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纏狼のノア  作者: 槻白倫
第1章 迷宮都市編
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第9話 オーグル討伐2

ブックマーク、評価、ありがとうございます。

大変はげみになっています。感想などももらえると嬉しいです。

 森を練り歩き、オークを順調に狩っていく二人。


「なかなかに順調だな」


「そうだね。昨日遭遇した数は倒せたと思うんだけど……」


「ま、当然それだけじゃねぇわな。遭遇率から考えると、確実にもっといるんじゃねえか?」


「感知できる魔力の数も多いし、何よりまだ生きてるオークの匂いがするからね。確実にまだまだいるよ。それと……」


 先ほどから数分と経たないうちにオークと遭遇している。それに、段々と遭遇するまでの時間が短くなっている。


「多分、オークの群れが近いね。ここからは多分、今まで以上に敵の数が増えるよ」


「うへぇ、激戦かよ。燃えるわぁ……」


「燃えるとか言いながら嫌そうな顔してるね」


「当たり前だろ。誰が好き好んで戦いたいって思うよ。俺は戦闘狂じゃないんでね。それに、こんな厄介なこと、簡単に終わるに限るだろ」


「確かにね。あまり危ないことをするとカレンも心配するし」


「そうだぞノア。あまりカレンちゃん心配かけんなよ? 待ってるだけってのは、お前が思ってるよりもずっとしんどいんだぜ?」


 レイジに言われ、考える。


 確かに、自分がなにも出来なと言うもどかしさは筆舌に尽くしがたい苛立ちや焦燥感、不安がある。もどかしくて、しんどくて、苦しい。戦いに赴いた誰かの帰りを待つのは、酷く辛いことなのだ。


 それは分かっている。けど、それでもノアは旅をしたいし、困っている人を見捨てられないし、迷宮探索だってしてみたい。もっともっといろいろ見て回って、経験して、いろんな事を学びたい。そして、強力な敵と戦って、勝って、時には負けてを繰り返す。そんな冒険をしてみたいのだ。


「レージの言いたいことは分かるよ。俺も、出来るならカレンに心配はかけたくない。けど、それでも俺は旅をしたいんだ。旅をして、いろんな人に会って、いろんな事を経験したい。それに、旅に出たからレージと出会えたわけだしね」


「それに関しては俺も同感だがね。俺も、ノアと会えて良かったと思ってるよ。ノアと会わなきゃ、俺は死んでいたかもしれないしな」


「レージならあの状況でもなんとかできたような気がするけどね」


「無茶言うない。俺気絶してたんだぞ? それに、あんな経験初めてだったしな。予備知識なしであの状況をどうにかできたとは思えない」


「そう? クラウ・ソラスの炎を利用して落下速度を抑えられそうだけど……」


「冷静に考えられる今ならいろんな方法が浮かぶけど、あの状況じゃ正しい判断なんてできないさ。ノアも落ちてみればわかる」


「俺は落ちたら魔纏狼使って着地すればいいだけだから」


「ほんとずっこいなぁ魔鎧ってやつは!」


 ノアの答えに、レイジが声を荒げて文句を言う。


 その直後、二人は上体を反らして飛来してきた物体を難なく躱す。二人の横を通過した物体は背後の木に直撃し、強烈な衝撃音を上げた。


投石器(スリング)ってやつか?」


「多分そうなんじゃないかな?」


「命中率は良くない。けど、威力はあるな」


 レイジはチラリと後ろを振り返り、拳大の意思がめりこんだ木を見る。


 魔法的なプロテクトをかけていない二人が投石器から放たれる石をくらったらひとたまりもない。


 しかし、二人に慌てた様子は無い。


「レージ、こいつら任せていい?」


「もともとそのつもりだろ? さっさと行って来いよ。こっちは任せろ」


「うん、ありがとう。ここは任せた」


 会話をしながらも、二人は飛んでくる石を難なく躱してみせる。それどころか、確実に前に進んでいっている。


「魔纏狼!!」


 ノアは魔纏狼を身に纏うと、一気に走り抜ける。ノアの標的はオークでは無い。その奥にいるオーグルだ。


 オークの数が増え、とうとう二十を軽く超えた数と遭遇した。このまま二人で戦えば、オークよりも強力であるオーグルと戦う前にかなりの消耗を強いられてしまう。そうなった場合、万全のオーグルと消耗した新米纏鎧士&新米聖剣使いの戦いにってしまう。そうなれば、必然、勝率は下がるし、二人の生存率も下がる。


 そのことを二人とも理解しているから、ノアは先に行き、レイジはこの場に残ったのだ。


 オーグルの匂いも近くにある。魔纏狼を使って攻めるなら今のタイミングが絶好の機会なのだ。


 ノアはすれ違うオークを無視して一直線に森を駆け抜ける。


 すれ違うオークに攻撃をしないのは、する必要が無いからだ。レイジが任せろと言った。ノアは任せたと言った。であれば、ノアは信じて己が成すべきことをするだけだ。


 木々の間を疾風の如く駆け抜ける。


 走れば走るほど、魔力の反応を大きくなり、匂いは強くなっていく。間違いなく、この先にオーグルがいる。


 木々が生い茂るエリアが終わりを迎え、開けた場所に飛び出た――――直後、大振りの棍棒がノアに振り下ろされた。


『――ッ!』


 避けられるタイミングでは無い。ノアは咄嗟に防御の構えを取る。


 瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き、凄まじい衝撃がノアを襲う。


(クッ! 魔纏狼を使っていてもこの威力なのか!)


