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纏狼のノア  作者: 槻白倫
序章
2/28

第2話 魔物

二話連続です

 朝食を食べ終わりノアはお皿を流しに下げると、仕事道具の入ったウェストポーチを腰に巻く。


「それじゃあ、俺は仕事に行ってくるね」


「うん。行ってらっしゃい」


「いってらっしゃい。気を付けてね~」


「はい。行ってきます」


 二人に見送られ、ノアはカレンの家を出る。


 見慣れた光景の中、村唯一の大門まで向かう。


 時折、村人にかけられる挨拶にノアは気さくに返す。皆、ノアが幼いころからの顔見知りだ。


「あら、ノアちゃん! 今日もお仕事?」


「うん。今日間引きの日だからね。森に行ってくるよ」


「あら~! それじゃあ気を付けていくのよ?」


「ありがとう」


「あ、そうだ! ノアちゃんこれ持って行きな!」


「それじゃあ、これも持って行きな!」


「うんじゃあうちのも持って行きな!」


「あ、ありがとう」


 そう言って食料や擦り傷に効く薬草、使い捨ての投げナイフなどを貰う。


 ノアは間引きの日には必ず門を超える前に何かしらもらっているのだ。毎回いろんなものを貰うのはしのびないのだが、いつも何かしらの役には立つしそれほど稼ぎもいいわけではないから、節約しなくてはいけないので買う手間が省けて助かっている。


 だから、遠慮はしつつも貰っているのだ。


(今日は食料が多めかな……)


 お昼にカイルたちにおすそ分けしようと考えながら貰ったものをウェストポーチにしまう。ポーチは毎回こういうことがあるので隙間を作っているのだが、それにもかかわらず入りきらないので、食料を優先して入れて薬草などはポケットなどに入れる。


 お裾分けをくれる以外にも、いろんな人に声をかけられながらも、そうこうしているうちに門の前に到着する。


 すると、門の手前にいる人物に声をかけられる。


「おっ、来たなノア」


「カイルさん。おはようございます」


 声をかけてきたのはカレンの父親のカイルであった。


「おお。おはよう!」


 カイルは挨拶をしながらノアの頭を乱暴にガシガシと撫でる。撫でると言うよりも髪をぐちゃぐちゃにかき回すと言った方が表現的にはあっているのだが、本人としては頭を撫でているつもりなのだ。


 髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回されるのももう慣れたもので、ノアは照れ笑いを浮かべながらもそれを受け入れる。髪型とかに頓着しないノアは別に髪が乱れようとも気にしないし、なによりカイルに頭を撫でられるのは嫌いではない。


 ノアとゼムナスの両親は、ノアが物心つく前に魔物によって殺されている。そのため、ノアは両親の愛と言うものを知らない。実際には愛情はもらえていたのだろうが、小さかったノアはそれを覚えていないのだ。


 だからノアはカイルが頭を撫でるのを止めない。これが父親に頭を撫でられる感覚なのかなといつも思っている。


 黙って撫でられたままのノアに、カイルは感激したように言う。


「ノアは優しいな~! 最近じゃあカレンの奴は髪が乱れるから嫌だっつって撫でさせてくんねんでよ~!」


 カイルの言葉に、ノアは苦笑する。


「女の子はおしゃれに気を使いますから……」


「かーーっ! あいつももうそんな年か! 時が経つのは早いっつうが、納得だな~。俺も年取るわけだ!」


 がははっと豪快に笑うカイルに、少し離れたところにいた仲間が声をかける。


「カイルさん! そろそろ出発ですぜ!」


「おう! 了解した!」


 仲間に返事を返すと、ノアの頭から手を離す。


 手が離れていくことを少しだけ名残惜しく感じながらも、顔には出さない。


「そんじゃあ行くか!」


「はい」


 カイルはノアの返事を聞くと満足げに頷き仲間を伴い門を出る。ノアもその後ろに続いた。





 間引きは近くの森まで行き、ペアに分けて行う。この森ではそこまで強い魔物は出ない。それに、魔物よりも動物の方が多いほどだ。そのため、少数で行い効率性を上げているのだ。


