、いるの?」


「あー、どうなんだろうなぁ……生きてるかもしんねえし、死んでるかもしんねえ」


 どうなんだろうなと、まるで人ごとのように言う男。


「行方不明ってことか?」


「そんな感じだな。ま、向こうからしたら、俺の方が行方不明なんだろうけどな」


「?」


 男のよくわからない言い回しに首をかしげるノア。


 そんなノアに、男は快活に笑う。


「ま、考えても仕方ないことさ。俺は両親の安全を祈るしかないし、向こうも俺の安全を祈るしかないんだからな」


「……そう、か」


 男はそう言うが、ノアにはよく分からなかった。


 ただ分かるのは、男がもう家族と会うのを諦めているということであった。そのことは男の諦観した雰囲気で理解できた。しかし、諦めてはいるが、男にはまだ家族に未練があるのだろう。


 会えるとは思っていないが、会いたくないというわけでもないと言った感じであった。


 ノアは、家族は兄だけしかいない。父親や母親の代わりになってくれている人はいるが、本当の両親はいない。もともといないようなものであったから、未練はない。しかし、男は別だ。


 男は、両親を知っていて、会えるかもしれないのだ。男が、何を持って会うことを諦めているのかは分からないが、ノアは会えるのなら会わせたかった。


 むろん、男がそんなことを思っていないのであれば、このようなことは思わなかっただろう。しかし、男は家族に会いたいと思っている。ならば、ノアがどれほど力を貸せるのかは分からないが、男が家族に会うのを手伝いたいと思った。


 なぜ、初対面の男に対してそう思うのかは分からないが、ノアは強くそう思った。


「そう言えば」


「ん?」


 男が話しかけてきたので、ノアはいったん思考を中断する。


「まだお互い自己紹介してなかったな」


「ああ……」


 男に言われ、納得すると同時に呆れてしまう。


 お互い自己紹介も無しにあんなにじゃれ合っていたのかと。


 男もそれに思い至ったのか、苦笑している。


「んじゃあ、言い出しっぺの俺から。俺の名前はアレイだ。あ……」


 男は自己紹介した後、しまったといった顔をする。しかし、すぐにいつも通り笑顔になる。


「まあいいや。んじゃあ、次はお前さんだ」


 男改め、アレイがなぜあのような顔をしたのか気にはなったものの、アレイに自己紹介を促されたのでその疑念を隅に追いやる。


「俺はノア。ノア・ルーヴだ……って、どうした?」


 ノアが自己紹介をすると、アレイは心底驚いたというように固まる。が、ノアが声をかけると、すぐに硬直を解く。


「あ、ああ……いや、何でもない」


 何でもないと言うが、明らかに動揺しているアレイ。


「そっか、ノアか……」


 しかし、もう一度ノアの名前を呟くと、今度は何かを懐かしむような顔をするアレイ。それと同時に、酷く満たされたような顔をする。


「……よろしくな、ノア」


「あ、ああ。よろしく、アレイ」


 なぜアレイがそのような顔をしたのかは分からない。しかし、アレイに邪気の無い笑顔を向けられ、ノアはそれ以上考えるのをやめた。


 考えても分からないし、何よりアレイが話したくなったら話すだろうと思ったからだ。


 こうして二人は、遅まきながら自己紹介を終えたのだった。


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