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纏狼のノア  作者: 槻白倫
第1章 迷宮都市編
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第5話 魔の巣食う森

おまたせしました。久しぶりの更新となります。

 魔纏狼を纏い、教えられた方角にひた走る。


 レイジは、最初は叫び声を上げていたが、段々と慣れてきたのか今は静かにしている。


 そうして、恐らくそうであろうと思われる森の前まで到着する。


 ノアはレイジを降ろし、魔纏狼を解除する。


「……お前、纏鎧士だったのか?」


 少しだけげっそりした顔でノアに問いかけるレイジ。


「うん。まだ、なったばかりだけど」


「まじか……」


 どうりで強いわけだよ、と先ほどあしらわれたことを思い出す。


 レイジも、纏鎧士がどれほど強いのかは理解しているし、その伝承は聞き及んでいる。が、滅多に見れない纏鎧士を、まさか見れるとは思っていなかった。


 だから、感動よりも驚きの方が強かった。


 しかし、今は驚いてばかりもいられない。


「まあ、ノアの魔鎧のことは後で聞くとしてだ……この森で合ってるのか?」


「うん、合ってるよ。微かに、匂いがする」


「匂い?」


「うん。ここに来た子、相当お母さんのことが大好きなんだね」


「は?」


 なぜ急に母親が好きと言う話になったのか分からないレイジは、疑問の声を上げる。


「男の子に、お母さんの匂いが少し付いてるからさ」


 そう言うノアは、少し羨ましそうな顔をしている。


 魔纏狼を操るようになってから、ノアの五感は強化された。魔纏狼に自身の五感を引き上げられたのか、それとも、五感を強化するまじないがかかっているのかは知らないが、人捜しをするうえで嗅覚が鋭くなっているのは、正直助かった。


 男の子はよく母親に抱き着いていたりしたのだろう。この森からは、先ほど会った母親の匂いが少しだけ残滓として残っている。けれど、元々他人の匂いだけあって、その残滓はかなり薄い。


 間に合ったか良かったものの、もっと時間がかかっていれば匂いと言う手がかりは完全に消え去っていただろう。


「急ごう。匂いが薄れ始めてきてる」


「……なるほどな。『摩天楼』じゃなくて、『魔纏狼』ってところか」


 天に届かんばかりの超高層の建物ではなく、魔を纏う狼。それが、ノアの魔鎧だ。


 レイジは、匂いを追うノアの後ろを付いて行く。


 ノアは迷いの無い足取りで森の中を突き進む。その後姿を見ていたレイジは、ここに来る前にノアに言われたことを思い出す。


(なるほどな。確かに、森になれてるわ……)


 今は薄暮時。しかも、森は木々が鬱蒼と生い茂っているので、平原よりもより早く夜が訪れる。そのため、今現在の森の中はとても暗い。そんな森の中を、ノアは躊躇いなく歩いて行くのだ。その姿を見れば、ノアが森の中の歩き方を熟知しているのが、嫌が応にも分かる。


 対して、レイジは少しわたわたしながらノアに付いて行っている。できる限りノアの踏んだ場所を踏んでいき、転ばないようにする。


 松明の一つでもあれば便利なのだが、生憎、松明になり得る程よい大きさの枝も、燃やしても良い布も持ち合わせていないのだ。


 光源の魔法もあるのだが、いかんせんレイジは補助系の魔法が得意ではない。そもそも、魔法自体あまり得意ではないのだ。


(目がなれるまで、このままかねぇ……)


 そう考えるも、実を言えば、レイジには光源を確保する方法はあるのだ。だが、光源として使うような代物でもないし、そんなことをしたら方々から怒られそうだ。


 そのため、レイジはノアの後ろを、気を付けながら付いて行くしかない。まあ、ノアの後ろに付いて行けば安全に進めるので、光源などは必要ないのだが、やはり、目の前が見えづらいと言うのは中々にストレスであるし、不安にもなるのだ。


 とは言え、光源は用意できない。


 レイジは、はぁと溜息一つ吐く。


(補助魔法……一つくらい憶えておくべきか……?)