「カイルさん」


「おん? どうした?」


「俺、今回は一人でやってみたいんだけど、いいですか?」


 前述のとおりこの森には魔物が少ない。だから少人数でも問題は無い。しかし、単独行動となると話は別だ。


 助けに入る仲間がいないと言うことはもしものことがあった時に一人でどうにかしないといけないと言うことなのだ。


 最悪の場合、深手を負って一人ではどうしようもできずに死んでしまう可能性もあるのだ。


 それが分かっているがゆえにカイルはノアの提案に渋い顔をした。


「別に、焦ってこんなこと言ってるわけじゃないです。ただ、自分一人でどこまでできるか知っておきたいんです」


「むぅ……」


 確かに、ノアが焦りを感じてこんなことを言いだしているのではないことは、大怪我を負ったあの日の目と比較すれば一目瞭然だった。


 ノアが大怪我を負った理由はゼムナスが『纏鎧士』になったからだ。


 ゼムナスが『纏鎧士』になり、早く追いついて自分も『纏鎧士』になりたいと思ったからだ。


 そのため、無茶をした。一人で間引きができると言ってカイルの言葉も聞かずに一人で行ってしまったのだ。結果、この森では珍しく魔物の群れに出会ってしまい、何とか勝ったものの大怪我を負ってしまったのだ。


 カイルは止められなかった自分にも責任があると思っている。しかし、責任云々よりもあの日のことを恐怖していた。


 もし戦闘音に気付いて駆けつけていなかったら、ノアは死んでいたかもしれないのだ。カイルにとって、ノアとゼムナスは親友の忘れ形見であり、自分たちの息子のようにも感じている。だから、二人には危ないことをしてほしくなかった。


 だから、渋い顔をするほかなかった。


 しかし、成長するのには多少の無茶は必要だと言うのは分かるのだ。自分も、昔は同じような無茶をしたのだから。


 それに、今のノアであれば、実力的には問題ない。


 ノアは、あの日よりも格段に強くなっているのだ。


(ここで止めたら、俺の過保護が過ぎるってもんか……)


 カイルは、やれやれと言わんばかりに後頭部を掻く。


「分かった。だけど、無茶だけはするなよ?」


「ありがとう。うん。無茶はしないよ。カレンにも言われてるし」


「そうか。それなら安心だ」


 あの大怪我の時、ノアを一番心配したのはカレンだ。そのカレンに無茶をしないと約束したのならば大丈夫だと確信したのだ。


「太陽が真上に来たらいつものところにな」


「うん、分かってる」


 そう言うと、ノアは自分の担当範囲に向かう。


 その後姿を心配そうにカイルは見送る。


 やはり、大丈夫であると分かっていても、自分の息子も同然の子供を危険にさらすのは心配なのだ。


 そんなカイルに仲間の一人が声をかける。


「大丈夫だよカイル。ノア坊は強ぇからよ」


「そうだよ! もう俺らよりも強いんじゃねえか?」


「それはあるな。俺もう勝てる気しねえもん」


「いやいや! まだまだ若いもんには負けねえよ!」


「どうだかな。お前じゃあ精々持って一分くらいだろ」


「ていうか、実力的にはもう村一番なんじゃねえか?」


 ノアの実力をあれやこれやと言い合い、しまいには勝手に村内実力者ランキングなどと言ってあれやこれやと言い合う始末。そんな男たちを苦笑しながら、カイルと一番付き合いの長い仲間のソーヤが言う。


「まあ、俺の意見も大方皆とは同じだよ。ノアは強い。大丈夫だ」


「んなこたあ分かってるよ。しかしなぁ……」


 ガシガシと自身の頭を乱暴にかき、どうしたもんかといった顔をする。


「あの頃みてえに焦って無茶してるわけじゃねえのは、目ぇ見りゃあ分かる。けど、強い奴ほど無茶しちまうんだよ。俺はあいつが、これからもその強さゆえに無茶して危険な目に合うんじゃねえかって……心配なんだよ……」