 凄まじいほどの衝撃がノアの両腕に圧し掛かる。


 耐えられないわけでは無いけれど、それでも腕が痛むほどの衝撃だ。


『はあぁ――――ッ!!』


 ノアは気合いの一声を上げると、棍棒を押し返し、弾き飛ばす。


 棍棒を弾き飛ばされた何者かは、数歩後ろにたたらを踏むもなんとか体勢を整えた。


 ノアは、目の前の者を睨み付ける。


 目の前の者は全長がゆうに四メートルを超え、その身体は醜くぶよぶよとした脂肪に覆われていた。薄茶色の肌に、まだらにこげ茶のシミの出来た肌。下顎から伸びる雄々しくも黄ばんだ二本の大きな牙に、側頭部から天に向かって伸びる見るからに硬質な角。もさりと蓄えられた(ひげ)は長く、その髭の上を通していろんな生物の頭蓋骨を括り付けた首飾りをしていた。


 この者こそが、街の住民が恐れ戦いた魔物。暴鬼ノ大将(オーグル)である。


 オーグルは黄色く黄ばんだ目をノアに向ける。


『オマエ、コノアイダノ……』


『――ッ!』


 片言だけれど言葉を話すオーグルに、ノアは面喰ってしまう。しかし、すぐさま意識を戦闘に向ける。


『オデ、ノ、ジャマスル、ヤナヤツ、ダ』


『お前が街の人に危害を加えないって言うなら、俺は邪魔なんかしないよ』


『ヒト、オデタチノ、クイモン。オデタチガ、スキニスル』


『人間はお前たちの食い物なんかじゃない。食い物の区別もつかない奴は、そこら辺の石ころでも食ってろ』


『イシコロ、マズイ。クウナラ、ニク。ヒト、イチバン、ウマイ』


『……分かっていたけど、交渉の余地無し、か。なら仕方ない』


 交渉の出来る相手でないことは初めから分かっていた。けれど、もしかしたらという可能性に賭けて対話を試みてみたのだが、やはり交渉は出来ないようだ。会話は出来るけど、己の欲を優先させるつもりらしい。


 ノアは腰を軽く落とし、いつでも生み込んでいけるように(かかと)を少し上げる。


『悪いけど、人間を食い物にするって言うなら、黙っていられない。お前は、ここで仕留める!!』


 言うな否や、地面を蹴りつけ駆け出すノア。


 オーグルは駆け出したノアに棍棒を振り下ろす。しかし、重い武器である棍棒を振った速度などたかが知れている。不意打ちならともかく、真正面から戦う分にはノアにとってはなんの脅威にもならない。


 ノアは鈍重な棍棒をひらりと躱すと、オーグルの腹めがけて拳を突き出す。


『はぁッ!!』


 鋭く突き出された拳。魔纏狼を身に纏った状態のノアの拳であれば、どんなに堅牢な城壁だろうが簡単に壊すことができる。


 しかし――――


『なっ!』


 ――――オーグルの肉厚な腹が波打つだけで、オーグルには痛痒一つ与えられない。


『イデデ……』


 痛いと言いつつも表情が微塵も動かないオーグル。


 あまりの出来事に呆然としてしまうノア。そんな絶好の機会を、オーグルは逃さない。


 オーグルが足を後ろに引き、思いきりノアを蹴る上げる。


『――があッ!?』


 肺から空気を強制的に出され、呻き声と空気が一緒に口を出る。しかし、痛みにもんどりうつ暇も、気を取られる暇もない。


 空中に投げ出されたノアに向かって、無数の泥の弾が放たれる。


(あの時の魔法か!)


 ノアは空中で体勢を整えながらこれを迎撃する。


(重い――ッ!! 距離が近いからか!? それとも、あの時は様子見だったのか!?)


 身体に当たるものだけを撃ち落としていくが、昨日よりも威力のある泥の弾はノアの手や足に小さなダメージを与える。小さなダメージとは言え、蓄積すれば大きな怪我や疲労になる。


(クソッ!)


 心中で悪態を付きながら、ノアは泥の弾を捌ききる。


『はあぁ――――ッ!!』


 泥の弾を捌きつつ、オーグルの上に落ちるように軌道修正をしていたノアは、オーグルが迫ると拳を振りかぶる。 


 しかし、オーグルもただノアの攻撃を待つばかりでは無い。


 右手に持った棍棒を振り空中にいるノアに叩き付ける。


『――クソッ!』


 空中にいては逃げることのできないノアは、振り上げた拳を棍棒に叩き付ける。一瞬の拮抗の後、ノアは後方に吹き飛ばされ、棍棒はひしゃげて吹き飛んでいった。


 空中で体勢を整えつつ、綺麗な体勢で地面に着地する。


 両者に初めて距離が生まれる。


 お互いの出方を見るために静かに睨み合う両者。そんな中でも、ノアは冷静に状況を分析しようと試みる。


(魔纏狼と同等の膂力を持っている。それに、魔法を使った遠距離攻撃も出来る。厄介だな……)


(馬鹿者。わしと同等なわけがあるか。ぬしがまだまだ力を引き出せておらんだけじゃわい)


(――ッ!)