 レイジは、自身に口を酸っぱくして補助魔法を覚えろと言っていた人物のことを思いだし、その通りだと、また溜息を吐いた。





 ノアの後ろを付いて行くこと十数分。ノアは急に立ち止まると、その場にしゃがみ込み茂みに身を隠す。レイジも、ノアにならいすぐさま身を隠す。


「なんかいたのか……?」


 小声でそう訊ねれば、ノアは口の前で人差し指を立てて、静かにとジェスチャーをする。そして、立てた人差し指を茂みの隙間に向ける。


 どうやら、ここから覗けということらしい。


 レイジは、ノアの指示に従い茂みの隙間から覗き込む。


 暗くて見づらいが、レイジは辛うじて隙間から見える景色を捉える。


 そこには、二足歩行であるく醜悪な顔を持つモノがいた。背丈は人と変わらず、けれど、腰が曲がっていることから、実寸は人よりもいくらか高いであろうと推測できる。装備は、みすぼらしいながらも胸当てから肘当て、果ては靴まで揃っており、その手にはくたびれた剣を持っている者、途中で折れた槍を持っている者など様々だ。


 その者たちは、少なく見積もっても十は確認できた。


 レイジは、覗き込む前より慎重に茂みの隙間から離れる。


「……亜人種か?」


「……多分」


 多分としか言えないのも、ノアは亜人種を見たことが無いからだ。ノアの居た村の森には魔物は出てきても、亜人種は出てこなかった。だから、ノアにも判断がつかないのだ。


「どうする? 攻撃してみるか?」


「いや、確証が無い……これで攻撃したら人間だったら……」


「まあ、ごめんなさいじゃすまねぇよな……」


 レイジも、目の前の者が何者なのか分からない。


「本も読んどくべきだなぁ……」


 レイジの呟きに、ノアも頷く。


 こういう時、事前に情報を知っているのといないのとでは初動が大きく変わってくる。今回は、何も知らない二人は相手がアクションを起こしてからではないと判断がつかないので、完全に後手に回ってしまっている。


「とりあえず、こいつらは様子見――――」


 だな、と続けようとしたとき、静寂を割く高い叫び声が聞こえてくる。


 瞬間、醜悪な者どもが声の方に駆け出す。


 ノアとレイジは、すぐさま立ち上がり醜悪な者どもの後を追う。


「やだ! こっち来ないで!」


「来るな! 来るなって言ってるだろ!?」


 向かう先から聞こえてくる声。その声の数に、二人は心中で舌打ちをする。


(一人じゃなかったのか……ッ!)


 確かに、母親は息子が森に行ってしまったと言っていた。が、息子一人でとは言っていないのだ。


 大方、友人と一緒に来たとかであろう。


 二人は、切迫した叫び声が聞こえてきた時点で、走る速度を上げていた。


 走りながら、ノアは叫ぶ。


「魔纏狼ぉぉぉぉぉおおおおおおッ!!」


 瞬間、走るノアを黒い靄が包み込み、一瞬の内に晴れる。黒い靄から姿を見せたのは、狼を模した漆黒の鎧を纏うノア。


 魔纏狼を纏い、一気に加速するノア。


(やっぱりかっけぇなあ、魔纏狼!!)


 魔纏狼を纏うノアを見て、興奮したように胸中で叫ぶレイジ。


(俺も、負けてらんねぇ!!)


 レイジは、ノアに負けじと足に力を込めて走る。


 走りながら、帯剣している剣の柄を握りしめる。だが、まだ抜かない。抜いてしまえば、目の前を走るノアを巻き込んでしまうかもしれないから。


 醜悪な者どもの間を駆け抜けると、目の前には小さなナイフを醜悪な者どもに向ける少年と少女がいた。


 二人とも涙を流しながら、必死に助かろうとしている。


 その光景を見た瞬間、ノアは一足跳びに二人の元に駆けより、物のついでと言わんばかりに二人の目の前にいた醜悪な者を殴り飛ばす。勿論、後のことを考えて、一応の手加減をしておく。