「ははっ! お前は心配性だなぁ……いや、過保護なだけか?」


 からかうようなソーヤの言葉に、カイルは少しだけ頬を赤くしてそっぽを向きながら言う。


「あいつらは、俺の息子みてえなもんだ…………いや、息子も同然だ! 過保護になって何が悪い!」


 開き直るように言うカイルにソーヤは快活に笑う。


「悪かあねえよ! むしろあの二人の忘れ形見だから大事にしてるって、ダチの息子扱いしてるようだったらぶん殴ってるところだったぜ」


「んなこたあ言わねえよ! 誰があいつら育てたと思ってんだ? あいつらはもう俺の息子だよ」


「だったら、その息子を信じてやってもいんじゃねえか? 過保護になるのも良いが、ノアももう十四だ。もう少しすりゃあ、十五にもなる。多少の無茶くらいは許してやれよ。それに、無茶が通らねえほど弱い奴なら、間引きの手伝いなんてさせないだろ?」


「むぅ……」


「それに、カレンちゃんと約束したんなら、危ないことはしねえだろ。ノアもそこら辺は分かってるさ」


 おどけた調子で言うソーヤ。しかし、すぐに少しだけ真面目な表情になる。


「それに、兄貴がアレ(・・)じゃあ、弟としては多少の無茶はしたくなるさ」


 その言葉にカイルは納得する。しかし、納得するからと言ってノアに無茶をしてほしいかと言われればそうではない。


 理性と感情がせめぎ合い、カイルは難しい顔をして「むぅ」と唸る。


 そんなカイルの様子にソーヤは苦笑する。


「おまえも、ここで過保護を卒業するんだな。過保護すぎると嫌われるぞ~」


「なにっ!?」


「それが嫌なら少しは容認してやれ。ほれお前ら! 仕事すんぞー!」


 ソーヤの言葉にそれぞれ返事をするとそれぞれの担当範囲に散っていく。


「ほれ。カイルも行くぞ」


「むぅ……わかった……」


 渋々と言った様子のカイルに、ソーヤはまたしても苦笑するしかなかった。





 カイルたちと別れ一人森に入っていったノア。


 自分の狩場に着くと、ノアは周囲を見渡す。


(目視できる限りじゃ何もいないな……)


 目視できる限りと言うが、周囲には木々がひしめいておりあまり見晴らしがいいとは言えない。そんな中で目視できる範囲と言えばたかだか四、五メートルが関の山。うまく木々の隙間から遠くを覗けたとしてもかなり限定された情報しか手に入らないだろう。


 まあ、それもいつものことなので今度は耳を澄ませる。


 すると、風にそよぐ草木の擦れる音とは違う、重みのあるものが雑草を踏みしめる音が聞こえる。


 周りに気を配るのを忘れることなく、ノアは音のする方を見る。


 すると木々の合間から姿を現したのは、犬のような狼のような生物であった。


 「ような」と言うのもその生物の外見がどちらの特徴もあり、そのどちらの特徴にも当てはまらないものがあるからだ。


 犬のような狼のような生物の額からは赤黒い捻じれた角が生えており、肩甲骨に当たるところからは幾本もの赤黒い棘が生えている。そして、尻尾からも同じような赤黒い棘が幾本も生えていた。


 四肢も異常に発達しており、これでもかと言うほど筋肉が隆起している。目も獰猛に爛々としているが、その奥には少なくない知性を宿していた。しかし、その知性はある一点にのみ向けられており、他のことには向けられていなかった。


 そんな異形ともいえる様相の者がノアの目の前に現れた。


 その者からは普通の動物からは考えられないほどの魔力が溢れ出ていた。そう、今目の前にいるものこそが世を脅かす忌まわしき存在――――魔物である。


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