 急にノアの思考に言葉を返され驚くノア。そこで、意識が一瞬内側に向いてしまう。


(馬鹿者! 集中を切らすでない! ちゃんと目の前の敵に集中せんか!)


 声の言葉にはっと我に返る。しかし、我に返るのが遅かった。目の前までいくつもの泥の弾が迫っていた。


『やばっ――』


 最後まで言葉を言い終わる前に、ノアに泥の弾が着弾する。いくつもの泥の弾はノアに直撃し、当たらなかったものは地面に当たり砂埃を巻き上げる。


 ノアの姿は、完全に砂埃に包まれた。





 ノアが魔纏狼を纏い走り去った後、レイジは一人オークの群れと戦っていた。


「はっ! どうしたてめぇら! 全然手応えねぇじゃねぇかよ!」


 クラウ・ソラスを縦横無尽に振り抜き、一刀にしてオークを斬り捨てる。


 クラウ・ソラスの白い炎がオークの肉を焼き、辺り一面に焦げ臭い匂いがたちこめる。


 聖剣を手にして日が浅いレイジではあるけれど、乱戦の心得もあれば剣の心得もあるのだ。自分の立ち位置も、攻撃のタイミングや離脱のタイミングも良く分かっている。だから、オーク相手であれば負けるようなことは無い。


(問題は、どれくらいの数がいるか、だな……)


 乱戦の心得があり、経験も数回程度はある。けれど、そのどれもが相手の数がはっきりしていた。今回のように相手の数が分からず、どこから湧いて出てくるかもわからないような状況だ。


「終わりの見えないマラソンだわな、こりゃぁ……」


 魔力や体力のペース配分の調整もできない。終わりが見えないことで、気丈に振る舞っていても内面に来るストレスは相当なものだ。それに、戦闘中である今の状況でも相当のストレスが精神に圧し掛かっている。


 ストレスは集中力を乱し、ときには取り返しのつかない失態を演じさせる。それが戦場では命取りになる。


 例え十把一絡げの敵であろうとも、隙を突かれて数で押されてはひとたまりもない。


 飛んでくる石礫(いしつぶて)をクラウ・ソラスで弾き、振り下ろされる剣を半ばから両断して、返す剣で今度は身体を両断する。


「範囲攻撃が使えりゃあなぁ……」


 一体一体相手をするのに疲れてきたレイジは思わずぼやいてしまう。


 別に、レイジが範囲攻撃を使えないわけでは無い。


 ノアは言っていた。この森には薬草や山菜があると。それに、昨日はこの森に薬草を採りに子供たちが来ていたのだ。つまり、この森は街の人々の立派な資源なのだ。


 その資源である森にレイジが炎の聖剣であるクラウ・ソラスで範囲攻撃をすれば、たちまち木々に燃え移り、更には延焼の恐れもある。そのため、消火の手段を持たないレイジは範囲攻撃を使うことができないのだ。


 使える能力はと言えば、近くの相手に火傷を負わせるか、熱風を生み出し飛来する矢や(つぶて)の軌道を変えるくらいだ。それくらいしか使えないので、他は全部レイジの持ち前の身体能力で対応している状況だ。


「さて、耐久レースなわけだが――――ッ!!」


 現状で後どれくらい敵がいるのかと周囲に目を向けたその時、レイジの死角から矢が飛来する。


 レイジはノアのように五感が優れているわけではないし、魔纏狼によって強化されているわけでも無い。そのため、死角からの攻撃には当たり前だが気付けない。


 今回気付けたのは運が良かったからとしか言いようが無かった。けれど、気付けたとはいえ無傷と言うわけでも無かった。


「クソッ……!」


 とっさにクラウ・ソラスから熱風を生み出したものの、狙いが少しそれただけで脇腹に矢が突き刺さってしまう。


 戦えなくはないけれど、痛みはちゃんとある。これで、継戦時間が確実に短くなった。


 レイジは矢を引っこ抜くと剣を構えなおす。その表情には焦りが見て取れる。


(まずったな……。応急処置をしないけないけど……)


 そんな時間を相手が与えてくれるわけがない。オークどもは先ほどよりも数を増やし、レイジを包囲してその距離を縮めていく。


「ははっ……! 絶体絶命、てか……?」


 剣を構えながら弱気を誤魔化すように笑うレイジ。


 しかし、この圧倒的な数の差は覆らない。弱気を押し殺すために笑うレイジを嘲笑うかのように、森の奥からは更にオークが数を増やしていった。


 状況は、最悪と言えた。


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