『大丈夫?』


 二人を背で庇いながら構えをとるノア。


「ひっ――!」


「やぁ……!」


 そんなノアの背中を見て、二人は安心するどころか、逆に恐怖で震え上がってしまっていた。


『え? な、なんで?』


 予想外の反応に、困惑してしまうノア。


 そんなノアに、遅れてやってきたレイジが苦笑をしながら言う。


「その見た目じゃ子供は委縮しちまうっての。二人とも、大丈夫だぜ。こいつは彼の有名な『纏鎧士』様だからな! 怖い奴じゃないぜ?」


 明るい口調でレイジがそう声をかければ、二人は恐怖の表情から一転して、安堵しきった顔になった。


「纏鎧士、様……?」


『うん、そうだよ』


 様付で呼ばれて、少しだけむず痒かったが、二人を安心させる手前自信ありげに頷くしかなかった。


 ノアが纏鎧士であると肯定すれば、二人はまるで憧れの存在に出会ったかのように目を輝かせた。


「おっとお二人さん、ちょいと下がっててもらえるか?」


 レイジがそう言いながら体験した剣の柄をいつでも抜けるように握りしめる。


 そう。少しばかり和んでしまったが、今は戦場に居るのだ。余裕を取り戻すのは良いが、浮かれていてはいけないのだ。


 二人は、目の前にいる醜悪な者どもを睨み付ける。


「なあ、二人に訊きたいんだが、こいつらって何?」


「お、オークだよ!」


「オーク……なるほどな……」


 その名前を聞き、レイジは納得したように頷く。


「因みに、悪い奴?」


「悪い奴よ! 町を襲って人を食べちゃんだもん!」


『じゃあ、野放しにはできないね』


 二人の言葉で方針は決まった。醜悪な者――オークは、人里に降りてきて人を喰らうのだそうだ。


 であれば、さっきのオークはこの二人を食べようとしていたということだ。


『倒すよ、レージ』


「ああ! ちゃっちゃと片付けて、ちゃっちゃと帰ろうぜ!」


 その声が幕開けの合図となったのか、今までノアを警戒していたオークたちが一斉に二人に向かって来る。


「ノア! 俺の後ろに!」


 言いながら、レイジは前に出る。


 ノアは、一瞬だけ逡巡したが、すぐさま後ろの二人を庇えるように立ち、追撃をできるように身構えておく。


 レイジは右足で踏み込むと、帯剣した深緋(こきひ)色の剣を抜き放つ。


「輝け! クラウ・ソラス!!」


 抜き放たれた深緋色の刀身から赫灼(かくしゃく)に輝く緋炎(ひえん)が放たれる。


 深緋色の剣――クラウ・ソラスから放たれた炎は、まるで生き物のようにうねりながら、指向性をもってオークどもを喰らっていく。


 数体を喰らうとその炎は空中に霧散し、辺りに夜の暗さが戻ってくる。


 めらめらと燃え盛るクラウ・ソラスを構えるレイジ。


「さあ、来るなら来い! ただし、火傷じゃ済まねぇぞ!!」


『凄い……』


 クラウ・ソラスを操るレイジを見て、ノアは感嘆の声を上げる。


 森を燃やさないよう、繊細な調節のされた炎の威力もそうだが、炎を操りながらも冷静に攻撃範囲外のオークに注意を向けるその技量も凄かった。


 肉弾戦がメインのノアとは違い、中距離攻撃と近距離攻撃を合わせもつクラウ・ソラスを操るレイジ。


 そんなレイジは、中距離攻撃をしながら範囲外のオークを警戒して見せたのだ。炎を操る技量も、敵の位置を把握する技量も高い。


 恐らく、そうとう鍛錬を積んできたのだろう。


 その努力も、今の実力も素直に尊敬に値するものだ。


(ここは、レイジに任せて大丈夫かな)


 レイジの技量は分かった。レイジなら安心してみていられる。クラウ・ソラスを使うことによって、光源ができた。そのため、夜の森で戦う不利は無い。であれば、レイジがこんな程度の低い相手に負けるとも思えない。


 であれば、ノアは二人を守ることだけに専念すればいい。


 魔鎧はその防御力も攻撃力も優れている。最悪、自身が盾になればそれだけで大抵の攻撃は弾ける。


『レージ、攻撃は――ッ!?』


 任せた、と言おうとした直後、嫌な予感がして二人の後ろに回り込む。レイジや二人に背を向ける形で背後を警戒する。


「どうした、ノア!」


『何か、来る……ッ!』


 二人とも警戒を解かないままそれぞれの前方を警戒する。


 そして、異変はすぐさま訪れた。


 木々の隙間から突如として飛来する泥の玉。


 単なる泥の玉では無い。魔力を帯びていることから、この泥の玉が魔法であることが分かる。


 ノアは四肢の先に力を集める。瞬間、両手両足に黒靄が発生する。


『ハァ――ッ!!』


 黒靄を纏った四肢で泥の玉を弾く。


 殴る、蹴る、逸らす、弾く。動きに連続性を持たせ、一瞬の無駄も無く泥の玉を弾いていく。


 無数に飛来する泥の玉を、ノアは後ろに行かないように全て迎撃する。後ろには少年と少女に戦っているレイジがいる。絶対に後ろに通す訳にはいかないのだ。


「どうしたノア!!」


『レイジは目の前の敵に集中してくれ! そっちは任せた!!』


「分かった! さっさと片付けて、そっちに加勢する!」


 レイジは、ノアの方に何かがあったのを理解し、目の前の敵をすぐさま片付けようと考える。


 が、しかし。


「な――っ!?」


 目の前の森の奥から、更にオークが姿を現し始めた。いったい、この森のどこにそんな数のオークがいたのか、ぞろぞろと湧いて出てくるオークたち。


「おいおい、流石にこれは……」


 あまりの数に絶句するレイジ。


 後方では謎の襲撃を受けるノア。前方ではぞろぞろと出てくるオークども。


 状況は、かなり切迫したところまで来ていた。


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